4-11.岩山の鍛治師
ガギンッ!
ゴブリンが振り降ろした鈍器を剣で受け止めた瞬間、嫌な音がした。
そのまま数匹を斬り捨てて戦闘が終わると持ち上げて剣を見る。
「ああ!やっぱり!」
小指の爪くらいがっつり刃が欠けてしまっている。
このまま使うのは折れる原因になるだろうな。
「結構使ってるもんね。刃を成型し直して魔法付与をやり直すか、いっそのこと新調する必要があるね」
剣を確認したルッカが言う。
「新調はイヤだなぁ……」
初めての武器でルッカに貰った剣だから買い替えは出来たらしたくない。
一緒にいっぱい戦って来たから愛着があるんだ……。
「剣が欠けたのか?ならば修理出来る者の所に連れて行ってやろうか」
私達のゴブリン退治を見守っていたヴァルドが提案してくれた。
「魔法付与が出来ないといけないから普通の鍛冶屋じゃダメなんだけど……」
「大丈夫だ。到着は2日後になるが構わんか?」
ルッカとヤマトに視線をやると2人とも頷いてくれる。
「よろしくお願いします」
ヴァルドにお願いして連れて行って貰うことにした。
私の使い方が下手なばかりに大事な剣を欠けさせてしまった……。
修理代どれくらいするのかな。お財布事情的にもドキドキするわ。
2日後、ヴァルドとやって来たのは麓に森が広がる巨大な岩山の一角だった。
てっきりどこかの街へ降りるのだと思っていたので驚きが隠せない。
「……ここに人がいるの?」
「人族ではないが職人がいる。付いて来い」
岩壁にしか見えない部分にヴァルドが消えたので更にびっくりしてしまった。
「入り口に隠蔽の魔法が掛かってるね」
ヴァルドの後を追いながらルッカが言った。
ぶつかるような気がして思わず手を前に出して岩壁の幻をすり抜けた。
壁の向こうには岩を削って作られたと思われる地下空間が広がっていた。
外よりは薄暗いけど通路には光る石があちこちに設置されていて問題なく歩くことが出来る。
通路を曲がりどんどん進むヴァルドを見失わないように付いて行く。
所々に扉がある。扉の向こう側は住居なんだろうか。
天井が低いのでヤマトとルッカは通路の節目節目で屈む必要があった。
「あれみたいだね……名前出て来ないけどトルコの世界遺産」
「カッパドキアのことか?」
「そうそう。そこにも地下都市あったよね。テレビで見ただけで行ったことないけど」
「ここも結構広そうだよな」
地下住居、鍛治職人とくればやっぱりあの種族かな?
ルッカは期待に満ちた顔をしている。
鍛治職人なら一度は会いたい種族だろうな。
ヴァルドは小さな看板が付いた扉の前まで来ると遠慮なくノブを掴んで開けた。
「今日はもう店じまいじゃ!帰れ!」
中は小さな武器屋になっていた。
棚には斧や剣、農具なども置かれている。
カウンターの奥に座ったずんぐり小柄な髭もじゃが大きな声を出した。
きたー!やっぱりドワーフだ!
「久しいな。修理を頼みに来たぞ」
ヴァルドは髭もじゃドワーフの台詞を完全に無視して口角を上げる。
「だから閉めると言うとるじゃろ!相変わらず人の話を聞かん奴じゃな!」
横で聞いてるとお互い様な感じがするけども。
「この者の剣が欠けたから直してやってくれ」
ヴァルドの紹介でドワーフの視線が私に向く。
「見せろ!」
……見てくれるんだ。
「これなんですけど……」
遠慮気味に剣を鞘ごと渡すとドワーフは引き抜いて刀身を見ると声を上げる。
「下手な使い方じゃな!剣が泣いとるわ!」
「すいません……」
うう、心抉られるわ……ごめんよ愛剣。
「魔法付与もされとるな。明日直してやるから明後日取りに来い!」
「作業を見せて貰えませんか?」
ドワーフがじろりとルッカを睨む。
「お前さんは?」
「それの製作者です。出来るなら修理の工程を見せて貰いたいんですが」
「そうか。打ち方は悪うないぞ!」
「ありがとうございます」
褒められてルッカが少し嬉しそうだ。
「まだ未熟なとこもあるがな!作業を見るのは構わんが、全員はごめんじゃ!狭いからの!」
「では明日の朝この者だけ連れて来よう。飲み過ぎるなよ」
「わかっておるわ!じゃあ帰れ!」
ドワーフの大声に追い出されるように店を出た。
剣は預けたままだ。
「なんか凄い勢いだったね」
名前も聞きそびれてしまったわ。
「ドワーフってみんなあんな感じなの?」
「まさか。あいつが特殊なだけだぞ。他のドワーフに失礼だ」
えらい言われようだな。
名前はテッポさんというらしい。
ヴァルドの百年くらい前からの知り合いだそうだ。
「修理代も聞いてないんだけど……」
「酒を持って来れば安くなるぞ」
なるほど。明日買いに行こう。
ドワーフの岩山から2時間程度飛んだ街に着く頃には夕方になっていた。
「明日は俺とヴァルド出掛けるけどいい子にしててね」
食後に2人になったタイミングでルッカが言った。
「うん。でも子供じゃないから大丈夫だよ」
「子供じゃないから心配なんだよ。密室で2人きりになったりしないように。あと触らないように。横に座る時はくっつかないこと」
……注意事項が多いな。
「信用ないなぁ」
「ミオリは信用してるけどね」
それはそれでヤマトに失礼じゃない?
「衝動的な行動があったら困るし」
「そんなのないと思うけどなぁ。いい奴だよ」
「知ってるけど男だから絶対の信用は出来ないんだよね」
そんなもんかなぁ。
明日はヤマトとこの街で留守番だ。
何しようかな。




