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4-16.吸血鬼1

ここのところ朝起きると私のベッドにアンがいることが続いている。


「おはよぉ」


「暑いって言ってるでしょう」


こちらは絡み付かれて寝苦しくなっていたというのに悪びれずへらりと笑うアンの腕を引き剥がす。


「くっついてると怖い夢見ずに寝れるのよね」


「……じゃあいいけど」


そう言われると許さないわけにいかなくなるわ。仕方ないなぁ。


汗をかいた服を着替えて朝の支度を済ませるとアンと一緒に部屋を出た。



◇◇



青空の下でゆったり草を食む牛。

実った夏野菜の収穫に精を出す村人。

どこにでもある田舎の風景の中を私達は案内されて歩いていた。


「平和そうに見えるけどなぁ」


「昼間はね。夕方からなんですよ」


今回ギルドで受けた仕事は吸血コウモリの退治だ。

田舎の小さな村からの依頼だった。

私達がいつも選ぶのは辺境だったり依頼料が低かったりする人気のないものだ。

ヴァルドのおかげで移動は早いし、路銀を稼げたらそれで良いので自然とそうなっていた。


「今年は特に数が多くて。家畜も弱ったり病気になってしまうので困っておりまして……」


吸血コウモリは人は滅多に襲わないという。

狙われるのは家畜だが、今年は多くのコウモリが飛来する為に依頼に至ったという。

案内してくれているのはヘイデンさんという恰幅の良い中年男性だ。村長の息子さんらしい。


「噛まれるとやっかいな病気になるんで注意して下さい」


「狂犬病かな」


「かもな。まじで危ないぞ」


ヤマトがイヤそうに呟く。

コウモリ自体は小さく脅威ではないが数がいて厄介な上、感染症の危険がある。

依頼料のわりに危険度が高いことが人が今まで来なかった理由なのかも知れない。


「みなさんお若いですな。おいくつですか?」


ヘイデンさんが笑顔で私達に尋ねる。

仕事で年齢聞かれたの初めてかも知れないな。若手だから不安なのかな。


「私と彼が20で、彼が17、彼女が18……彼女はもう少し上です」


ヴァルドは少しどころか500歳越えてるけどね。


「うちの娘と年齢が近いですね」


「はあ」


「仕事が終わった後に宜しければうちへいらして下さい」


笑顔のままでヘイデンさんが言った。

申し出は有り難いけれど、まずは依頼を無事に終えることを考えないとな。


夕方が近付いてヘイデンさんが帰って行った。

街で用意して来た革の手袋や首元も覆える厚手の上着を着用し、マスクや帽子で肌が殆ど出ないようにした。

ヴァルドは必要がないと言って普段通りだけど。


「あの……」


コウモリを迎え討つ準備をする私達に一人の女性が近付いて来た。


「あの……私、ヘイデンの娘のリラです」


どうしたんだろうと不思議そうにする私達を彼女は心配そうというよりは申し訳なさそうに見ている。


「もうすぐコウモリが来る頃よね。家に入らないと」


アンが言うとリラは迷っているように言葉を詰まらせたが、少しの間を置いて覚悟をきめたように口を開いた。


「そのことでお話が……ここに来るコウモリはただの野生のコウモリではありません。親切にこんな田舎まで来て頂いているのに父は皆様に隠し事をしています」


「……どういうこと?」


「それは……」


「来たぞ」


リラが何かを語ろうとしたとき、ヴァルドが空を見上げて言った。

赤くなり始めている空の遠方に黒いもやがかかっている。

無数のコウモリがこちらへ向かって飛んでいるのだろう。


……思っていたより数が多そうだ。


「話の続きがもの凄く気になるけどもう時間がないわ!早く家の中へ!」


「……っ!気を付けて下さい!コウモリには親玉がいます!」


リラはそう言い残して走り去って行った。


「面白いことを言っていたな」


ヴァルドがにやりと口角を上げる。

……いや全然面白くないよ。

コウモリ使役する魔物ってたぶん有名なアレじゃないかな。

だとしたらAランク級の依頼だし、元々割に合わない依頼料なのにアレだったら危険度も段違いなんだけど……。


空の黒はどんどん近付いて来て、もうしっかりと大群のコウモリの姿が見える。


「騙されてたんだとしたら文句もあるし依頼料の上乗せも必要だけど、まずはこれ片付けてからよね」


「アレの気配も近いな。気を付けろ」


「……今日は厄日だな」


みんなが思い思いに話す中、私も腰の剣を引き抜いた。


「じゃあ行くよ!」


私の声を合図に戦闘が始まった。


ルッカが広範囲に氷の針を飛ばし、ヤマトが水の弾丸をいくつも放つ。

アンと私はそれらの攻撃が当たらず降りてきたコウモリの迎撃だ。

私は剣で斬り捨て、アンはコウモリを平手で叩く。

かなり威力があるのか叩かれたコウモリは地に落ちると全く動かなくなっている。

ヴァルドが人型のまま灼熱の魔法を放つと数がぐんと減る。

それでもまだまだコウモリは飛んで来る。

とにかく数を減らすべくひたすら迎撃に集中していると、突然冷たい強風が吹き荒れた。


たぶん親玉の登場だ。


3メートルほど上空に長い銀髪をなびかせた赤い目の美形な男性が不機嫌そうに佇んでいた。


「生意気な人間共め。約束は違える、供物は用意しないなど今代の長は頭が悪いとみたが……女がいるな」


そういやヴァンパイアって、しょ……乙女が好きだったっけ。

この中だとアンしか可能性ないけど。


「お前達が供物か」


「いいえ、私は結婚してますし」


「子を産んでいる。そもそも吸血鬼ごときに差し出される弱者でもない」


「………」


ヴァンパイアが期待を込めた目でアンを見ている。


「えっやめてよキモい」


アンがイヤそうに言う。キモいはちょっと酷い気がするけど、まぁそんな目で見られたら言いたくもなるか。


「………覚悟しろ人間ども」


ひんやりとした風が再び吹き荒れる。

何だかより一層怒らせてしまったみたいだった。



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