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4-17.吸血鬼2

想像してみて欲しい。

初対面の奴に、

「俺って初物が好みなんだけど君は経験ある?」

と聞かれたらどう思うかを……。


とんでもないセクハラである。


どんなイケメンだとしても台無しだと思う。

その点だけで見るとアンの「キモい」発言は至極当然なのだが、相手のヴァンパイアは大変ご立腹なようだ。

何でお前が怒ってるんだ。イケメン無罪なんか都市伝説だぞ。


「知能が高いって言っても所詮は魔物よね。自分のヤバさがわからないんだから」


「……まぁそうだけどお前が余計に怒らせたんだからな」


吹き荒れる冷風の中、アンにヤマトが律儀に突っ込んでいる。

ヴァンパイアが片手を上に掲げると、飛び交うコウモリがどんどん集まって巨大な黒い塊のようになって来た。


「これがリアル元気玉……」


「違うだろ」


私の呟きにもちゃんとヤマトが突っ込みを入れる。


「血塗れになって死ぬがいい!」


掲げた手を振り下ろすと、大群のコウモリが大砲のように押し寄せた。


ーーーグルァアアアア!!


大地を揺るがすようなドラゴンの咆哮が響き渡る。

目も眩むような強烈なブレスをヴァルドが吐くと、コウモリの塊が半数近く消失した。


「………金色(こんじき)の女王か。人間贔屓だという噂は本当のようだな」


ーーー少なくともお前よりはこの者達の方がまともだ。


そうね。セクハラ野郎だもんね。


次々と襲いくるコウモリを斬り捨てながら、そんなことを思う。

黒い羽が多過ぎて周りがあまり見えないけど、たぶんみんな同じように奮闘しているだろう。

私が持っているのは斬れ味が良いだけの魔剣だ。ヴァンパイアには効かない。

他のみんなの攻撃もそうだろう。

ヴァルドだけが頼みの綱なのだ。


ーーーただのコウモリ退治をしに来た筈なのだがな。お前を殺せとは言われておらん。退くならば命は取らずに済ませてやろう。


おや。なんか流れが読めなくなったぞ。

そいつ逃していい相手かな?

……けど自分達に出来ないことをやってくれと頼むのは厚かましい気もする。

ヴァルドは人間ではないのだから、人間の事情を押し付けることは出来ない。


「……契約を先に破ったのは人間側だ。不問にすることは出来ん」


ーーーその話を聞かせろ。我々は何も聞かされておらんのだ。


「……良かろう」


その声と共にコウモリが一斉に空へと引いて行く。

アンもヤマトもルッカも無事に立っている姿が確認出来た。

アンが泣きそうな顔で私に抱き付く。


「大丈夫だよ。みんな無事だよ」


怖い経験を思い出させてしまったね。

まだ油断は出来ないけれど。

空中のヴァンパイアを警戒して見ていると、


ーーー偉そうに上から語ろうとするな。降りて来い。


「………」


ヴァルドの一言でヴァンパイアが地上に降りて来た。

たぶんヴァルドとは力に差があるのだろう。

とても不満そうな顔をしているが大人しく言うことを聞いている。


ヴァンパイアはルッカよりも背が高く、青白い顔はとても美麗で赤い目は妖しい光を宿している。

どこぞの死神と同レベルのイケメンだ。

地上に降りて来たことで私の緊張が切れてしまったのか、パリコレのランウェイを歩いても様になるだろうなぁと平和な感想が浮かんだ。


「散らせろ。目障りだ」


人型になったヴァルドがヴァンパイアに言うと、上空のコウモリ達が去って行く。

これで少し話しやすくなったな。


「……この辺りは元々我が縄張りだったのだ」


ヴァンパイアは不機嫌そうな表情のまま語り始めた。

100年ほど前に移民だったこの村の始祖となる人々と契約をしたという。

ここに住まわせる代わりに20年に一度、供物に娘を一人寄越すというものだ。


「えぇ……それ娘さん達どうなったの?」


若干引き気味に尋ねるとモージズと名乗ったヴァンパイアが渋面をして言う。


「これまでの5人のうち1人は望んでヴァンパイアとなったが、今はどこにいるか知らん。他の4人は自由を望んだので数年私の元に置いた後は人里に帰した」


……モージズわりといい奴じゃないか。下手な人間より話通じるぞ。

選ばれた娘さん達は迷惑だっただろうけど元々そういう条件で人が住み着いたのよね?


ところが今年、契約の年になっても供物となる娘が来ない。

コウモリを使って村に催促をしていたところに私達が現れたのだという。


「じゃあ家賃払わない村人に大家が怒りに来ただけなんだね」


「それだけで済めばいいけどね」


私の言葉にアンが不機嫌そうに言う。


「あのおっさん、私達の年齢聞いてたわよね?娘と同じくらいだとか何とかって。あわよくば私達の誰かが娘の代わりに連れて行かれたらいいなとか思ってたんじゃない?」


そういや年齢確認してたな。

リラはその危険を伝えようとしていたんだろうか。


「それにこの村って豊かよ。私が育った所よりいい暮らししてるわよ」


畑や家畜、村人の服装や表情でわかるとアンが言う。


「ヴァルドがいなかったら危なかったし、ギルドへ報告するべき悪質な虚偽依頼よ」


報告すればこの村はもう冒険者ギルドに依頼を受けて貰えなくなるだろう。

何かあっても助けて貰えない村になるのだ。


「村の人の総意なのかなぁ。ヘイデンさんの勝手な判断だとしたら他の人はとんだ災難よね」


「そもそも誰かを犠牲にして成り立ってる村なんだから共犯みたいなもんでしょ。知らないわよ」


「まぁ帰して貰ってるみたいだし」


「それだってモージズの厚意でしょ。殺されてたらどう思う?」


「……そうだね」


庇う必要はないのかも知れないな。

似たようなことを次にやられたら今度は罪のない冒険者が死ぬことになる。

誰かを犠牲にしなければならなかった貧しい移民時代はもう終わっているのだ。

家賃を払う気がない場合は出て行くしかない。


「我々はお前と村人の契約については関わらん。双方で話し合って好きにしろ」


ヴァルドがそう言うとモージズの表情が初めて少し和らいだ。


「我はお前でも良いぞ」


アンに向かって妖艶な笑みを向ける。

キモいって言われたのにメンタル強いな。


「冗談やめて。なんで私が嘘つきの赤の他人の為に数年も無駄にしなきゃいけないの」


「人間から見れば永遠に近い命を得ることも可能だぞ」


「……終わりがあるから愛しいものだってあるのよ」


ふいっとモージズから顔を逸らしたアンが少し辛そうだ。

目が合ったので微笑むとアンがぎゅうっと再び抱き付いた。


「……なんかいつの間にか凄い仲良しだね」


ルッカが驚いたように呟く。まあね。

アンはとっても可愛いよ。


「じゃあヘイデンさんに文句言いに行こうか」


私達5人とモージズを入れた6名で村長邸へ抗議に行くことにした。


余談だけど地面に落ちた無数のコウモリの死骸はモージズが手を軽く振っただけで消えていた。

半分以上は本物ではなくモージズの魔力で作り上げられているらしい。

やっぱり凄いぞヴァンパイア。


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