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恋慕、そして夜の街

「……アリアちゃん、大丈夫? 具合が悪かったりする?」

「…い、いえ、大丈夫です。心配をかけてしまい申し訳ありません……」

結局あの後しばらく上の空だったが、根気強く声をかけ続けてくれたエリスのおかげで我に返った。


「どうしたの? 何かあった?」

「…えーと……疲れてましたし、少し驚いてしまって」

「驚く? 何に?」

「い、いえ……何となく、ミリアムさんがそういう……れ、恋愛とかをするタイプではないと思ってたので」

「恋愛……? ああ、アランのこと? ミリアムもアランも、お互いに鈍かったのよね……

あ、ちなみに、アランもミリアムのこと好きだったのよ? こっちからしたら、早くくっつきなさいって思ってたんだけど……って、どうしたの?」

「イエ……ナンデモナイデス……」


ば、バレていたのか……隠し通せていたと思っていたのだが……

だがまあ、本人にはバレていなかったようだし……やはり互いに鈍かっただけか。

「……アランも生きていれば、私とジオみたいにミリアムと結ばれていたのかしら」

「……エリスさん」

「あ、ごめんなさいね。さっきはせっかく話題を逸らしてくれたのに……

……でもね、アランは私たちの中でそれほど大きな存在だったのよ」

「……」


俺の事をエリス達がそう思ってくれていたというのは、素直に嬉しい。

悪いように思われているとは思っていなかったが、正直、どう思われていたのかは不安であったのだ。

「……ありがとう」

「…? 何?」

「……何でもないですよ」

俺は自分でも驚くほど自然な笑みを浮かべ、エリスに向き直ったのだった。



その日の夜、家の人間が寝静まった頃、俺は黒いローブに着替え、宛てがわれた部屋から抜け出し夜の王都へ繰り出した。

昼間の喧騒さはどこへやら、近くで動く気配は野良猫くらいしかない。

「さて……久々にコイツの試運転といこうかな」

俺は両手を開いたり閉じたりしながら、蜘蛛糸(スキュラ・クロウ)の感触を確かめる。

今の俺の魔力がすっかり馴染んだのか、アランとしての俺にピッタリだった相棒はこの小さな手にフィットしている。こういった体に装着するタイプの魔導具にはたまに起こる事だが、アラクネの糸という伸縮性の高い素材ということもあり、顕著に現れているようだ。


「……鈍ってなきゃいいが」

試しに、蜘蛛糸(スキュラ・クロウ)に自らの魔力を通し、編み込まれた糸を動かす。

糸は自分の思った通りに動く。問題なさそうだ。

次に、手頃な家を見つけ、その煙突に向けて粘糸を飛ばし、固定させる。少し力を入れて引っ張ると伸びるが、切れないことが感覚で分かる。糸とはいえ、災害級の魔物の持つ糸だ。滅多なことで切れたりしない。

煙突にくっつけた糸を手繰り寄せる動きをすると、俺の体は簡単に地を離れ、その煙突のある屋根までたどり着く。着地すると、くっついて離れない勢いだった糸は自動的に手元に戻ってきた。


「…うん、こうして移動する分には大丈夫そうだな。問題は鋼糸だが……」

鋼糸を使うには、街中は危険すぎる。少し間違えると建物を切り刻むかもしれないのだ。

「やはり、こっちは実戦で試すしか無さそうだ……」

とはいえ、暗殺業など営んでいない今の俺にそんな機会がそうそう訪れるわけは無いだろう。

とりあえずの検証としては十分なのだが、せっかくの王都だ。

あの時は蜘蛛糸(スキュラ・クロウ)奪取で頭がいっぱいだったが、今夜なら周囲の地形を把握したりも出来るだろう。明日は学院もないし、多少の夜更かしは許容範囲だ。教育的にはよろしくないが。


「『身体強化(フィジカルブースト)』っと……」

自身に強化魔法をかけ、軽くストレッチをする。

屋根を伝っていくが、今は住民たちが寝静まった夜中だ。足音を立てないように移動する訓練にもなる。

トントン、とその場で小さく跳んで、俺は駆け出した。

高速で流れていく景色を持ち前の動体視力と記憶力で把握していく。

通り過ぎていく夜の空気が心地良い。暗殺者時代を思い出す。まあ今は、何事もなく平和なものだが。

途中からは蜘蛛糸(スキュラ・クロウ)も使って、より高速での移動を始めたりもした。



「…ちょっと、調子に乗りすぎたかな」

いつの間にか、かなり遠くまで来てしまっていた。

来た道は覚えているから、そこを戻れば帰れるのだが……それでもかなり遠い。

遅くとも夜明けまでには戻らなければならないし、余裕を持ってそろそろ来た道を戻るか。


くるりとその場で方向転換するが、あることに気づいて足を止める。

「……薄いが……血の匂いか……?」

錆びた鉄のような、鼻の奥にこびりつく嫌な匂い。暗殺なんてことをやっていたが、この匂いは苦手だ。

俺はしばらく考えた後、匂いを辿ることにした。

十中八九厄介事だが、もしそれで困っている人間がいるなら放っては置けない。

それに、もしかしたら実戦ができるかもしれないという期待を胸に、俺は匂いの発生源に向かった。

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