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Paradise  作者: 香澄るか
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幸せの楽園

「今日は私のために集まってくださってありがとうございます。こんなにも沢山の人に来て貰えて、心から嬉しいです。みんなのことが本当に大好きです」


 空が笑顔でお礼を口にすると、目の前の全員笑顔を返してくれた。


「空ちゃんの為なら当然だよ」


「そうそう。ここに居るみんな、空ちゃんの優しさや気持ちに動かされたメンバーなんだからね」


「お前は、マジで、自分が思っている以上にすげえ女なんだからな!」


「みんなも、お前が大好きで仕方がねえんだって。空、おめでとう」


「……海君、紫君、飛鳥君、望夢君。ありがとう!!」


「「「「空、HAPPYBIRTHDAY!!」」」」


 一人一人が手にしていたクラッカーが高らかに音を上げる。


 笑顔と温かさに包まれた空間に、空の目からは涙が溢れた。そして、自分はなんて幸せ者だろう。そんな風に思った。


「みんな、本当に、ありがとう!!」


 誕生日パーティーが始まり、みんなが笑顔を交わしながらわいわい愉しんでいる。


 そんななか、空の元に望夢がやって来た。


「空」


「望夢君、どうしたの?」


「これ、渡したくて」


「……?」


 小首をかしげる空の前に差し出されたのは、横長の小さなロゴ入り紙袋。


 その中に、更に箱の様なものが入っているのに気が付いて、そっと取り出す。


「開けてみて」


「う、うん」


 望夢が言うまま少しドキドキして開けてみると、箱の中には華奢なピンクゴールドのネックレスが入っていた。飾りの部分が小さいハートの形になっているもので、とても空好みだった。


「望夢君、これって……?」


「空、改めて誕生日おめでとう。それはプレゼントだ。受け取ってくれ」


「望夢君……」


「まあ、ガキの俺にはこれが精一杯で、大した物じゃないけど……俺とお前が出会って初めての誕生日だし。こんなのもいいかなって」


「……ありがとう。嬉しい。あの、付けてみてもいい……?」


「当たり前だろう。あ、貸して。俺がつける」


 そう言って、望夢が空の後ろに回ってネックレスを首につけてやる。


「……かわいい」


 自分の首にかかったネックレスを店に置かれた鏡の前で嬉しそうに見つめる空に、望夢は静かに告げる。


「……空、来年はもっといいもの贈るから」


「え、十分だよ! 嬉しいよ?」


「……違うんだ。その、来年再来年ってずっと誕生日を祝って……大人になったら、お前に……出来たら指輪を贈りたい」


「の……望夢君、それって……っ」


「今からこんな事……って、思うかもしれないけどさ、俺は、もうお前以外の奴なんて考えられねえから。この先も、当たり前に、空にずっと一緒にいて欲しいと思っている」


 驚いて言葉にならない空だったが、何でもいいから、真剣な彼の想いに応えたかった。


 空は、咄嗟に望夢の手をギュッと握って微笑んだ。


 すると、今度は望夢が驚いた顔になった。


「……あの時と同じだな」


「へ?」


「入学式の時、お前が俺の手を取って笑ったんだ。今、あの時のことを思い出した」


「あ……そう言えば」


 望夢の言葉を受け、空も情景を思いおこした。


 あの日は、先のことがわからなくて不安で一杯だった。もしかしたら、中学の頃と同じ目に遭うかもしれないと思うと怖くて。


 そんな時に、たまたま隣同士だった望夢が、自分の上手く言葉にできない気持ちを、いとも簡単に理解してくれた。それが堪らなく嬉しくて、咄嗟に手を握ったのだ。


「……実はあの時、笑うお前が綺麗だと思った。名前も知らないお前に惹かれたんだ。--改めて、あの日隣に居たのが空で良かった。空が好きになったのが、俺で良かった」


  噛み締めるように伝えてくれる望夢を、空は心から愛しく思った。


「望夢君……私も同じだよ。望夢君が居なかったら、今の私もきっと居ない」


本当だよ。望夢君、そして、みんなと出逢って、私の日常は180度変わったから。


「望夢、空ちゃん」


「紫君、飛鳥君、海君」


 こちらにやって来る三人の姿に、空はまた、入学式の時のことを思い出した。


『俺は久遠紫。望夢とは小学の時からの付き合いなんだ。よろしく』


『立谷飛鳥だ。いっとくけどな、望夢が認めたイコール俺もってわけじゃないからな!』


『飛鳥、怖がらせちゃ駄目だろう! ったく……ごめんね。気にしないでね。俺は鳴瀬海。飛鳥とは幼馴染ってやつで、望夢と紫とは中学から一緒。よろしくね』


 あの頃はまさか、自分がみんなとこんなに仲良くなるなんて想像もしていなかった。


 みんなは遠くからでもキラキラ輝いているようで眩しくて、まるで違う世界の住人のようだったから。


 だけど、不思議なほど、みんなと出会う前の自分を思い出すことがないくらい、今はみんなといる自分が好きで、これが本当の私なのかもしれないと思う。


「望夢君、紫君、飛鳥君、海君……私、みんなと出逢えて心から良かったよ!」


「空……」


「空ちゃん」


「そんなこと、こっちのセリフだっての!」


「そうそう。俺らが言いたい言葉だよ。俺ら4人も、空ちゃんに出逢えて本当に良かったと思っているよ」


 涙を浮かべる空に歩み寄ると、4人は空に笑いかけた。


「空、俺達5人は、これからもずっと仲間だからな」


「うん!」


 空も彼らにつられ満面の笑みを浮かべ、笑い合う5人を、その場に居る全員が温かく見守っている。


 空はこの幸せな空間の中で改めて実感する。


 みんなと出逢わなかったら、きっとこんな喜びを感じる日は来なかっただろう。今、想像を超えたものが、優しく温かく自分のことを包みこんでくれている。


 ずっと、こんな時が続けばいいな。


 みんなといると楽しくて、温かくてどんな時も不思議と力が湧いてくる。


中学の頃独りだった自分は、周りを見て密かに憧れ、追い求めていた。それは、大好きな人たちと、楽しそうに、幸せそうに笑ってられる、楽園のような空間。


 今、夢に描いたものが此処に在る。ようやく得ることが叶った私にとっての楽園は、みんなが居てくれる場所。みんなが居てくれれば、どんなときも、どんなとこでも、そこは私にとっての幸せな楽園なんだ。



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