4-18.吸血鬼3
そんなわけでクレームを言いにやって来ました村長宅。
他の村民の家より倍はありそうな大きさだ。
日は既に落ちて家々には灯りが灯っている時間だが、仕事が終わったら来いと言っていたのでいいだろう。
誘われてなくても文句は言わないとだし。
扉を開けて迎えてくれたのはリラだった。
私達の顔を見て安堵したような表情をした後、モージズを見て目を見開いていた。
客間に通されるとすぐにヘイデンさんもやって来た。
「いやいや、皆様ご無事で何より……」
ヘイデンさんもモージズを見て言葉を失ったようだ。
「供物を寄越さぬのはどういうことだ」
「ヴァンパイアがいる危険な依頼だなんて聞いてないわ。詐欺じゃないかしら」
モージズとアンに言葉で詰め寄られ、たじろいだヘイデンさんが顔色を青くする。
まさか大家が直々に来るとは思って無かったんだろうか。
「……申し訳ない……娘を連れて行かれたくないあまりに愚かなことをしました」
ヘイデンさんは私達と目を合わせないまま事情を語る。
村長であるリラの祖父が高齢の為に体調が思わしくない。
ヘイデンさんの妻は既に他界している為、今は祖父の介護をはじめ畑仕事や食事の支度や洗濯掃除といった家の仕事は全てリラがやっているそうだ。
……お前は何をしてるんだ?
素朴な疑問が浮かんだ。
村長代理って家のこと全く出来ないくらい忙しいの?
立派な腹周りのヘイデンさんとは真逆にリラはほっそりしている。
よく見たら細い手も亜麻色の髪も荒れているし顔色があまり良くない。
今の話を聞いたせいで余計に疲れが溜まっているようにも見える。
「……父が申し訳ありませんでした。ご迷惑をお掛けした分の迷惑料もお支払いしますし、私でよろしければ供物にもなりましょう」
深々と頭を下げたリラの華奢な肩が痛々しい。
家でこき使われて、次はヴァンパイアの元に閉じ込められるの?
「あなたそれでいいの?」
アンの問いかけにリラは諦めたような笑みを浮かべる。
「疲れたんです……ゆっくり眠れる場所なら正直、もう檻の中だって構わない」
リラの言葉に思わずみんながモージズの方を見る。
「……城にはいて貰うことになるが、檻に入れたりはせんぞ」
心外だという顔をしている。
立ち上がってリラに近付くとその顔をじっと見下ろす。
「城には人ではないが雑務をこなす使い魔がいる。お前が働く必要はない」
「はい」
「血を貰うことはあるが、命に関わるようなことはしないと約束しよう」
「はい」
「まだ少し先にはなるが、お前が望むならば人里へ帰ることも可能だ。この村ではなくとも」
「……」
「私の元にいた娘達は皆、この村には戻っていないだろう」
「……死んだと思っていました」
「ここではない場所で生きたいと望んだので連れて行ってやった」
リラの目に希望の光が射す。
「……私も自由になれますか?」
「お前がそれを望むならな。ずっと城にいても構わんぞ」
「……はい」
リラが少し頬を染めて嬉しそうに微笑んだ。
何だよヴァンパイア超男前じゃないか。
使用人のように扱っていた実の父親より遥かにリラに優しく紳士的だ。
セクハラ野郎って言ってごめんよ。
……いや言ってはないか。
「落ち着くとこに落ち着いたのかな」
「そうみたいだね」
ほっとした気分でルッカと笑い合う。
「ギルドには報告するからね。今まで娘に全部やらせてた介護と仕事、あんたがやるのよ」
アンが容赦ない台詞をヘイデンさんに言い放つ。
ヘイデンさんは額に汗を浮かべたまま、視線は救いを求めるようにリラに向けていた。
「頑張ってねお父さん」
「リラ……」
微笑んではいるが、リラの視線は冷え冷えとしている。
「リラ……リラ…すまなかった」
「……元気でね」
親子の決別の瞬間だった。
ヘイデンさんは泣きそうな顔をしていたし、リラも部屋を出る時は悲しそうだった。
世の中いろんな親子の形があるんだろうけど、片方ばかりが負担を強いられる関係は断ち切られても仕方ないと思う。
時々は祖父の様子を見に来たいと家を出た後にリラが言い、モージズはそれを了承していた。
優しいな。優しいからずっと辛さを言えずに我慢していたんだろうし、父親はそれに胡座をかいてしまったんだろうけど。
モージズがリラを抱き上げて飛んで連れ帰る様子を見送りながら、ふと気付く。
これってもしやアレかな?
虐げられてたけど結婚したら溺愛されて幸せになりました系の話かな?
だったらいいな。それならリラはこれから大切にされて幸せになると思えるし。
「なんか嬉しそうね。どうかした?」
「なんでもないよ。さ、私達も帰ろうか」
ヴァルドは夜目がきくから今からでも街に戻れるだろう。
色々と想定外のことばかりだったけど無事に仕事は終わったしお風呂にでも入ってゆっくりしよう。




