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教会、汚れた信者

 王都エルドランに到着した俺は、御者を務めた商人と護衛の冒険者たちに礼を言い、彼らと別れた。

 既に空は黄昏色に染まっており、これからこの街で行動するのは難しいと、今日の所はさっさと宿屋を探し休むことにした。

 道行く人にいい宿を紹介してもらい、その宿へ向かう。


 「……さて、明日からどうするか」

 宿にチェックインした後、割り当てられた部屋のベッドに横たわりながら、そう独り言を呟いた。

 「試験は……今日も含めてあと三日後。『蜘蛛糸(スキュラ・クロウ)』奪取は、明日からの二日間に実行するべきだな……

 話によると、ピューリ教会に保管されているそうだが……どの程度の防御措置(セキュリティ)がかけられているのかが問題……それこそ空間固定なんてマネされてたら、奪取なんて不可能だ」


 一応、第三者に聞かれないために、極力小さく、声に出しながら計画プランを組み上げていく。

 「まず、ピューリ教会に行ってみないことには始まらない。可能なら現地で情報収集だ。

 ブツの場所が分かれば僥倖……分からずとも、教会に保管されているということが事実と分かれば、それで吉。

 そして夜に、隠密(スニーク)しながら教会に潜入。まあ、シンプルだが、これしかない」

 更に俺は、思考を巡らせていく。

 「防御措置は……魔法的なものだったら、手の施しようがない。魔法は使えるが、そこまで造詣が深いわけでもない。解除は不可能。回避もできるかもしれないが、絶対じゃない。

 物理的なもの……何錠もの鍵がかけられているとかなら、俺が前世で培った技術が生きる」


 自分で言っておいて、分の悪い賭けだと思う。

 曲がりなりにも、俺が盗もうとしているのは聖遺物……宗教における宝だ。より強固である魔法で守られている可能性が高い。

 それにそもそも、隠密や解錠と言った、泥棒(シーフ)の技術も持っているとはいえ、実際に盗みを働いたことはない。あくまで殺しだけ。

 あまり変わらないようにも思えるが、油断はできない。


 「当たるも八卦、当たらぬも八卦……か。ダメだったら、俺の運がなかったってことだ」

 この身体でできることは、やはり前世と比べると圧倒的に少ない。

 しかし、一年前時点で、暗殺の腕自体は落ちていないようだったし、最悪、何かに巻き込まれても自己解決できるとは思う。

 これは、言うなれば保険……更に大きな力を手に入れるための賭けギャンブル。

 その力に対する俺のBETはさして重くない。無理と思えばすぐにでも退ける。

 それに、この作戦は急を要するものではない。時間をかけ、安全性・確実性を高めた後で実行もできる。

 ただ、今すぐにでも相棒を取り戻したいという意思があるだけだ。


 「……考えていても、埒が明かないか」

 ふと窓の外を見やると、オレンジ色だった空は暗い闇に包まれていた。

 「明日は、朝から教会行きだな……」

 二日間の馬車旅の疲れもあり、一つ大きな伸びをした後、そのまま目を閉じた。




 翌日、早朝に目の覚めた俺は早速、屋敷で用意した服の中で一番目立たないものを着用し、ピューリ教会へと向かった。

 事前に教会の場所は調べており、特に迷うこともなく目的地に着いた。

 「……思っていたより大きいな」

 白い石材で造られた教会を見上げ、そんなことを呟く。

 (……何で、俺を祀ったかね……アイツらも、そういうのは俺は好きじゃないって知ってると思うんだが)

 小さく息を吐きながら、俺は教会の中に入っていった。


 教会内部は質素な造りで、巨大な十字架像や硝子窓といったものはあるが、その他は二十ほどの長椅子くらいしか目立つものはない。

 そして外見ほど中が広くない。奥の方に扉が見え、礼拝堂以外の施設もあることが予想がついた。

 既に、十人程の人間が内部に居り、祈りを捧げるなり、信者同士で談笑していたり。

 確かに、ガラの悪そうな連中もいるようだった。


 そして何より……

 (……何だこれ、盗んでくれって言ってるようなもんだ)

 奥の十字架像の手前、台座の上の硝子ケースの中に、俺のかつての相棒が飾られていた。

 (……見たところ、鍵はかけられていない。魔法的なものは分からないが……ここまで近づいて、何の魔力も感じないのは、やはり……)


 俺が周囲の目も気にせず純白の手袋をまじまじと見ていると、後ろから声をかける人物が。

 「その手袋に、興味があるのかな?」

 「……ッ」

 明らかに怪しい行動をしていたことを悔いたのもそうだが、その声に身体を強張らせた。

 明らかに、俺と同類の人間の気配だ。


 「やあ、お嬢さん。私たちは、新しい信者も歓迎するよ」

 俺の背後に居たのは、黒髪をオールバックにした、闊達そうな老人。

 恐らく、シドとタメあたりだろう。その老体に似合わず、180くらいの身長はある。

 その眼光は鋭く、老いを感じさせない。


 俺はどこか緩んでいた神経を尖らせ、その老人に向き直った__

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