1.どうやら転生ではない
よろしくお願いします。
ーー寒い。
冷房付けっぱなしで寝たかなぁ?
寝返りを打つと頬にちくちくとした感触。
目を開けると草の上に横たわっていた。
「これはもしや、転生…!!」
興奮してがばっと上体を起こし、期待を込めて両手を見る。
小さくはない。そして色白でもない。
健康的な肌色、手首に黒子がある。見慣れた自分の手だった。
「……」
若干がっかりしつつ周りを見渡す。
夕焼けで空が赤くなり始めた、鬱蒼とした森だった。
いや、山かな?わからん。
「令嬢でもないし、聖女召喚でもなさそう…」
声も聞き慣れた自分の声だ。
私はラノベや漫画やアニメを愛する、少しオタク寄りの普通の高校生だ。
名前は石川美織。帰宅部。
今日は日曜日で、昼に母の作った焼き蕎麦を食べた後、アイスを買いにコンビニへ行こうとしていた。
近所に行くだけのつもりだったので安い無地のTシャツにデニムにスニーカーというスタイルだ。
自転車を漕いでいつも通る橋に差し掛かった時、強い光に飲まれた。
そして今に至る。
自転車もないし、カゴに入れていた財布とスマホが入った鞄も見当たらない。
うん、何もわからん。わからんけど…
異世界?だったら試してみないとね。
「ステータス、オープン!」
しん、とした森に明るい声が響く。
待つこと5秒。何も出て来ませんでした。
恥ずかしいわ。
「これはマズいパターンのやつ……?」
チート皆無の異世界転移だとしたら、とても悲しい。
モブ顔なので美女無双もなく、魔法無双もなく、知識無双出来るほどの知識があるわけでもない。
神様、ただの高校生にちょっと厳しくないですか?
そこまで考えて、はっとした。
まだ料理の線が残されてる!
私が作る料理には不思議な力が宿って美味い上に回復機能や強化機能があったり、聖獣が懐いてくれたりするかも知れない。
それかもう農業の才能とかでもいい。
なんでもいいから食っていける能力を下さい神様。
まだ希望は捨ててない。
けれど既に暗くなり始めた森に1人。早く食料と水を見つけるか、人里に出ないと数日で死んでしまう。
「水だけでも確保しないと……」
どうか人里が近くにありますようにと祈りながら、私は森の中を歩き始めた。