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温泉よ永遠に

温泉よ永遠に~part2:由貴サイド~

作者: 希志魁星

隆は眠っている。

永遠に目を覚ます事は無い。


今朝、お医者様より、臨終を告げられた。


傍らには、園田さんから贈られたスマホ。

そこでは、園田さんと私が、隆の為に、一生懸命に考えぬいて、

園田さんが一生懸命に完成させたアプリ、【温泉物語】が動いている。

隆は、亡くなる直前まで、【温泉物語】を真剣に眺めていた。

最後には、自分で操作できなくなった隆に代わって、

私がアプリを操作してあげた。

隆は、それはそれは喜んでくれた。

私も、両親も、その姿を見て、とても嬉しかった。




【温泉物語】には、恥ずかしながら、ワタシが登場する。

アプリ内の仮想人格、温泉ソムリエの一人として。

隆を温泉旅行に連れていく、ツアーコンダクターに扮して。

隆を自宅まで迎えに行き、温泉旅館まで同行し、

旅を満喫するためのサポート役に徹する。

車窓の景色、休憩場所の紹介、温泉の効能、宿の特徴、周囲の観光施設案内。

私にはそんな知識は無いけれど、ワタシは知識も経験も豊富。

そんなワタシを見て、隆は大喜び。

「現実のお姉ちゃんはな~んにも知らないけれど、

アプリの中では、物知りだよね(笑)。」




隆とワタシは、様々な温泉地を旅した。

隆は歩けない。起き上がる事も出来ない。

だけど、アプリの中では、隆は自由でヤンチャだった。

時には優しく、温かく。


そう。


現実の世界では歩けない隆の代わりに、

アプリの中では、

隆は好きなところへ自由に旅することができた。

拡張現実、と言うらしい。

そう園田さんは教えてくれたけれど、

現実には歩けない隆が旅するのだから、

私にとっては仮想現実。




隆は物心ついた頃、すでに小児がんに侵されていた。

両親は、隆の病気が治るためなら、と、

様々な治療法を試した。

そのひとつが、温泉療法。

がんに効く、という温泉を探しては、

時には片道数日を費やし、

ある時には1週間滞在して、

家族旅行を兼ねて、『湯治』した。

隆の身体は治癒しなかったけれど、

隆は温泉地と温泉宿に魅了されて、

湯治とは関係無くても、

温泉を訪れることが生きがいとなっていた。

徐々に、湯治ではなくてレジャーと化して、

旅行そのものを楽しむようになっていった。

それでも、私と両親は、嬉しかった。

いつまで一緒に居られるかわからない、

隆との思い出を、日々紡ぐ思いだったから。




隆は入院がちになった。

それでも、外泊のたびに、隆は温泉旅行をせがんだ。

両親は、隆が喜ぶならば、と、

せっせと温泉旅行に連れ出してくれた。

お医者様には怒られたけど。

緊急時にバックアップ体制が取れない、って理由らしい。

それでも、お医者様は、

旅行先の近くの病院に連絡を取ってくれて、

緊急対応できるよう、気を遣ってくれていた。

隆が亡くなった後で、教えてくれた。

結局、一度も旅先でお世話にならなかったけれど、

お医者様も隆の為に精いっぱいの努力をしてくれた。




ある日、隆は大きな発作を起こし、

1週間、生死の境をさまよった。

一命はとりとめて、すぐに意識は回復したが、

今後、一切の外出禁止。

病院が隆の「住処」になった。

それと、、、余命6か月の宣告。


隆は何か感じるところがあったのだろう、

意識を取り戻してすぐに、騒ぎ出した。

「温泉に行きたい!」

私が止めても、

両親が止めても、

お医者様が止めても、

隆はあきらめない。

「温泉に行きたい!」

隆が納得できる理由は、説明できるはずがない。

周囲の様子から、隆は確信したようだった。

もう長くはない、と。




隆は、手首を切った。


幸い、傷は浅く、命に別状はなかった。

この事で、私も、両親も、お医者さまも、

隆が絶望したんだ、と思い知った。


それからしばらくの間の事は、実はあまり覚えていない。

ショックが大きすぎて、記憶がとぎれとぎれになったみたい。

それは両親も一緒だった。




そんな時だった。

病院帰りの道すがら、幼馴染の竹尾君とすれ違った。

余命宣告から、2週間後。

暦を見たら、そうなっていた。

「あれ?由貴じゃね?」

「どうした!」

「隆、そんなに悪いのか!?」

「俺とお前の仲だろ。隆だって、そうだぞ。」

「話してみろよ。少しは気が楽になるぞ。」

竹尾君に、全部話した。

隆の病状、余命宣告、自棄を起こした事。

いつしか、ボロボロと涙を流していた。

竹尾君は、黙って、聞いてくれた。


全部話し終わったところで、竹尾君が何かを思い出した。

「スマホ持ってるか?」

うん。

スマホを差し出した。

竹尾君はゴニョゴニョ操作してから、返してくれた。

「【温泉に行こう!】ってアプリだ。」

「隆と行った温泉旅行、このアプリに全部記録してから、隆に見せてやれ。きっと喜ぶぞ。」


夢中になって、家族旅行の資料をかき集めた。

アプリに記録した。




アプリの中には、温泉のすべてがあった。

私たちが訪れた記録だけじゃなくて、

私たちが見たことも聞いたこともない新たな発見が、あった。

同じ地を訪れた、アプリの利用者が、

自慢話のように、蘊蓄を垂れる。

それが、とても面白い!


早速、隆に見せた。

それはそれは、貪るように見入った。

寝る間も惜しんで。

「そうそう!こんなとこに行った行った。」

「へぇ~。もうちょっと先まで行けたら、そんなモノがあったんだぁ。」

「フフン。そこはそうじゃないんだよ。僕の方が知ってるんだぜ。教えちゃうよ~。」


あんまりにも熱中するものだから、

お医者様に制限された。

「スマホは1日1時間まで。言うことを聞かないと、次の日は没収だよ。」

最初の頃は夜中じゅうコッソリ見ていたのがバレて、ホントに没収された。

流石に懲りた。


それでも、お医者様の眼を盗んでは、

毎日、3時間~4時間は眺めていた。

少々(?)オーバーしちゃったけど、

節度を持ったことで、お医者様も大目に見てくれた。




余命宣告から、2か月後。

日ごとに、隆は衰弱していった。

今や、自分の足で歩くことが難しい。

松葉杖が手放せなくなっていた。

じきに車いす、寝たきり、と衰えることは明らかだった。

身体に無理してスマホを見ていたせいかもしれない。

お医者様が言っていた、やりすぎ注意っていうのは、これなのか。

私は隆に教えたことをちょっと後悔して、心の中で謝った。

そして、隆には、スマホを使う時間を、少し減らすように言った。


身体が不自由になった分、隆はワガママになっていた。

「分かった。減らすよ。っていうか、もう見ないよ。なんか飽きちゃった。だって、何回見たって一緒、変わり映えしないし。どうせ、もう温泉には行けないんでしょ?」


自棄を起こした姿が、重なった。

怖かった。

視界はぼやけて、

膝がガクガク震え、

その場にへたり込んだ。


もうあんな隆を見たくない!


ところが、隆は違った。

魂が抜けたように、無気力になった。

起きているんだろうけど、呼びかけても返事をしない。

食事にも全く関心がない。

本当に何もしなくなった。


竹尾君に、電話で相談してみた。

何も解決しなかった。

「【温泉に行こう!】の作者に相談してみようかなぁ。俺、ちょっと知ってるし。」

ちょっと待って、私が直談判する!

大急ぎで、作者である園田さんにメールした。


「前略 園田様


池野由貴と申します。

不躾ながら、ひとつだけお願いがございます。

余命6か月の弟、隆の願いを、どうか叶えてください。


隆は小児がんと共に生き、病院で生活しております。

外泊時は、家族旅行と称しては、

湯治目的で、名湯と言われる温泉を巡りました。

隆は温泉と温泉旅館にたいそう魅了され、

湯治という目的を忘れるほどに温泉を愛しています。


そんな隆ですが、先日、大きな発作を起こし、

次に大きな発作を起こすと助からないだろうという理由で、

主治医より外出禁止と余命宣告を受け、

隆の知るところとなり、自暴自棄を起こしてしまいました。

そんな折、知人より園田様の【温泉に行こう!】を紹介され、

隆は正気を取り戻しました。

言い尽くせないほどに感謝しております。

外出できない代わりに、隆は、

【温泉に行こう!】を夢中になって眺め、

【温泉に行こう!】に勇気づけられ、

いつか治癒して温泉に訪れることを夢見ています。


隆は治癒することはありません。


病は悪化の一途をたどり、日に日に衰えています。

今日、遂に松葉杖無しには歩くことができなくなった隆を見て、

父母に代わり、筆をとりました。


現在の【温泉に行こう!】は、

実際に温泉旅館に行った旅行記のように見受けられます。

温泉へ新たに訪れる感動を演出することはできませんか?

まだ見ぬ名湯、秘湯、を、隆が自由に旅するように、

変えることはできないでしょうか?

ご検討いただけますよう、切に願います。

草々」


作者の園田様からは、即日連絡があった。


「前略 池野由貴様


【温泉へ行こう!】の作者、園田と申します。

僕のアプリが、隆様に大好評な事、文面よりビンビン伝わってきます。

とてもうれしく、作者冥利に尽きます。


アプリの内容に関してですが、

僕も行き詰まりを感じていたところでもあり、

ユーザー様の意見を広く取り入れたいと考えていたところでした。

渡りに船。

私こそ不躾ですが、よろしければ、

詳しくお話を伺えませんか?

私を信用してくださるのであれば、

ご返信ください。


草々」


やった!

藁にも縋る思いで、作者様に返信した。

ちょっと離れたところに住んでいたが、

早速その日の夕方、病院近くの喫茶店で会う、

という約束をした。




園田さんはラフだけど清潔な身なりで現れた。

私は、病院帰りのため、両手に荷物を持ち、少々くたびれた格好をしていた。

実際くたびれていたのだけれど、恥ずかしいなんて言ってられない!


園田さんは、親身になって聞いてくれた。

隆の病状から始まり、

生い立ち、家族旅行の事、温泉の事。

徐々に、アプリへの不満、もとい、要望へと。

園田さんは、アプリを末永く愛してもらうことは思いついたけれど、

(インストールユーザー数を増やすこと)

積極的に利用してもらうにはどうすればよいか、には行き詰ったらしい。

(アクティブユーザー数を増やすこと)

正式に連絡先を交換して、

初日ということで、早めに別れた。




その帰り道の事。

観光バスが休憩で立ち寄ったところに居合わせた。

女性スタッフが談笑している。

一方はバスガイドさんらしい服装、

もう一方はツアーコンダクターさんかな。

「ちょっと時間押しちゃったね。」

「前の観光地で、迷子が出ちゃったからねぇ。」

「ツアコンさん、助かりましたよ。機転効かせて、お客さんの気を引いてくれてる間に、私とドライバーで迷子を誘導できたから、混乱は避けられました。」

「ハハッ。場数ですよ、こればっかりは。でも、チョット痛い出費だったかも。」

「え?あのゲームの景品って、ツアコンさんの自腹?」

「って云うか、アレ、アタシの私物(笑)。チップ代わりに咄嗟に出せるように、いつも持ち歩いてるものなのよね。まさかこんな形で使うとは、思わなかったわ。」

「え?あんな数、いっつも持ち歩いてるの!?」

「まぁ、ね。数あってもガサ張るものじゃないから。」

「そうなんだ~。なんかすご~い。」

「お互い、ツアーのサポート役。もうひと頑張りしましょう。」

「はい、よろしくお願いします。」




ツアーのサポート役、かぁ。

隆も、あんなに親切にしてくれるツアーに参加できたらなぁ。

でも、隆は、、、、

隆は新しい体験をしたがってる、なぁ。

でも、隆は、、、、

モヤモヤ。モヤモヤ。




帰宅して早速、園田さんへお礼の電話をした。

さっきのモヤモヤが頭から離れなくて、ついついグチってしまった。


「ソレだ!」

いきなり大声!

耳がキーンとなって、何も声が聞こえない。

「痛った~。何てことしてくれんのよ!」

「だ、か、ら。ソレだよ、由貴さん!」

「話が見えないんですけど!」

「ツアコン!」

「ハァ?」

「ツアコン!」

「ツアコン?なにが?」

「アプリ!」

「何の事?ちゃんと話して!」

「だ、か、ら、アプリ!」

「おちつけ!深呼吸!」

「。。。。すぅ~~~。はぁ~~~。」

「よろしい。では、改めて。」

「アプリにツアコンを登場させるんだよ。」

「はぁ。」

「反応薄いなぁ。アプリの新しい機能だよ。」

「ふーん。で?」

「今晩中に叩き台用意するから、明日、同じ時間に、同じ場所で!ヨロシク!」

ガチャ。

何よ、いきなり電話切って!

勝手に決めないでよ!

こっちも都合があるの!


、、、明日かぁ。

時間取れるじゃん。

なんだぁ。


でも、モヤモヤする。

何、あの態度!

モヤモヤが、もっとモヤモヤしちゃったじゃない!

もう、寝る!




翌日の夕方。

園田さんは、昨日と同じ格好のまま、ヨレヨレ。

「いや~、あの後、一睡もしないでアイデア練ってたんだ。」

「はぁ。」ヒマ人、なんだねぇ。

「興奮冷めやらず、って感じ?」

「なぜ疑問形?」

「ちょっとぉ!真面目に聞いてよぉ。」

「ってか、あなたこそ真面目に話してよ。」

「あ~ゴメンゴメン。実は、ねぇ。。。」


ここで語られた、新機軸。


仮想人格のツアーコンダクターが、、

アプリの利用者を、温泉旅行にご招待する。

自宅を出発するところから、帰宅するまでを、サポート。

ツアーコンダクターが温泉旅行を盛り上げ、

更に楽しいものにしてくれる。

全部、アプリの中の、仮想現実。

だけど、「その場」に「居た」事を記録してくれて、

更に写真や動画を取れば、そこに仮想世界を織り交ぜた

「拡張現実」の旅の記録が完成する。

後で再生もできる。


ふーん。


ツアコン?

昨日の私の話のパクリですか、ひねりも何もない。

ハイハイ。


「その場」に、

「居た」、ねぇ。

隆は外出禁止、

ほどなく寝たきりになるだろう、

っていうのに、

何ノンビリ考えてるんだか。



「これを機に【温泉へ行こう!】は、

【温泉物語】って名前を変えるんだ。」


はぁ、一人で盛り上がってるねぇ。

園田さん、楽しそうだなぁ。

。。。ツマンナイ。。。


「ここからが、由貴さんにとっての本題。」


。。。えっ!


「このアプリは、特定のスマホで使うと、由貴さんを、隆くんを、シアワセにしてくれるんだ。」


まだ、話が見えない。

でも、なんだろう。。。


「じゃじゃーん」


ん?


「このスマホね。誰にも言っちゃだめだよ。今いる場所を、好きな場所にしてくれるの!」


んん??


「だから、今は東京のど真ん中に居るけど、スマホをだまして、群馬の草津温泉に居ることにしてくれるの。ほら、これ。」


マップアプリで見ると、草津温泉に「居る」ことになってる。ホントだ。

。。。変だなぁ。

間違いなく、ここは東京の新宿、なのに。


「で、こっちのアプリでチョコチョコ、って弄ると、、、ほら、ど~こだ?」


あ、れ?

今度は神奈川の箱根湯本温泉、だ。

ナニナニ!

ウソ、でしょ?


「このスマホはね、ヒミツがあって、ね。新宿に居ながらにして、世界中のどこにでも行けちゃうんだ。スマホが誤解してるだけなんだけどね。ってことは、、、」


隆が、病院に居ても、全国の温泉地に「行く」ことができる?

ウソ、でしょ?

そんな話、聴いたこと、ないよ!


「試しに、有名な位置ゲー、動かしてみようか。」


ホントだ。

湯本に「居る」ことになってる!

コレ、ヤバイじゃん!


「シ~ッ!声が大きい。」


いつの間にか、私は大声になっていた。

も~~~~~!

恥ずかしくって、真っ赤な顔をして、シュンとした。


「どう?わかってくれた?」


コクコク。

なんとなく、わかった。

スゴイけど、ヤバイ。

なんか、イケナイことしてる!?


「確かに、イケナイことしてるんだよ。これは、僕だけのヒミツ。今から、僕と由貴さんの二人だけのヒミツ。隆くんとご両親にだけは、話してもいいけど、っていうか由貴さんの家族には知っててもらいたいんだけど、この5人だけのヒミツだよ。他の誰にも話しちゃだめだからね。」


でもでも、なんでこんなことができるの?

どういう仕掛けなの?


「ゲームアプリに特別な機能を入れちゃうと、公開した途端、アプリを見た人がバラしちゃうからね。それとは別に、ゴニョゴニョ弄るアプリ。こっちは非公開で、このスマホ専用。」


なんで、このスマホ専用、なの?


「僕が、このスマホを作った『中の人』なのさ。だから、僕は、このスマホでは、何でもできるんだ。」


え、でも、コレって。。。。

先週発売されたばっかの新製品。。。


「試作品は僕が作ったんだけど、大量生産が始まったら、僕はクビさ。いろいろ、あったんだよ。いろいろと、ね。。。」


「で、一つだけ、お願い。」


ん?


「このスマホでは、ほかの位置ゲーは使わないでね。いろんな人に迷惑かかるから。使うのは【温泉に行こう!】と【温泉物語】だけ。これなら、僕が迷惑するだけで済むし、僕が目をつぶれば大丈夫。じゃ、さっきの位置ゲーは削除、っと。ハイ、由貴さんにプレゼント。取り合えず【温泉に行こう!】は入れといたよ。今からこのスマホ使ってね。【温泉物語】が出来たら、入れてあげるからね。」




その日の夜から、園田さんは、【温泉物語】を作り始めた。

自宅に籠り、睡眠時間を削っては、没頭した。

打合せは、園田さんの自宅。

私は、積極的にアイデアを出しては、協力した。


餅は餅屋、温泉には温泉のプロ。

仮想人格は温泉ソムリエ、って設定にする。

その温泉ソムリエが、ツアーコンダクターに扮する。


万人ウケがいいから、仮想人格は女性限定。


園田さんは女っ気が全く無いから、

最初の仮想人格は私がモデル。

『絵』は、園田さんが知り合いを連れてきて、

私をモデルにして1日で描き上げた。

私が園田さんと会話する様子を、園田さんがず~っと記録していて、

話し方、性格、諸々は園田さんが形にした。


かな~り恥ずかしいけど、時間も人も無いので、諦めた。


ゆくゆくは、仮想人格を複数用意して、

その中から毎回1人を選び、気分を変えられるようにする。

それぞれの人格は、容姿、性格、得意なことも不得意なことも全部バラバラ。

人格を選ぶことも楽しみの一つになるし、

人格が異なれば、旅もすこーしだけ違う展開になる。


「ただし、エッチな事はダメ!」

「なんで?」

「アプリに年齢制限が付いちゃうでしょ。温泉ネタだから、って、変な気は起こさない。私がモデルなんだし、恥ずかしいから。。。絶対ダメよ!」

「ハイ。。。」(ショボーン)

「残念がらないの。」

「唯一の楽しみだったのに。。。」(小声)

「何か言った?」(ギロッ)

「スミマセン、ナンデモアリマセン。。。」(ショボーン)




余命宣告から、3か月後。

【温泉物語】は完成した。

園田さんが【温泉物語】をインストールしてくれて、

早速、隆のもとへ。

【温泉へ行こう!】で登録した温泉地へは、

ワタシのガイドで旅行した事になって、

データが入っている。

(【温泉へ行こう!】の既存ユーザーは、全部そうなっているらしい。)

そのことはとりあえずナイショ、

隆には、ツアーを最初から見せた。

「隆、どこの温泉に行きたい?」

「。。。。」

「そういえば、神奈川の箱根湯本温泉は行ったけど、強羅温泉は行ってないよね。」

「。。。。」

「じゃあ、強羅!」

初旅行先へ、スタート!

『隆さん、こんにちわ。』

「。。。。アプリ。。。。?」

『【温泉物語】をご利用いただき、ありがとうございます。』

「。。。。しゃべった。。。?」

『わたくし、本日担当させていただきます、ユキと申します。よろしくお願いいたします。』

「。。。。お姉。。。。ちゃん。。。。?」

『それでは、神奈川は箱根の強羅温泉へ、出発いたします。』

「。。。。え。。。。?」

『新宿駅から、ロマンスカーに乗って、箱根湯本駅へ。そこからは、台風災害から復旧中の今だけ運行している、バス代替輸送で、強羅駅まで向かいます。』

「。。。。ほんとう、に。。。。?」

『宿は「○○荘」、』

「知ってる。」

『こちらは、源泉かけ流しとなっております。』

「いい、なぁ。」

『箱根七湯と呼ばれる箱根の中でも、強羅温泉の泉質は○○泉で、~~~~』

。。。。

隆は、徐々に、アプリに関心を示し、

心を開いていった。


強羅に「居る」と、

自宅から強羅までの往復を、「ツアー」「ガイド」してくれる。

アプリの前に居る、隆、たった一人のために。


ワタシが。


初めて実物を見るけど、

なんかヘンな感じ。

ちょっとこそばゆいような。




「お姉ちゃん、昨日、強羅に『行った』よね。」

「えぇ。」

「もう一度、見られないの?」

「大丈夫よ。ここを、こうすれば、、、、ほら。」

「ほんとだ。ウチから強羅までの、旅番組みたいだね。僕はレポーター?旅行者?」

「さぁ、どっちかしらね。」


「そういえば、昔、湯本にも行ったよね?」

「そうね。」

「湯本も、見られるの?」

「そうよ。」

「見せて見せて!」

「ここから、神奈川、箱根、湯本、っと。ほらね。」

「アレ?あの時、お姉ちゃん、湯本に詳しかったっけ?」

「えぇ、っと。」

「アプリの中のお姉ちゃん、昔のお姉ちゃんじゃないよね。」

「私がモデルだけど、そっちはワタシ。」

「今のお姉ちゃん?本物より美人になってない?」

「たーかーしー!」

「ウソウソ、ごめ~ん。」




隆は車椅子生活を経て、

ベッドから抜け出すことができなくなった。

もはや、自力では体を起こすこともできない。

スマホを操作することも。。。

余命宣告から、6か月後。

計算上では、余命はゼロ。

文字通り、いつ死んでもおかしくない。

、、、その割には、隆は苦しそうには見えない。


隆は余命宣告の日数は、知らない。

敢えて聞こうともしない。

ある意味、吹っ切れたんだと思う。

1日1日、あぁ、今日も生きているんだうれしいな、

そう感じているんだろう、と、勝手に想像している。

私も両親も、あえて、触れない話題。

1日1日、あぁ、今日も生きてくれてるうれしいな、

そう言い聞かせている。




隆の傍らには、いつも【温泉物語】がある。


「お姉ちゃん、群馬県の水上温泉に『行きたい』なぁ。お願い。」

「ハイハイ、仕方ないわねぇ。」

「いつも済まないねぇ。ゴホゴホ。」

「それは言わない約束でしょ、お父っつぁん。って、何言わせるのよ!」

「いやー、ついノリで。」

「まぁいいわ、、、、っと。ハイ、水上温泉。」

「誰にする?」

「ルリちゃん。」

「はい、スタート!」

「わーい!」

初旅行先へ、スタート!

『隆さん、元気にしてた?』

『【温泉物語】に戻ってきてくれて、ありがとうね。』

『今日は、私、ルリが担当するから、よろしくね。』

『じゃあ、水上温泉に向けて、出発進行!オー!』


この頃には、【温泉物語】の仮想人格も人数が増えて、

ユキ、メイ、ナナ、アオイ、ルリ、と、

今や5人の大所帯(?)。

隆は、人格を楽しそうに選ぶようになっていた。

今のお気に入りは、新入りの「ルリ」。

ちょっと天然で、ちょっと幼げな外見。

だけどコツコツとしっかり仕事をこなす、健気な娘。

更に、この娘限定の特別オプション。

旅先では1回以上のハプニングに出くわすように、

ワザと「設定」されている。

そのハプニングがランダムで、かつ1回とは限らない。

そのドキドキ感が、隆を虜にしたみたい。


っと言ってる間に、早速ハプニング。

なんと、乗っていた電車が事故で遅延、

乗り継ぐ電車は発車してしまった!

乗り継ぎ駅で呆然とする、隆とルリ。

なんかシュールなんですけど!

見ている私が、おかしくなって来ちゃった。

「クスッ。」

「あ!笑ったな!」

「だって、何でアプリがこんなドジ踏むのよ。オモシロスギ。」

「うるさい!きっとルリちゃんが何か考えてくれるよ。」

「おーおー、お気に入りのルリちゃん、だもんねぇ。」ニヤニヤ

「黙って見てて!」プンプン

『隆さん、ルリが子守唄歌うね。隆さんが眠っている間に、次の電車が来るから、ゆっくり待っていましょう。』

「もうひと波乱ありそうなフラグ、キター」ニヤニヤ

「もう、黙ってて!お姉ちゃんってば!」


言ってるそばから、第2波。

子守唄を歌うルリが、まさか眠ってしまった!

そう来るか!

隆はルリを優しく起こす。

停車時間が長いお陰で、ルリは目を覚まし、乗り継ぎ成功。

『ゴメンナサイ。。。』シュン

「いいんだよ、ちゃんと乗り継ぎできたから。」デレデレ

『ありがとう、隆さん。優しいのね。。。』ウルッ

「」カァ~ッ

「プッ!」

「笑わないで!」

「アハハハッ!」

「も~~~!いいじゃんか!」プンスカ

「ドジっ子で萌え要素満載、ですなぁ。」ニヤニヤ

笑い過ぎて、おなか痛いよぉ。

隆、あんまり笑わさないで!

「茶化すんなら、あっち行って!」プイッ

「ん?ほんとにぃ?いいんだねぇ?」ニタ~ッ

「、、、そこに居て。」ブスッ

「宜しい。」ニコッ


その後は大きなハプニングもなく

(小ネタはちょいちょいあるけど)、

隆がルリを慰める、ってシチュが数回、

って期待通りの(期待を上回る?)展開で終わった。

「ご満足いただけましたか、殿」

「うむ、余は満足じゃ。」




「【温泉物語】の作者さんに、会いたいなぁ。」

「えっ!」

「ヘン、かなぁ?」

「どうして?」

「こんなに楽しいんだ。逢ってお礼言いたいな。」

「お礼なら、手紙にしようね。作者さんだって、きっと忙しいもの。」

「う~ん。」

「ほら、アプリ作るのって、大変でしょ?」

「僕、作れない。。。きっと忙しいんだろうね。」

「そう、そう。「温泉ソムリエ」ちゃんひとりを作るのだって、大変なんだから。」

「へ?お姉ちゃん、知ってるの?」

「知らない知らない。でも、人ひとりをアプリにするのだから、1日や2日じゃ、できないんじゃないの?」

「う~ん」

「何人も作っていたら、隆に逢う時間なんて無くなっちゃうよ。」

「う~ん」

「じゃあ、質問。【温泉物語】は、隆だけのもの?」

「違う。」

「じゃ、誰のもの?」

「みんなのもの。」

「作者さんは、何をする人?」

「【温泉物語】を作る人。」

「隆に逢っていたら、作者さん、どうなる?」

「【温泉物語】を作る時間が減る。」

「誰が喜ぶ?」

「僕だけ。作者さんも、みんなも悲しむ。」

「そういうこと。よくできました。」

「分かったよ。お姉ちゃん。」


園田さんは、隆に逢う事を、何故か嫌がった。

「僕は、隆くんにいい影響を与えないだろう。」

「むしろ、悪い影響を与える。」

「隆くんは、僕を恨んだり、憎んだりするだろう。」

「それが元で、【温泉物語】を嫌いになったら、困るんだ。」

「隆くんの意見は、由貴さんが僕に伝えてよ。」

「何でも手伝うし、どんな希望でも叶える。」

「由貴さんは、隆君の傍らに、ずっと、そっと、寄り添ってあげてね。」


「お姉ちゃん。」

「なに?」

「作者さんに、手紙書きたい。」

「えっ。」

「ペンは持てないけど、言うことならできる。お姉ちゃんがペンで書いて。」

「、、、わかった。用意するね。」

隆は語り始めた。

私が書き留めて、読み返す。

隆がチェックして、完成。

早速、園田さんへ手渡す。


手紙は、園田さんへの感謝の思いが、

【温泉物語】への愛が、文字となって溢れ出た。

【温泉物語】への要望も、前向きなものがいくつか。

隆の生の『声』を『聴いて』、園田さんは感慨深げだ。

時折ノートにメモしている。

このノートが、後に大いに役立ったと、

後日、園田さんは振り返っている。




隆は、辛そうに会話する。それほど衰弱した。

息苦しいような、かすれるような、そんな声。

余命宣告から、11か月後。

あとどれくらい生きられるのか、本当に隆は死ぬんだろうか。

弱々しいながらも、隆は生きている!


「今日はどこへ『行く』?」

「ベップ」

「別府温泉ね。はい。人格はユキでいい?」

「ハイ」

初旅行先へ、スタート!

『隆さん、こんにちわ。』

『【温泉物語】をご利用いただき、ありがとうございます。』

『わたくし、本日担当させていただきます、ユキと申します。よろしくお願いいたします。』

『それでは、大分は別府温泉へ、出発いたします。』

えぇと、人格は何人に増えたんだっけ、忘れちゃった。とにかくたくさん。

でも、最近、隆のお気に入りはワタシ。

こそばゆいけど、隆の希望だから。


「アリガト。」

「どういたしまして。」

「オネェチャント、リョコウデキタ。」

「えっ」

「タノシカッタ。」

「うん、楽しかったね。」

「アリガト。」

「ありがとう。」


そうか!

隆は、自分がいつ死んでもいいように、

私との思い出を積み重ねているんだ。

私も、実際には「旅することができない」隆との仮想旅行を、

思いっきり楽しんでおこう。




隆は、しゃべる事すらできなくなった。

まばたき1回がYES、2回がNO、っていう意思表示が精いっぱい。

意思疎通がもどかしい、

隆の表情からは、そう読み取れる。

余命宣告から、12か月後。


「厚木の七沢温泉でいい?」

「YES」

「ユキ?」

「YES」

旅行記録の再生、スタート!

『隆さん、こんにちわ。』

『【温泉物語】をご利用いただき、ありがとうございます。』

『わたくし、本日担当させていただきます、ユキと申します。よろしくお願いいたします。』

『それでは、神奈川は厚木の七沢温泉へ、出発いたします。』


七沢温泉は、初めて温泉旅行に行った、思い出の場所。

効能云々じゃない。

全部が初めてなので、

「温泉旅行」がどんなものなのか、

近場でお試しをすることが目的。

とりあえず一泊二日の小旅行。


三日前から、隆はこればかりを再生している。

他の温泉地にするか、と尋ねると、「NO」と言う。

人格もユキ以外は「NO」。

あれだけお気に入りだったルリでさえ「NO」。

そして、「楽しかった?」と尋ねると、

「YES」と答えて、眼を閉じ一筋の涙を流す。

そんな隆に背を向けて、私も泣いてしまう。


死期を悟ったのだろうか。


その時、かすかに隆の声がした。

「オネェチャン」

涙を見せてはいけない。急いで拭った。

「何、どうした?」

「ナナサワ」

「七沢温泉の事?」

「ハイ」

「また見る?」

「ハイ」

「ユキ?」

「ハイ」


どうしたのだろう?

今さっき見たばかりなのに、続けて見たがるなんて。

ま、いいや、隆の希望だから。

旅行記録の再生、スタート!

『隆さん、こんにちわ。』




次の日の早朝、隆は逝った。

安らかに、眠るように。

その表情は穏やかで、

痛みや苦しみは、全く感じていないと思わせるほど。


私は泣いた。

両親も泣いた。

お医者様も看護婦さんも、みんなが泣いた。


お昼過ぎ、園田さんから着信。

いつもは午前中に1回はアプリを動かすのに、

今日動いた形跡がないので、

もしや、と、心配になったそうだ。


「逝きました。。。」

「よく頑張ったね。」

「。。。」

「。。。」

「うわーん!」

電話に出るために抑えていた涙が、

堰を切って零れた。

園田さんのくぐもった声が一瞬聞こえて、電話は切れた。

園田さんも、たぶん、、、きっと、、、




隆の葬儀には、園田さんも、竹尾君も、参列してくれた。




隆の身の回りが整理できた頃、園田さんに、スマホを返しに行った。

両親から預かった、園田さん宛の、感謝の手紙も携えて。


「受け取れないよ。っていうか、由貴さんにプレゼントした物だし。それに、今や、隆くんの『遺品』でも、あるんじゃない?」


あ。

そうだ。

旅行の記録はデータとして、アプリのサーバに溜まっているけど、

このスマホは、隆との思い出を紡いだ、大切なスマホ。


「じゃあ、こうしよう。そのスマホから、『世界中のどこにでも行けちゃう』機能だけをなくしちゃおう。僕はそのスマホに関しては、何だって出来ちゃうんだから。だから、そのスマホは由貴さんが持っていてよ。」


園田さんは自分のスマホを取り出すと、ゴニョゴニョ。

遠隔操作、したんだ。


「ハイ、なくしたよ。マップアプリで『現在地』を確認してごらん。」


最後に『行った』のは、えぇと。

七沢温泉は再生で見たんだし、

その前は、どこに『行った』んだっけ、、、、

忘れた。

とにかく、どこかの温泉地に『行った』のは間違いない。

えぇと、現在地は、っと。


今いる『喫茶店』!?


現在地をゴニョゴニョ弄るアプリは、、、

アレ?

なくなってる!


「そう、全部消したよ。スゴいけどヤバイものは、全部ね。これで、そのスマホは、普通の、どこにでもある【温泉物語】になったんだよ。いま、温泉に『行け』ば、わかるよ。」


行けない。

初めて知った。

現在地が温泉地じゃないから、アプリは新しいツアーを開始できない。

再生専用だ。

いつも、温泉地に『居る』状態でアプリを使ったから、

それが普通だと思っていた。

普通じゃなかったんだ。


「これで、そのスマホをどう使おうとも、由貴さんの自由。電源を止めて、遺品として大切に保管するのもイイ。思い出を再生するのもイイ。新たにどこかの温泉に行くのもイイ。由貴さんの思いのままに、使ってほしいな。」


一旦、両親と相談することにして、使い方は保留した。


「そうだね。ご両親と3人で決めるとイイ。」




両親は、スマホを持って、時々温泉旅行に出かけることを選んだ。

普段は隆を偲んで思い出を再生するんだそうな。

その為にも、スマホは両親に預けた。

私は、時々両親から借りて、

隆と『行った』思い出を再生することを選んだ。

「オネェチャント、リョコウデキタ。」

隆の言葉と、隆との思い出だけ、あればいい。

隆を忘れなければ、時々思い出してあげれば、それでいい。




突然、園田さんからプロポーズされた。

アプリにワタシの人格を作るときに、

資料を集めて、一日中観ていたら、惚れてしまったのだそうだ。

それって、私?

それとも、ワタシ?

どっち!

悩んだ末、園田さんの答えはシンプル。

「どっちも!」

好きになるきっかけはワタシ、でも、好きなのは私。

何じゃそりゃ!?


今思えば、打合せしてる時の園田さんって、途中から雰囲気が変わった。

優しいような、でも、嘗め回すような視線。

話し方が、少し図々しくなったのも、その頃だったような。


そういうことだったのか。。。


悩みに悩んだけど、私はに答えが出せなかった。

ふと、竹尾君に相談してみた。


「いいんじゃない?」


何が?


「園田だよ。」


どういうこと?


「結婚相手として、さ」


何で?


「決して悪い奴じゃない。むしろとってもイイ奴。みんなのためを思って動いてくれる、熱血漢。それは、由貴が一番よく知ってるだろ?」


あ。

そうだった。

出来過ぎなほど、お膳立ても整っていて、

隆のために、

精一杯考えて、

精一杯働いて、

アプリを作ってくれたんだった。


『(このアプリは、)由貴さんを、隆くんを、シアワセにしてくれるんだ。』


嘘じゃなかった。

隆はシアワセになれた。シアワセなまま、逝った。

私もシアワセになれた。シアワセな思い出を、隆と紡いだ。


「会社を辞めた経緯だって、アイツが悪人だったから、じゃない。超ブラックでハードワークが続いて、アイツ自身が潰れそうになった時、たった1日、たったの1日休みを取ったことが、こじれただけなんだ。その証拠に、最後は社長が頭を下げて、破格の待遇で再雇用する話もあったんだ。アイツは蹴っちまったけどね。辞めた後だって、社長はアイツを陰ながら応援してくれたんだよ。今だって付き合いは続いてる。全部アイツの人徳だね。」


やけに詳しいんだね。


「園田は、俺の元同僚。由貴の持ってるスマホ、アイツに貰ったんだろ?それ作ったの、俺とアイツ。俺がハード、アイツはソフト。言ってなかったっけ?」


ちょっと知ってる、って聞いたよ?

全然、ちょっとじゃないじゃん。

どっぷり浸かってる、同じ穴のムジナじゃん。


「『由貴が園田を選ぶ』んだったら、俺は応援するよ。」

そう言った竹尾君は、少し寂しげな笑顔を見せた。


選ぶんだったら?

選ばなかったら、どうするの?


「ナイショ。」


竹尾君、少し性格変わった?


「まぁ、ね。社会に出れば、世間の荒波に揉まれて、変わっちまうもんさ。」


それだけじゃない気がするんだけど。


「気のせいさ。気にすんなって。」


「俺に相談してくれたこと、うれしかったよ。」

また、寂しげな笑顔。

どうしたんだろう?




竹尾君の事がちょっとだけ気になるけど、

話の内容は超納得できるし、

私も満更ではない。


プロポーズはお受けすることにした。



「隆くんの喪が明けたら、話を進めようか。喪が明けた翌日に結婚、なんて、怪しすぎるからね。」




あれから何年過ぎただろう。

今や私は、園田由貴。

園田さんは【温泉物語】を運営する会社を興し、

社長に就いた。

私は社長夫人、ってことになる。

設立時のメンバーには、竹尾君も居る。

どうやら取締役の一人らしい。

ワタシを描いた人は、外注さんに収まった。


実は、会社の事は詳しくない。

園田さんは、仕事を家庭に持ち込まない人。

会社勤めの時と、個人事業主の時に、相当懲りたらしい。

家は安らぎの場所、仕事は忘れる、のだそうだ。

、、、といいながら、しょっちゅう会社の人を連れてきては、

やれBBQだ、

やれ吞み直しだ、

と騒ぐ。

仕事は忘れても、仕事仲間の事は忘れない。そういうことか。

その流れで聞いた話では、

どうやら新人を採用するらしい。

期待の新人だ、珍しく女性だと、園田さんは騒いでいた。

まさか、不倫候補!?




【温泉物語】には、相変わらずワタシが居る。

可もなく不可もなく、平均的で目立った特徴は無い。

たくさんの新人が登場し、

彼女らはとんがった特徴を持っているので、

ワタシは埋もれがち。

アプリの歴史だから、と残されている。

一定数の固定ファンがいるらしい。

ちょっとだけ私よりも美人に描かれているのは、公然の秘密。

人気は、そのせいかもしれない。



増えたといえば、会社の新人、仮想人格の新人。

それに、もうひとつ。

それは、、、



アプリのスタッフロールの最後。

「この【温泉物語】を愛して止まぬ、一人の少年に捧ぐ。」


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