4-23.令嬢の替え玉5
夕食の時間、ヴァルドとジュストさんは戻って来なかった。
ヴァルドは狩りだけどジュストさんはどこに行ったのかな。
ルシアンさんは行方は知らないけど心配ないと言う。
作戦中に無断で出掛けてるっておかしいんだけど……裏があるタイプには見えなかったけど何か事情があるのだろうか。
「せっかくお風呂あるのになぁ」
「無事に終わったら入る時間あるかも知れないわよ。さくっとやっつけちゃいましょ」
「そう出来るといいけどねぇ」
襲撃に備えて悠長に入浴は出来ないのでお湯で身体を拭くだけになった。
深夜になり灯りを消すと2階のマルティナの部屋にルッカ達と集まり、二箇所ある窓の脇に2人ずつ待機する。
ルシアンさんとドニさんは正面玄関の扉の脇だ。
緊張から眠気は全くないけれど、息を潜めてただ待つだけというのは精神的にはよろしくないな。
キシ、と窓枠が軋む小さな音がした。
続けて木製のブラインドが開いて月明かりが差し込んだ次の瞬間、派手な音を立てて蹴破られた窓から2人の人影が踊り込んだ。
ギンッ!!
気合いと共に振り抜いた剣は相手の短剣に弾かれた。
同時に放ったアンの蹴りも躱される。
2人からの同時攻撃をいなすのは簡単に出来ることではない。
これだけで昼間の連中とは全く違う相手だとわかる。
短剣を持っていない方の拳で顎を狙って来たので腕でガードして後ろに跳んだ。
私を追うように踏み込んだ敵をアンの拳が横から狙う。
顔を狙った一撃は避けられ肩を掠め、敵は私を狙うのをやめて一度下がって私達から距離を取った。
……腕痛いし。
重い拳を受け止めた腕が熱く痛む。
2人掛りなのに強い……私だけだったら速攻で負けてるだろうな。
殺さないようにとか考えるレベルの相手じゃないわ。こちらが殺されないように全力で挑まないといけない。
暗い部屋の中で月明かりで敵の姿を確認する。
黒い服、黒い覆面。見た目では性別すらもわからないけど拳の重さと背丈からして男だろう。
「マルティナを渡せ」
一度だけ低い声でそう言うと再び覆面男が床を蹴り、私に短剣を投げた。
キンッ!
危なっ!?
咄嗟に剣で弾いたけどまぐれ当たりだ。
刺さっててもおかしくなかった。
弱い方から片付けることにしたのか覆面男の攻撃は私に集中している。
次々と繰り出される攻撃を何とか受け流すのが精一杯だ。
肘打ちを躱してバランスが崩れ、その瞬間に重い蹴りが横腹に入って吹っ飛んだ。
「ミオリ!」
アンの叫ぶ声が聞こえる。
すぐに立ちたいのに蹴られたダメージが大きくて身体が動かない。
うう、息が浅くしか吸えない……痛くて苦しい。
ごめん、アン頑張って。ちょっとだけ協力出来たから。
追い詰められると鼠も猫を噛むんだよ。
いや現場は見たことないけど。
私は吹っ飛ぶ直前、覆面男の太腿に剣先を刺した。
致命傷には程遠いけど、たぶん痛いとは思う。
バン!と扉が開くと共に部屋が明るくなった。
扉から駆け込んだ人物がアンとやり合っていた覆面男と幾度か打ち合い、その剣で相手の胸を貫いた。
部屋に静けさが戻る。
魔法で照らされた部屋の床に転がっているのは覆面男2人と私だけだった。
……誰もやられてなくて良かったけど情けないな。まだ起き上がれないのよ。
『ミオリ!』
ルッカ達が心配そうに駆け寄って来る。
アンが私の体をそっと起こし、ルッカが辛そうな表情で回復呪文を唱える。
「……来るの遅いですよ」
「すまない……」
血の滴る剣を握るジュストさんは私を見て苦しそうな顔をした。
びっくりするくらい強いし……何でいなかったのか話して貰わないとな。
階段をばたばたと走る音が聞こえる。
「もう終わってる?うわ、ミオリ大丈夫?」
ルシアンさんとドニさんが部屋に駆け込む。
のんびりとした口調に危険が去ったことを感じて安堵した。
回復呪文のおかげで痛くて苦しかった呼吸が楽に出来るようになって来た。
「あっちはルッカが倒したの?」
うう、喋るとまだ脇腹が痛い。肋骨は無事かな。
「ヤマトと2人掛りだけどね。痛いならまだ喋らないで」
「俺は大して役に立ってないけどな……まだまだ弱いのが分かったわ」
「それ私も。ヤマトは倒れてないだけ私よりマシだよ」
「俺もやられててもおかしくなかったけどな。あんま喋るなって」
心配そうなヤマトに笑みを返してから私を膝に乗せてくれているアンを見上げる。
「怪我してない?ごめんね途中で役立たずになっちゃって」
アンの目にぶわっと涙が溜まった。
「うまくフォロー出来なかった私のせいでしょ!なに人のこと気にしてるの!」
「違うよアンのせいじゃない。私が弱いからだよ」
後で反省会やろうね、と冗談ぽく言うと涙目のままアンが笑った。
「ミオリの体が良くなってからよ」
そうだね。
ジュストさん達と話すこともあるけど少し休憩したいな。
「みんな無事で良かった」
「……ミオリは無事とは言えないよ。まだ動けないんでしょ」
回復呪文を二度掛けてけれたルッカが辛そうに言う。
「まぁそうだけど楽になったよ。ありがとう」
「もっと効き目があるやつ使えたらいいんだけどね」
そう言いながら私をそっと抱き上げて立ち上がった。
「先にミオリを休ませます。話は後からしましょう」
ルシアンさん達にそう言ってから泊まる部屋のベッドへ運んでくれた。
アンが甲斐甲斐しく靴や剣も外してくれる。
大袈裟な怪我人扱いが少し恥ずかしいけど、回復呪文が効いてるのか酷く眠い。
「ちょっと寝るね」
「うん、おやすみ」
頬にルッカがキスをして、私は安心して寝ることにした。
疲れたわ!




