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道中、被る旅路

 王都エルドランへ向かう道中。

 馬車には、御者として俺を運んでくれている商人と俺、そして護衛としてブライト家に雇われた冒険者数人。

 二日もの長い旅だ。もう少し暇なものかと思ったが、冒険者たちとの世間話が、思いのほか盛り上がった。


 「しかし嬢ちゃん……お嬢様とはいえ、年の割にしっかりしてんな? 大人びてるっつーか……」

 「まあ、よく言われます。自覚もありますし……色々と仕方ないというか」

 「……? まあ、いいか。エルドランに着いてからも、暫く時間あるんだろ? 何するつもりだ」

 「そうですね……とりあえず宿をとって、それからは、ピューリ教会なる場所に行ってみたいと思っています」

 「ピューリ教会……ああ、あのアラン=ハイドを祀り上げる教会か? やめろとは言わんが……良い話は聞かないぞ」


 おっと、それは聞き捨てならないな。

 「何故でしょうか」

 「いやー、噂程度の話なんだが……『慈愛の十字教』、だったか? あれの教祖というか、信仰対象って、英雄とはいえ暗殺者だったヤツだろ?

 だから、その信者も、元犯罪者だったりすることが多いんだってよ。大抵は足洗ってるらしいが」

 「……なるほど」


 一応、俺が信仰対象の宗教で、アイツらが興した宗教だ。

 無下にすることはできない。正直に言えば、今すぐにでもやめては欲しいが。

 「あくまで、噂ですよね? それに、実害のない元犯罪者よりも、過激な宗教のほうが厄介ですよ。

 風の噂で、未だ密かに宗教裁判は行われていると聞きます。神なんて居ないと思いますけどね……」

 「……嬢ちゃん、あんまりそういうこと声を大にして言うんじゃないぞ?

 というか、無神論者が何で教会に用があるんだ?」

 「『慈愛の十字教』は神を信仰するのではなく、実在の英雄アラン=ハイドを信仰する宗教ですし、元々アラン=ハイドには興味があるんです。

 ピューリ教会には彼が生前使用していた武器が祀られているとも聞きましたしね」


 そんな会話をしているうちに、その日は日が暮れた。

 御者の話によると、このまま何もなければ、明日の夜には着くらしい。

 川のほとりに馬車を止め、積んであった折り畳み天幕を設置し、今日は野宿だ。

 冒険者たち……特に、女性冒険者が、俺のような幼い貴族令嬢が野宿ができるのか心配していたが、前世では毎日のように野宿だったのだ。舐めないでいただきたい。


 味気のない保存食を齧った後、見張りを冒険者に任せ、俺は天幕の中に入った。

 (……まあ、天幕があるだけマシだな。

 冒険者たちが見張ってくれてはいるが……警戒は怠らないことにしよう)

 その後すぐに眠りについたが……


 およそ二時間後。俺は複数の気配を感じ、唐突に目を覚ます。

 「……囲まれてるな……十以上いるか」

 恐らく、寝込みを襲う盗賊だろう。

 防護結界も張っていないし、格好の獲物に見えるだろうが……冒険者たちも気づいている。

 戦い方を熟知する冒険者と、それなりに戦えはするが所詮素人の盗賊。

 構図としては五対十といったところだが……冒険者だけで事足りるだろう。


 その後、しばらくして天幕の外から戦闘音が聞こえてくる。

 全く見てはいないが……大体状況はわかる。

 冒険者側が逆に盗賊側に奇襲をかけ、連携の崩れたところを各自撃破している。なかなかいい動きだ。

 盗賊側が半数を切ったあたりで、盗賊たちは撤退。まあ、いい判断だな。だが……


 ぎゃあああぁぁぁ……と、悲鳴が遠くから聞こえてくる。

 事前に俺が張った罠で、網に囚われたのだろう。

 あまりにお粗末な尾行だったため、同行者たちの目も盗んで、罠を張っていたのだ。

 冒険者たちがその方向に向かって駆けていくのを感じたところで、俺は再び眠りについた。



 翌朝、天幕から出ると、辺りから微かながら血の匂いが漂ってくる。

 盗賊は……恐らく、その辺に拘束しているんだろう。

 帰路でもまだ死んでいなければ、そのまま連れ帰って憲兵にでも突き出すのだろう。

 まあ、俺が気にする問題でもないし、冒険者も俺に気を遣って黙っているようだ。触れないでおいた方が良さそうだ。


 そしてその後、特に何も起こることはなく、馬車はエルドランに向けて再び進みだし、それが一日続いた。

 昨夜の盗賊事件以降は平和なもので、冒険者たちとの雑談に興じながら、穏やかな時間を過ごし……

 日が暮れようかという頃、エルドランの周囲を囲む壁が見えてくる。


 (ああ、この旅ももうすぐ終わりか……意外と快適だった)

 俺は近づいてくる門を窓からボーっと眺めながら、そんなことを考えた。

 かつての俺も、馬車こそあまり使わなかったが、野宿をしたり、襲ってくる盗賊や魔物を撃退したり、仲間たちと談笑したり。

 (……やっぱり俺、アイツらとの旅も、楽しかったんだよな……)

 かつての旅を思い出しながら、俺は知らず知らずのうちにその頬を緩ませていた。

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