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4-14.出会い

ーーーむ。人だなアレは。


ある日の昼間。

湿地帯の上空を飛んでいる時にヴァルドがふと言った。

ヴァルドほど視力が良くないので下の方に目を凝らすと、小さく何かの魔物に追われて1人の人が走っているのが見て取れた。


「うわっ!あれ凄い緊急事態じゃない!?」


ーーー追っているのはヌマチオオトカゲだな。追い付かれたら死ぬだろうな。


ヌマチオオトカゲとはコモドオオトカゲ を倍ほど大きくしたような恐ろしい魔物だ。


「助けてあげて!」


ーーー仕方ないな。しっかり掴まっていろ。


ヴァルドはそう言うと一気に下降する。

強い風と共にぐんぐんと陸が近付いて、5m級の化け物トカゲに追われる人の姿がはっきり見えた。

革鎧に身を包んだ冒険者風の女の子だった。


ヴァルドはブレスを放ち、オオトカゲの動きを一瞬止めると前足で女の子を掴んでそのまま再び空に舞い上がった。


「ぎゃあぁっ!!死ぬううぅぅぅっ!?」


ヴァルドの下から悲鳴が聞こえる。

そりゃそうか。

彼女からするとオオトカゲから必死に逃げてる最中に急に現れたドラゴンに引っ掴まれて今は空中だ。

とても助けられたとは思えない状況だろう。


ーーー落ち着け。


「助けてえぇぇ!!食べないでー!落とさないでー!」


……元気そうだな。


下で大騒ぎしている。

怪我とかしてないか確認したいけど湿地帯にはオオトカゲだけではなく魔物がうようよいるので抜けてからの方がいいだろう。


「美味しくないからーっ!わたし肉も硬いし不味いからぁあああ!」


……ごめん笑ってしまった。


「元気そうだから大丈夫なんじゃない?」


同じく笑ってしまったルッカがこちらを見て言う。


「大丈夫ですかー?」


何度か下に大きな声で話し掛けてみるものの、混乱していて聴こえないのかまだ騒いでいる。

まぁまぁな時間叫び続けていた。


「……今日俺あいつの声夢に出そう」


……奇遇だね。私もだよ。


げんなり呟いたヤマトに私もルッカも同意の視線を返す。

ようやく湿地帯を抜けて草原にヴァルドが降り立った頃には全員が疲れた顔をしていた。


ヴァルドから自由になった女の子は降りて来た私達に大きな緑の目をぱちぱちと瞬かせている。

緋色の髪を肩口で切り揃えた可愛い子だ。

年齢は私達とさほど変わらなそうに見える。


「……もしや保存食の人?」


「どんな発想だよ」


彼女の呟きにヤマトが突っ込みを入れた。

ヴァルドが人型になったところで襲われていたので救助したと説明をするとからからと笑った。


「助けられてたのね。イヤだわ、てっきり捕食されるのかと思って大騒ぎしちゃった。ごめんねぇ、ありがとう!」


ヴァルドの両手を握ってお礼を言う。


「私はアンジェ。アンでいいよ」


アンはBランク冒険者らしい。

お互いに簡単な自己紹介を済ませた。


「どうしてあんな所で魔物に追いかけられてたの?」


湿地帯はBランクでも一人で行っていいほど優しい場所ではない筈だ。


「これ取りに行ってのよ。見つかっちゃって危うく食べられるとこだったけどさぁ」


私が聞くとアンは荷物の麻袋の中を見せてくれた。

野球ボールのような白い玉がいくつも袋に入っている。


「何これ?」


「ヌマチオオトカゲの卵」


「おい!そりゃ追われるわ!」


「珍味らしいよ。貴族にすっごい高く売れるの。あ、全部盗ったりはしてないから」


アンは嬉しそうに袋の中を見ている。


「命懸けでやることかよ……」


呆れたようなヤマトの呟きにアンは笑顔のまま言った。


「前の冒険で仲間2人とも死んじゃったからさぁ、遺族にお金送りたいのよね」


……明るいトーンで話した事情が大変重いね……。

それで命懸けで大金になる卵取りに行ったの……。


思わず黙った私達にアンは笑う。


「そんな顔しないでよ。冒険者だったら死ぬこともあるわよ」


言うことはわかるけど、仲間を失う辛さは計り知れないよ……。


「これで遺族にお金送れるし、私だけ生き残ったことにも少しは意味があったわね」


笑顔でなんて悲しいこと言うんだ……どう声を掛けていいのかわからないよ。


「ほんと助けてくれてありがとう。ついでに街まで一緒に運んでくれたら助かるんだけど」


「それは構わんが」


「あのさ」


黙っていたヤマトが遠慮がちに口を開いた。


「お前ヴァルドが助けなかったらたぶん死んでたよな……本当は死にたかったのか?」


「……」


ヤマトの言葉にアンから一瞬笑顔が消えた。


「……そんなことないわ」


再び笑顔を作って否定したけれど、一瞬の沈黙は肯定しているかのように思えた。


「これ換金しなきゃいけないし死ねないわよ」


それ結構すぐ終わる作業じゃないか……。


一緒に街に行くことになったけれど、4人乗るとヴァルドの首元がまぁまぁ狭い。

隙間がなくなるのでアン、私、ルッカ、ヤマトの順で乗ることになった。

アン達がよく拠点にしていたという街のギルドで卵の換金と送金手続きを済ませるまで付いて行った。


「これでちょっと肩の荷が降りたわ」


そう言ったアンは誰かを探すようにギルドの中に視線を巡らせている。


「まだ探しちゃうのよねぇ」


……アンの笑顔が胸に痛い。

私がルッカやヤマトやヴァルドを失ったら……少し想像しただけで酷く恐ろしくて辛い。


「………もういないのにね」


……駄目だ。当事者が泣いてないのに私が泣いてどうするの。

目にぶわっと溜まったものを落とさないよう顔に気合いを入れると、その顔を見てアンが笑った。


「あはは!ミオリ変な顔になってるよ」


「……ごめん」


「もっと変な顔ね」


「ちょっと失礼じゃないかな」


「だって可笑しくて。ミオリがそんな顔しなくていいのよ……ありがとう」


別れの挨拶をするまでアンはずっと笑顔だった。

私の方が何とも言えない表情をしていたと思う。

翌日もギルドを覗いてみると、アンは誰かを待つように一人でぼんやりと座っていた。


「みんなで相談したいことがあるんだけど……」


たぶん同情なんだろう。

どこでだって冒険者は死んでいるし、今ここで私が提案することは自己満足かも知れないけど。


「アンを仲間に誘わない?」


ルッカ達は何を言われるのかわかっていたようだった。


「私は構わん。一人くらい増えてもどうってことないからな」


「本人が良ければいいんじゃないか?」


「俺もそう思う」


誘っても仲間になるとは限らないものね。

それでも誰も反対しないことに私はほっとした。

迷惑がられる可能性もあるけど声を掛けてみよう。

私達と一緒に行こうよ、と。



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