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11.行商人がやって来た

ここのところ、朝晩がぐっと冷え込むようになって来た。

森の木々も鮮やかだった葉はだいぶ落葉し、地面の落ち葉はくすんだ茶に変わった。


冬がもうそこまで来てるんだなぁ。

洗った服やシーツを干した後、冷たくなった手に息を吹きかけた。


「よし、今日も頑張るぞー」


新調した冬用のブーツとコートは気分を上げてくれる。

ミルク色のポンチョコートは驚くほど軽くて温かいし可愛い。

あのデカい羊は良い毛をしているみたいだ。


自分で買ったのはまだこの2つだけど、有難いことに村の人にお下がりで貰った服が数点ある。

貰った服もなんだかファンタジーっぽさは残しつつ垢抜けたデザインの物が多い。


うん、ファッション業界で無双した渡り人がいるような気がする……。

どこかに私が無双出来る隙間は残されていませんか……?




羊の頭突きを2回に1回は避けられるようになって来た頃、村に人がやって来た。


「ご無沙汰しておりました。いやぁ、少し前に腰をやってしまいましてね、なかなか来れんかったのですよ。しかしこちらの羊毛はうちの大切な看板商品でして、老体に鞭打ってやって参りました」


そう言って大きな声で笑うのは50代ほどの貫禄のある髭の男だ。

村に着いて真っ先にオリヴァーさんの家に来たらしい。


普通だ!普通の顔だ…!!


オズワルドという行商人は日に焼けた肌に高い鷲鼻が特徴的な、失礼ながら美形とは言えない顔をしていた。


こちらの世界に来てからというもの、森の人としか接する機会がなかったので久々に見る普通の顔に感動を覚えてしまった。


やはり美女に入れて頂くお茶は格段ですなぁとナタリーさんの入れたお茶を飲みながらまた笑う。

人が良さそうに感じてしまうのは、たぶん商人としての腕が良いのだろう。


「そちらのお嬢さんは人族ですかな?」


こそっと覗いていたつもりだったのだが、ばればれだったようだ。

オリヴァーさんが苦笑している。


「ミオリといいます。森で保護された渡り人なので私の家に来ました」


「ほう、渡り人ですか」


オズワルドさんの目がキラッと光った気がする。

……私は特に知恵もアイデアも持たない渡り人ですよ。


オズワルドさんは私に様々な質問をして来たが、商売の種になりそうな案を私が持っていないと知ると残念そうにしていた。

というか、私が思い付く程度の物は先に来た渡り人達がもうやってるんだよ。泣ける。



……私もとても残念です。



外で待機していたオズワルドさんの護衛の冒険者にも会った。

少し年上の赤毛の青年と、三十代くらいの背の高いこげ茶色の髪の男性だ。

2人共鎧を身につけて帯剣している。


「ここスゲーな……キンキラした奴ばっかで目がやられるわ」


ジークという赤毛の青年が言った。

彼は細い目とそばかすが特徴の顔立ちである。

背が高いロブさんは前にも来たことがあるらしく、軽く笑って頷いている。

濃い眉と垂れ目が優しそうな印象の顔立ちだ。


落ち着く……!!

一緒にいてすごい落ち着く!

彼らは私と同じモブ顔だ。会いたかったよー!


「お前こんなとこによく居られるなぁ」


……その顔でと言いたいのかね?


「美男美女コンテストに迷い込んだ一般人みたいな気分で暮らしております」


みんな優しいから暮らしやすいけどね。

私の応えを聞いてジークが大笑いする。


「最初はこっちの世界の人ってみんなこの村の人みたいなのかと思ったけどね」


「んなわけねーだろ。怖ぇーわ」


ジークとロブさんは色んな話を聞かせてくれた。


ラスタナ村から1番近い人族の街でもここから馬で3日かかる上、森は迷いやすく魔物も出て危険なので行商人も滅多に来ないらしい。

しかしここの羊毛は上質で人族の街で人気があり、オズワルドさんは長年通い続けて専属契約を勝ち取ったとか。


私のコートも人族の街だと3倍以上の値段がするらしい。

現地価格ってお得だね。


冒険者になるには街にあるギルドで登録料を払い、簡単な試験を受ける必要があるらしい。


「お前冒険者になりてーの?」


ジークの問いに私は少し考える。


「なりたいというか、必要性かなぁ……?

ずっとここでお世話になるわけにもいかないだろうし、そのうち帰る方法を探したいなって思ってて」


最悪、帰れなくても生きる為には仕事が必要だし。

ここでの暮らしは楽しいけれど、たぶんお客のような扱いを受けているからだ。

ずっと甘えているわけにもいかないはず。


「あと他の渡り人にも会ってみたいな。ジークとロブさんは私の他に渡り人の居場所って知ってる?」



『…………』



「……いや、知らないな。あちこちにいる程多くはないからね」


「……俺も」


少しの間を置いてロブさんとジークは言う。

一瞬、2人の顔が曇った気がしたのは気のせい?

確か災いの人って言われる場所もあるんだよね。

そのせいなんだろうか。


「それよりさ、魔法なしで冒険者になりたいんなら武器で戦う訓練しとけよ」


「そうだね。何がいいだろう」


「小柄だし腕力無さそうだから片手剣か短剣あたりか。ボウガンも悪くないと思うけど前衛がいてこその武器だしなぁ」


小柄かぁ。日本だと平均身長なんだけどね。


「あとこの森の魔物は初心者には強過ぎるから絶対1人で森に行くなよ」


「それは村の人にも何度も言われてるよ」


臆病な私はラスタナ村に来てからは一度も森に出ていない。

だって、人食べる熊が出るよって言われてる山に行ける?

私は無理だ……怖いもん。

猟銃持ってても無理かも……あれ?

もしかして冒険者に向いてない?



「新人ほど武器持つと無茶するんだ。ちゃんと他人の忠告聞かないと死ぬからな」



了解であります。


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