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幕間、死神の足跡

 「はぁっ、はぁっ……!! 皆、集まってるか!?」


 イーリアス王国王都・エルドラン。

 その一角にある、とある家にて。

 ばんっ、と乱暴に扉が開かれる。

 部屋の中にいた四人の人間が、その姿を注視した。


 「……どうしたの? そんなに慌てて」

 エリス=セントリス。

 この十年ほどで家庭に入ったことで丸くなり、敬語の取れた『聖女』。


 「まったく、静かにできんのか……我々が集まっているのは、『アイツ』の弔いのためなのだぞ」

 ゲイル=カッツェ。

 魔王討伐後、帝国に戻り一線を退くも、未だ帝国軍特別顧問として在籍する、衰えの知らない『歩く要塞』。


 「そっか~……もう、あれから十年以上経つのか……早いね~……」

 ミリアム=コルズ。

 魔王討伐後、ここイーリアスに移住しのんびりと暮らしているも、その身体能力は依然健在の猫獣人『韋駄天』。


 「少しは、ジオの話も聞いてやらんか……」

 シド=メイディ。

 七十を越した現在も、魔法界の重鎮として世界に名を馳せる『大賢者』。


 そして、息を切らせ部屋に入ってきた、ジオ=ベルン。

 『聖女』エリスと籍を入れ、冒険者稼業を続ける、大衆の英雄ヒーロー『神剣』。


 かつて魔王を討ち果たした六人の英雄のうち、戦死した『慈悲の死神』アラン=ハイドを除く五人が、一堂に会していた。

 普段なら絶対に見られないドリームチームの集結の目的は、他でもない、アランの墓参りのためだ。

 二日後が、アランの命日。それに合わせ、他国からもメンバーが集まっているのだ。



 「はぁ、はぁ……ふぅ……」

 呼吸を整えるジオ。

 あれから十年以上経ち、三十を超えたとはいえ、未だ現役の冒険者。

 ただ走ってきただけで、ここまで息を切らすことはないはずだ。

 「……お、落ち着いて聞けよ……?」

 ジオは最後に大きく深呼吸をし、意を決したように、口を開く。



 「アランが……生きてるかもしれない」



 その発言に、場の空気が変わる。

 しばらくの沈黙の後、口を開いたのはミリアムだ。


 「い、いやいや……ありえないでしょ!? アイツを看取って、その遺体をイーリアスに連れ帰ったのは、私達でしょ!?」

 ミリアムの言葉はもっともだ。

 確かに彼らは、魔王城で戦死したアランの遺体にその場でできる限りの防腐処理を施し、ここイーリアスの土で眠らせるために運んだ。

 葬儀にも参加したし、墓を作って埋めたのも自分たちだ。

 アラン=ハイドが故人であることは、火を見るより明らかだった。


 「……何か根拠があるんだろう?」

 ゲイルの言葉に、ジオは頷く。

 「ああ……皆、これを見てくれ……!!」


 テーブルの上に置かれたのは、映写機__ある瞬間の映像を記録する魔道具__によって撮られた、四人の男の遺体の写真。

 耐性のない人間なら、一見するだけで卒倒するような凄惨な写真も混じっている。

 これを見て耐えられる人間でも、見たところで、『凄くグロい』以外の感想は出てこないだろう。

 だが、この五人は、違った。


 「こ、れ……!? 『死神の痕』!?」

 特に注目したのは、その内の二枚。

 まるで眠るかのように死んでいる、その二人の首元には。

 小さな、しかし確かに、よく知る痣があった。


 「これは、とある小規模犯罪グループのアジトで発見されたものだ」

 ジオが、写真の説明を始める。

 「そいつを潰すために、俺たちは誘拐の被害者からの証言を基に、このアジトを割り出し、先日、突入したんだが……その時には既にこの状態で、被害者の少女たちは全員無事に帰されてた」

 四人は、ジオの話に真剣な表情で耳を傾ける。

 「そして後で、その子たちにどうやって助かったのか、と質問したら……全員、『黒づくめの男に助けられた』と……」

 「「「!?」」」


 もう、ここまでお膳立てされて、気づかないはずがない。

 『死神の痕』……アランの神業の如きナイフ術に、自分たちが命名した呼称だ。

 それに、『黒づくめの男』という証言。

 彼の愛用した純白の凶器。それを除くと、その全身は、いつも闇に紛れる漆黒に包まれていた。

 その場の者たちの脳裏に、いつも冷静沈着で、冷徹で……でも何処か優しさを感じる、真っ黒な背中が想起される。


 「ま、間違いない……こんな真似、アラン以外にできるはずがない……!」

 「それに、この首なし死体も……この綺麗な断面……魔鋼糸を使ったとしか……」

 「う、ウソ……じゃあ、本当に……!?」

 「だが……ありえるのか……!?」


 まず、あり得ない。

 いや、確かに、死者の魂が幽霊(レイス)化することは、ある。

 だがそのような実体を持たない存在が、精神干渉以上の危害を人間に加えることはない。

 つまりこれらの写真は、『アラン=ハイドの生存』を雄弁に語っているのである。


 「俺はしばらく、冒険者活動を休止して、アランの手がかりを探す。

 だから、どうか……!!」

 「……分かっておる、皆まで言うな。

 儂は、世界中飛んで回ってでも、最後まで儂をジジイ扱いしおったヤツを懲らしめに行くぞ」

 「俺もだ。限界まで、イーリアスで調べよう」

 「そうね……流石にアランのフットワークでも、そう簡単に国外には出られないはず。急げば、手掛かりくらいなら掴めるかも」

 「まだ、信じらんないけど……私も手伝う。アイツの最期の言葉、改めて聞かせてもらうんだから」



 __こうして、アリアの知らないところで、アラン徹底捜索会議が始まったのであった__

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