4-19.令嬢の替え玉1
そこは白い壁とエメラルドグリーンの屋根、四方に円筒形の塔を持つ美しい豪邸だった。
「あなたですの?私の身代わり役って」
通された豪奢な客室で対面した少女が不機嫌そうに言う。
波打つ絹のような金色の髪、新雪のような白い肌、明るい若草色の目に薔薇色の頬と唇。
ある一点を除けば美少女と言えるのだが……
「貧相ですわね。全然似てないじゃない」
ぷくぷくとした手で扇を顔の前に広げてヴァルドを見るドレス姿の少女は少々ぽっちゃり……いや、まぁまぁレベルが高い我が儘ボディだった。
◇◇
少女と出会う数時間前、私達は街の冒険者ギルドで依頼を物色していた。
最近ヤマトがCランクになった。
追いつかれて悔しいので私は近いうちにBになってやると意気込んでいる。
依頼は危険度が低い方がいいなと考えながらボードの文字を頑張って解読していると後ろから声が掛かった。
「お前ら、仕事探してるのか?」
振り向くと頬に傷のある40代程の目つきの悪い男が立っていた。
堅気に見えない人相をしているが、腕にギルド職員の証である腕章を付けている。
「ちょいと訳ありな依頼があるんだが…話を聞く気はあるか?」
「聞いてから断るとかも出来ます?」
「構わん。とりあえず聞いて判断してくれ」
それはとある上位貴族からの依頼だった。
令嬢の婚約発表を前にして案じ事がある為ギルドに内密で依頼があったという。
『王都までの護衛任務。4〜5名希望。若い女性が混ざっていることが条件』
「ざっくりし過ぎてません?それに貴族ならお抱えの騎士とかいると思うんですど」
「事情があって詳しくは当事者にしか話せないんだと。危険度はそれほど高くないと言っていたが、どこまで本当かは不明だ」
うーん……謎過ぎて怖いんだけど。
「金髪の若い女が混ざっていると尚良いんだと」
視線がヴァルドに集まる。
ふむ、金髪に用があると。令嬢の護衛で金髪女子が必要って、もしかして囮作戦とかやるの?
「どういうことなんだろうね?」
この街から王都までの道のりは馬車で3日走り、そこから船で2日ほどかかるそうだ。
時間がかかる上に護衛の間はヴァルドに乗れない。
依頼料は悪くないが、発生する手間を考えると進んで受けたいとも思えない。
「詳細が不明だからここ数日連続して断られててな。少し困ってるが好きにしていいぞ」
「どうする?」
「私は受けなくていいと思うけど。依頼内容に不明点が多くて誠意がないわよね」
「でも依頼料は悪くないよな」
「かかる時間を考えると少し面倒だね」
私が尋ねるとアン、ヤマト、ルッカがそれぞれ意見を口にする。
「ヴァルドはどう思う?」
「お前達の好きにしていいぞ。急ぐ理由もさほどないしな」
世界樹を植えて回る方が重要案件だけどね。
少し話し合った結果、受けることにした。
護衛任務って初めてだし経験しといても良いかという結論に至ったのだ。
そして冒頭の対面シーンへと戻る。
◇◇
もちもち、むちむち。色白だから大福みたい。
今ご機嫌は斜めみたいだけど、大福がぷんすこしているみたいで全然迫力はない。
私が彼女のメイドだったならば「素材が勿体ないだろがー!」と叫んで食事と運動の改善に勤しむかも知れないけど、たった数日間の雇われの身だ。彼女を美ボディにすることは叶わない。
それに健康が少し心配ではあるが、これはこれで需要があるはず。可愛いし好きな人にはたまらんタイプだと思うの。
「騎士がおりますのに冒険者などどうしてお父様は雇われたのかしら」
ふっくら美少女マルティナ・バラジュールはこの豪邸の主人であるサイモン・バラジュール侯爵の愛娘だ。
有り余る財力で可愛い娘を可愛がり過ぎた結果、娘は大福になったのかも知れない。
「それにしても今日は暑いですわね。ジェラ、お茶を」
マルティナは我が儘ボディの為か暑さに弱いようだ。
頬が紅潮しているのは怒っているからではなく気温のせいらしい。ドレス暑そうだしね。
マルティナがソファに腰掛けると氷の入ったグラスのミルクティーをメイドが手渡す。
上位貴族の屋敷だけあって氷魔法を使える人間も雇われているみたいだ。
……くそ甘い。
私達にも同じ物を出してくれたようだが、かき氷のシロップに使ったら美味しいかもねという甘さである。
『……。』
マルティナ以外の全員が一口飲んでから無言でグラスを置いた。
安くない砂糖をたっぷり使うというのは贅沢なことなんだろう。
雇いの人間にそれを出してくれたのも有難いことなのかも知れないけど、庶民舌にはレベルが高い。ごめんよ。
やっぱり健康面でよろしくない気がするので砂糖はほどほどにした方が……いやお茶の話どうでもいいわ。
依頼の話を聞かせてください。
何も口に出して言ってはいないが、ここは突っ込むところが多すぎて思考が散らかってしまうわ。
「では依頼の話を始めさせて頂きます」
執事らしき年配の男性がようやく話を切り出した。




