小話 怒るとこうなる
ドワーフの作業場を見学に行ってからここ数日、ルッカは本とノートを片手によく何やら没頭している。
ヴァルドが降ろしてくれた湖畔の花や新緑の美しさも今のルッカには心惹かれるものではないらしい。
「お昼ご飯出来たよ」
「うん」
「いったん本置いたら?」
「うん」
……集中してるのはわかるけど、せめて顔あげるくらいしようか。
二度声を掛けたけど、視線は本のままだ。
昼食は焼いたソーセージと野菜をパンに挟んだ簡単な物だけど、その態度は用意した私に失礼でしょう。
「いらないんだね」
「えっ」
驚いたように顔を上げるルッカを無視し、渡そうと思っていたパンを持ってヴァルドに近寄る。
「ルッカいらないみたいだからヴァルド2人分食べていいよ」
「そうなのか。では貰おう」
ちなみにヴァルドにはフランスパン一本を使った特大ホットドッグを渡してあるのでルッカの分まで食べると2人分どころか5〜6人分くらいにはなりそうだ。
「ええ!?いる!いります!」
慌てて立ち上がったルッカに冷たい視線を送る。
「夢中になるのは仕方ないけど、そういう態度の人に食事用意するの私イヤだから」
「……ごめん」
ルッカが困り顔で謝罪する。
「なんか母親みたいだな……」
一連のやり取りを見ていたヤマトが呟く。
「お母さんになった覚えはないし、そういう扱いするなら私も態度を変えるからね」
「ごめんなさい。反省します」
私は無表情のままルッカの分を手渡した。
いつもは隣に座って食べるのだけど、今はそんな気分じゃないのでヴァルドの隣に腰を降ろす。
「ミオリ機嫌直して……」
「いただきます」
立ったままのルッカを放置してパンに齧り付いた。
パリッと焼けたソーセージにシャキッとしたレタス、酸味のあるトマトが合わさって美味しいな。
朝買ったパンも外カリカリで中ふんわりだ。
「ミオリ、ミオリさん、お願い無視しないで……」
「いるなら食べて来れば」
「横に座っていい?」
「駄目。あっち行って」
「それ凄い心に刺さるんだけど……」
悲しそうな顔のルッカを見ないようにして食事を続ける。
「怒らせると怖いな……」
ヤマトが再び呟き、ルッカは落ち込んだままヤマトの横に座っていた。
お母さんではない妻から怒りの制裁だよ。
一生懸命話し掛けて来るので夕方には仲直りしたけどね。




