ホームステイ、そして再会(前)
「…まさか貴方の家が私の仮住まいとは……世の中は狭いというか、何と言うか…」
「……何かお前、たまに歳食ったようなこと言うよな」
「仮にも貴族の子女に向ける言葉ですか……まあ別に構いませんが」
しかし実際、アレクがこうして普通に接してくれるのは助かる。
変な偏見を持たずあくまで同い年の子供として接してくれた方がこちらとしても楽だ。
しかし気になるのは……
「…ところで、どうして貴方はそんな憐憫の目でこちらを見るのです?」
「いや…多分お前、親父に目つけられるからさ…」
「…? 問題のある方なのですか?」
「まあ、ある意味問題だな……お前、俺と互角だったろ。
親父の地獄の訓練に付き合わされるぜ、ほぼ確実に」
…ほう? 望むところだ。この身体で更に強くなれるのなら本望だ。
しばらくアレクと談笑しながら歩いていると、一軒の家の前に立ち止まった。
「着いたぜ。ここが俺ん家だ」
俺は目の前の家を見上げる。
…ふむ、木製の中々立派な家だ。俺の住んでいたブライト家の屋敷と比べてしまうと見劣りしてしまうが、少なくとも一般市民が住めるような家の大きさでは無い。アレクのあの戦闘習熟ぶりから見ても、恐らく高位の冒険者あたりの家庭だろう。そんな冒険者から手ほどきを受けていたのならまああの強さも納得出来る。
「ただいま〜、例の子連れて来たぞ」
俺が色々と考察していると、アレクは無遠慮に扉を開けた。
確かにここはお前の家だが…一応初対面の俺がいるんだからさぁ……
若干俺は呆れながらも、礼は尽くさねばと思い、玄関まで出てきたアレクの両親に挨拶をしようと前に出る。
「お初にお目にかかります。アリア=ブライトと………」
そこまで言いかけて、俺は固まった。
それはもう綺麗に固まった。後にも先にもここまで固まることはないだろう。
なぜならば、目の前に居るアレクの両親の顔が馴染み深いものだったから。
「ジオ………に、エリス……?」
思わず素が出てしまった。
だが、幸い驚きで声にもならないほどの呟きだったため、そこまで訝しがられることはなかった。
ジオ=ベルンにエリス=セントリス。
かつての俺の仲間であり、共に魔王城に乗り込んだ2人だ。
(アレクの父親って、まさか……ジオだったのか!?)
ジオとエリスは、固まったまま動かない俺を見て心配したのか、
「え、えーと……大丈夫か?」
「緊張しているのかしら……そう畏まらなくてもいいのよ」
「……ハッ! だ、大丈夫でしゅ…です! ま、まさかアレクの両親が貴方がたとはつゆも思わず…!!」
やっべ、変に噛んだ。凄く恥ずかしい。
ジオとエリスは少し驚いたように顔を見合せ、その後クスクスと笑った。
「な、何です…?」
「ああ、すまん。いやなに、アルスからはいつも落ち着いた子だと聞いていたからな」
「気を悪くしたのならごめんなさいね」
この野郎、人の気持ちも知らんで……そりゃ驚くわ。
転生してからのホームステイ先がかつての仲間の家とか予想できないだろ。
「…さて、既に知ってるみたいだが、改めて自己紹介だ。
俺はジオ=ベルン。一応、魔王にトドメを刺したのは俺だ! 凄いだろ?」
「ジオ、調子に乗らないの。次は私ね。
エリス=セントリス。肩書きとしては『聖女』だけど…小っ恥ずかしいから普通にエリスさんって呼んでね。
あ、もしくはお母さんでもいいのよ?」
俺は自己紹介を聞きながら、少ししんみりとした気持ちになった。
毎日張り詰めて、口論も珍しくなかったコイツらが冗談も交えて笑顔で話せているところを見ると、世界は平和になったのだという実感が湧く。
「…では、今度は私ですね。
アリア=ブライト。ブライト公爵家の娘です。先程はとんだ失態を……」
「良いのよ、貴族のお嬢様といっても、まだ子供なんだから。
それと、そんなに肩肘張った物腰じゃなくて、もっと気軽に接して欲しいわ」
「そうだな。しばらくの間とはいえ、家族になるんだからな」
「わかりまし……わ、わかった」
俺の返答に満足したのか、ジオとエリスがうんうんと頷く。
…しかし、変わったな。コイツらも。
ジオはともかく、エリスはもっと厳格な性格だった。家庭に入って丸くなったらしい。
性格的には変わってないジオも、体格がさらにがっしりとした印象を受ける。
……こうして見ると、アレクはジオ似だな。剣の才もコイツの息子なら納得せざるを得ない。
しばらく話した後、俺は疑問に思っていたことを質問した。
「え…っと、質問が2つほど。
まず、ジオさんとエリスさんは父と知り合いみたいでしたが、どういう関係ですか?」
「敬語が染み付いてるんだな……まあいいか。気長に待つとしよう。
アリアちゃんの両親……アルスとルージュとは、魔王討伐後からの付き合いだ。
俺たち討伐パーティの力を取り込もうとしてた各国の他の貴族連中と違って、ブライト家は親身に接してくれてな。最初は俺達も疑ったんだが、あの2人の人となりを見れば、裏がないのは分かったよ」
ふむ…なるほど。そういう関係か。
2人と俺の両親は歳も近いし、友人のような関係なのだろう。
「それで、2つ目は?」
「あぁ、えーと、その……他の討伐パーティメンバーの皆さんは元気なのかな、と」
「あら、あの3人ならこの街にちょうど居るわよ? 」
「えっ!?」
思わず声が出てしまった。まさかこの街にいるとは……
「会いたいのなら、こちらで都合を聞いてみるけど……」
「あ、いえ、元気だということを知れただけでも十分……」
「…の割には、会いたそうな顔してんな?」
「う……!」
アレクの鋭い突っ込みにたじろいでしまう。
実際会ってみたいという気持ちはあるが、今アイツらに会う心構えが出来てない。
エリスはクスクスと笑って、
「大丈夫、皆子供好きだから喜んで来てくれるわ。ただ……」
そこで言葉を区切ると、少し陰鬱とした表情で、
「……あの2人の子の貴女は聞かされたと思うけど、1人、討伐戦の時に……」
その言葉に俺はハッとする。 確実に俺のことだ。
「あ、だ、大丈夫です! お、お辛いことでしょうし、その……!」
「……ふふ、優しいのね」
すみません、違います。気まずいことこの上ないからです。
「…さて、暗い話題はやめよう。アイツの命日も近い事だし、思い出すのは仕方ないがな。
アイツはきっと俺たちが悲しむのは望んでないさ。ところで……」
ジオが会話の流れを断ち切る。正直有り難……
「アリアちゃん、アレクと剣で互角だったらしいな……?」
瞬間、ゾッと全身を寒気が走った。
(そ、そうだ……! アレクが言ってた、俺に目をつけた相手ってのは……!!)
「…明日から、アリアちゃんもアレクと一緒に訓練してみないか?」
俺はジオの本気度とアレクからの無言の圧力により、断れなかった。
翌日から、本当の地獄が始まる……




