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悪役令嬢・オブ・ザ・デッド ~転生悪役令嬢エレーナは肉食系腐男子(ゾンビ)による回避不能の世界破滅フラグに立ち向かいます~  作者: 佐々木鏡石@『じょっぱれアオモリの星』コミックス発売中
プロローグ ~ドーン・オブ・ザ・悪役令嬢~

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ドーン・オブ・ザ・悪役令嬢

この作品だけは読まれて欲しい。

どうぞよろしくお願いいたします。

私――貴族令嬢エレーナ・シャルロッテ・フォン・リヴレは転生者である。




それは今にも泣き出しそうな空の日だった。

仕事帰り、私が横断歩道を渡っていたときのことである。


私が最期に覚えている光景。

それはトラックの白いヘッドライトの光だった。

そのまま、貨物トラックはノンブレーキで横断歩道上の私を撥ね飛ばした。


不幸は重なるものだ。

私が撥ね飛ばされた先は道路脇の汚い小川――つまりドブだった。

私はそこに頭から突っ込んだ。

ヘドロと生活排水が混じった匂いをくさいくさいと思いながら。

私は実に惨めな感じに溺死した。


それが『内なる私』、二八歳未婚のオタOLの、高柳千鶴逝去の顛末である。



そして次に気がついたときには、大勢の侍従と召使いとに囲まれ、


「エレーナ! あぁよかった! 気がついたか!」


――である。

私の動揺は如何ばかりであったか、是非皆様には推察されたい。


どうやら当時十五歳だった『私』――エレーナは、暴走した馬車に撥ね飛ばされ、頭からライ麦畑のぬかるみに頭から突っ込んで死にかけていたらしいのだ。


奇妙な一致には違いない。

ただ違ったのは、その事故が『オタ未婚OLが哀れに死んだだけの事故』ではなく、ラビリシア王国なる強大な王国の大貴族・リヴレ公爵家の令嬢の身に起こった『実に悲劇的な事故』であった点である。


そんなこんなで、私はその日からエレーナ・シャルロッテ・フォン・リヴレとして人生を生き直すことになったのだが――。


まぁ、後はご想像の通りである。




つまり私が転生した先は――乙女ゲームの世界だったのだ。最近流行りの。




このゲームの名前は《琥珀のエルミタージュ》。

高柳千鶴が生前、命の次に大事と言って憚らなかったiPhoneで熱心に“課金”していたソーシャル乙女ゲである。


このゲームは、プレイヤーは主人公である十六歳の少女、アンリエッタとなり、五人の攻略キャラのいずれか、もしくは全員と恋愛することを目的としたゲームである。


そしてその中でのエレーナの立ち位置は――まさにテンプレ通りの悪役令嬢であった。


大体、乙女ゲの貴族令嬢のイメージカラーといえばピンクや緑のパステルカラーと相場が決まっている中で、エレーナのイメージカラーは『黒』。

その様はさながら白鳥の湖に舞い降りた蝙蝠、白百合の中に咲く黒薔薇、白雪姫に毒りんごを食わせる魔女マレフィセントの如く、暗く、冷たい。


エレーナは作中、その圧倒的な才覚と家柄、そしてそのわがままで傲慢で狡賢く嫉妬深い性格をフルに撒き散らし、あの手この手でアンリエッタの恋路と将来を破滅に追い遣ろうとする《鴉の女王》なのである。


そんなわけで、転生三日後にはその運命に気づいたときから。

私はなるべくソフトに、そして波風を立てないように暮らすことにした。


今までいじめていた侍女には慈愛を持って。

言いたい放題ワガママ言っていた執事には紳士的に。

高圧的に接していた近所の子供たちにはフレンドリーに。


私は『悪役令嬢』であることを全て捨てるつもりだった。


そして今日。

エレーナである私は、いよいよ『その日』を迎えることになった。







「よくお似合いですわ、エレーナ様。今日は特別な日でございますから、全てのお召し物を特別に誂えさせました。お気に召しましたか?」

「ありがとうナミラさん。ええと……うん、とっても綺麗ね。お心遣いに感謝するわ」

「まぁ、もったいないお言葉! こんな卑しい身分の私におよしくださいませ!」


侍従の女性は大袈裟に赤面した。

その余りの喜びように、あはは……と私は覇気なく笑った。


実際、その日のエレーナは綺麗だった。

緩やかにウェーブした、豪華で艷やかな黒髪。

黒と赤を基調とした、本人のスタイルのよさを強調するドレス。

唇に引かれた、鮮やかだが、どこか毒々しく見える真っ赤なルージュ。

首から、耳から、あらゆるところに宝石やら真珠やらの宝飾品をぶら下げた、氷のように冷たい美貌。


あの事故以来、お嬢様が別人のように変わった、と噂されているのは知っているし、最近では親しいと呼べる人間の数も増えてきた。

このまま何事もなく時が進めば、私は何不自由なく、平穏な暮らしを謳歌できたかも知れない。


だが、それも今日で終わりだ。

何もかも、である。


本日私は――『琥珀のエルミタージュ』の舞台となる王立リストランテ学院の入学式に臨む身なのだった。


「そろそろ出発のお時間ですわね。では、馬車を用意してまいります」


そう言って侍従のナミラは実に軽やかな足取りで部屋を出ていった。


凄くデカい鏡台の前に独り残された私は、ふと――鏡台の側にあったものに目を止めた。


《王立リストランテ学院 入学の手引》


この世界では貴重であるはずの紙に印刷された手紙。

私は手袋を嵌めた手でそれを取ると、それを真っ二つに破る仕草をした。



途端に、ザッ! というラジオのノイズのような音が耳をつんざき、エレーナの部屋が『崩壊』した。



[[Command]]@;:]/%%b%22ア..オ39礼485-//;.:.鬼@@]Prom【Pt】//a333=【.;.222222……



 今まで豪華な調度品に彩られていた部屋が虫食い状に崩れ、なにもない真っ暗な空間には『%』だの『#』だの、私には訳のわからない赤黒い文字列が見える。

ポリゴン的に四角く途切れた空間は、光さえも届かない底なしの虚無を想像させた。


ハァ――とため息をついて、私は入学の手引を鏡台の上に戻した。

すると虫食いの虚無は一瞬にして『復元』され――世界は元通りになった。




単純に、私はこの現象を《バグ》と呼んでいた。




どうやらこの現象は、私が、私の今いる世界――《琥珀のエルミタージュ》の物語そのものの進行を阻害、または不可能にする行動を取ると起こるらしいのである。


単純な話である。


ゲームの主要キャラクターであるエレーナ=私が、待ち受ける破滅を回避するための一番簡単な行動は、そもそもゲームの舞台となる学院に入学しないことである。


今ここで私が王立リストランテ学院の招待状を破り捨て、「気が変わった、あそこには行かない」と一言言い残してフケてしまえば――私はおそらく、行く末に破滅の運命からは逃れられる。


だが、私という主要キャラクターがそういう行動や選択をした、その瞬間。

《琥珀のエルミタージュ》の物語は成立しなくなる。

つまり――世界はあの虫食い、いわゆる《バグ》に飲み込まれて消滅するのだ。


私がこの現象に気づくまでに随分長くかかった気がする。

転生した十五歳から十八歳の今日まで、ほぼ何不自由なく暮らしてきたつもりの私だったが――入学式の日に近づくとこの《バグ》の発生回数が増えていった。

私が今、私や私を取り巻く人たちと穏やかに暮らせているのは、この人たちがゲームの進行には何ら関係ないモブキャラクターだからである。


そしていつしか私は理解した。

運命の破滅からは逃げられない。

そもそも立ち向かうことが出来ないのだと。

いくら私が善行を積んでも。

どれだけ私が努力しても。

どんなに乞い願ったとしても――意味がない。


私は悪役令嬢であり続け、最後は破滅しなければならない。

そうでなければ世界の方が崩壊してしまうのだと。


耐えられるだろうか――。

私はいつも自問する。

《琥珀のエルミタージュ》では、最後の卒業パーティの日、エレーナはほぼ全てのルートで“破滅”する。


それはすごくよくて逮捕の上の国外追放、よくリヴレ家ごと没落して国外追放、悪くて死亡、最悪で魔物化して死亡、という悪意がてんこ盛りの内容で――その先は考えたくもない。


とにかく、私は、既に破滅確定の人生を走っているのだった。



それから一時間後。


私は豪華な馬車に乗って、リストランテ魔法学院に向かっていた。


やたらガタボコする振動をしんどく思いながら、私は独り入学の手引を見つめる。


チチチチ……と、けたたましい鳴き声とともに、窓の外を鳥が飛んでゆく。

嗚呼、空はあんなに蒼いのに、風は草原を渡ってゆくのに、世界はこんなに美しいのに……。

私の心はどうしてこんなに灰色なのだろう――。


そう思った途端だった。

なにか黒いものが馬車に向かって飛んできて、グシャ! という湿った音とともに激突した。


思わず声を上げると、馬車の御者が「お嬢様! 何かありましたか!」と訊いてきた。


「……いえ、何でもありませんわ。カラスが――ぶつかってきたようです」


私は窓を開けて、ぶつかってきたカラスを見た。

カラスは両羽が変な方向にねじ曲がり、ぴくりとも動く様子はない。

よほどの衝撃でぶつかってきたのだろう。

どう見ても死んでいた。

 

カラス、か。

呆気なく死んだカラスに、私は《鴉の女王》としての自分を重ね合わせた。


この世界を成立させるためだけに演技し、役割を演じて、やがて消えてゆく存在。

誰からも嫌われ、忌まれ、報いを受けなければならない断罪待ちの悪女。

なんの努力も行動も意味をなさない、卒業までの三年を無為に過ごす緩慢なる自殺。


そんな悪意に満ちた運命に――私は耐えられるのだろうか。


「あぁ、世界が終わらねぇかな……」


ついつい、普段は気をつけているはずの高柳千鶴の声が出た。

その呟きを私以外の存在に聞かれることはない。


そう、ただ一人、私をこの世界に呼んだ、神以外には。







――馬車が通り過ぎて数分後。


田舎道の真ん中に転がったカラスの死体が――ムクリと起き上がった。

折れた羽を畳み。

欠けたくちばしをかつりと鳴らして。

血まみれのカラスは、白く濁った目でしばらく周囲を見つめた。


生きているはずはなかった。

否――馬車にぶつかった時点で、カラスは間違いなく死んでいた。




カラスは、カァ――と不吉に一声鳴くと、やがて折れた羽を羽ばたいて空に吸い込まれていった。




ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

こんなスプラッタでめちゃくちゃな小説を気に入っていただければ幸いです。

2話目は本日20:00に投稿予定です。


どうぞ何卒、評価・ブックマーク等をよろしくお願いいたします。

何卒下の方からお願い申し上げます。

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