4-20.令嬢の替え玉2
「王都までの道中、まずお嬢様と同じ金のお髪をお持ちのヴァルド様にはお嬢様のように振る舞って頂きます」
やっぱり囮なんだな。
「一応理由をお伺いしてもいいですか?」
「旦那様はこの機会に不穏分子を排撃しておきたいとのお考えでして。お嬢様に害を及ぼそうとする輩は駆逐せよとの命令ですので様々な策を考え依頼に至りました」
……侯爵様の娘への愛が怖いな。
政敵とか商売でのライバルとか色々な形の敵がいそうだな。
「普段と同じように護衛をしっかりと固めていればお嬢様に危険が及ぶことはございません。しかしそれでは敵を捕らえるのも難しいのです」
旅路では人のいない街道も長く通ることになる。
敵が狙うには絶好の機会だろうが、マルティナ本人を危険に晒すわけにはいかないので替え玉を使おうということになったらしい。
「実は昨年からお嬢様の発案で始めました事業の収益が上がると共にお嬢様に脅迫状が届くようになりまして」
あらま。物騒だね。
「何始めたんですか?」
本人を見て尋ねるとマルティナが得意げに胸を張る。
「ふくよかな紳士淑女に向けたプラスサイズ専門の服飾店ですわ」
なるほど。
「染料を販売する商人と契約する際に少し他所様と揉めてしまいまして。こちらは商人の言い値を飲んだだけですのに契約を横取りされたと思っていらっしゃる方がいるようですの」
困りましたわねぇと頬に手をやり話すマルティナは不敵に笑っている。
いい根性をしてそうだ。
ふくふくして一見優しそうなのに腹黒いとか素敵だわ。令嬢はこうでないと。
余談だが一人娘のマルティナの結婚相手は婿に入る形となるらしい。
ヴァルドと私達は騎士の他に見えない戦力を付けられて侯爵家の馬車で最短のルートを行く。
マルティナは護衛をしっかり付けて目立たない馬車で日数は余分にかかる別ルートを行くそうだ。
つまり私達の仕事は襲ってくるかも知れない奴らを誘き出して捕らえるってことよね。
護衛ではなく囮と捕縛が任務だったけど乗りかかった船だ。やり遂げてみせましょう。
「出発は2日後です。どうぞ宜しくお願い致します」
執事がそう締め括り、依頼についての話し合いが終わった。
◇◇
長い金髪を綺麗に編み込んで結い上げ、桜色のドレスを着たヴァルドはどこから見ても良家のお嬢様だ。
「可愛いねー」
「動きにくい」
可愛い顔がとても不満そうだ。好きにしろとは言ったものの、まさか着せ替え人形にされるとは思っていなかったらしい。
「駄目よミオリ。お嬢様にそんな話し方しちゃ」
そう言いながら悪戯っぽく笑うアンは白のブラウスと黒のロングスカートというメイドスタイルだ。
私も同じ格好をしている。
戦闘になった時には脱げるようにスカートの下はタイトなズボンを履いているので少々暑い。
「では騎士の皆様、よろしくお願い致しますね」
アンがそう言うとヤマトとルッカを含めた4名が困ったように笑った。
ヤマトとルッカは騎士の制服姿だ。
2人とも背が高いからよく似合っている。
他の騎士と同じように2人は馬で行くらしい。
2日間で乗馬マスターしたって凄くない?
船に乗るまで馬車の前と後ろに二名ずつ騎乗した護衛が付くらしい。
出発前に全員で軽い挨拶をした。
ちなみに御者のおじさんも戦力になる人物らしい。
「さぁお嬢様、参りましょうか」
言いながらヴァルドに微笑むと不服そうな視線が返って来る。ごめんて。
早めに敵が出てくれるといいね。
二頭立ての立派な馬車に私達が乗り込むと馬車はゆっくり走り出した。
さて、敵は現れるかな?




