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Paradise  作者: 香澄るか
31/42

青き日の二人

少しばかり、過去編が続きますがお付き合い下さい。


「なあ、お前の父ちゃん、マジで社長なのかよ?」


 転校してから暫く経った頃、海は、放課後上級生に呼び出された。


「……そうだけど」


「ふーん……だったらお前、金持っているよな? 出せよ」


「は……? 無いよ。俺が稼いでいるわけじゃないんだから」


「そんなことは関係ねえんだよ。親からでも何でもとってこいや」


 無茶苦茶だ。


 何故、親しくも無いこいつらに俺が、ましてや両親が働いて得た金を渡さないといけないのか。


「嫌だね」


 海がきっぱりそう言い切ると、グループのリーダーらしき少年が顎で指示し、あっという間に囲まれた。そして、少年に胸倉をつかみ上げる。


「ふざけんじゃねーよ。俺に逆らったらどうなるかわかってねえのか?」


「嫌かどうかは関係ねえ。やれよ」


 続けざまに言われ、海の中で限界突破しそうだった時だった。


「ふざけんじゃねーはお前らなんだよ!!」


 声と共に、リーダーの少年が倒れ込んだ。


 何が起きたかと思ったら、倒れた背後に1人立っているのを見付けた。


「お前は……」


 背は自分とそんな変わらない。つんつんの短髪に鋭い目。力強い目がこちらを真っ直ぐ見ている。


「お前……っ、立谷!?」


 リーダーの少年が身体を起き上がらせようとしながら、首だけ捻って声を上げた。


 ——そう、そこに居るのは、同じクラスの立谷飛鳥だった。


「お前ら、歳だけ喰ってダセーんだよ」


「何だとコラ!?」


「だから、ダセーって言ってんだよ!!」


 そう言ったのを合図に、彼は瞬く間に彼らを伸してしまった。


「……ありがとう」


「別に。たまたま通りかかったらあいつらの声が聴こえてムカついたから」


「そう。……でも、ありがとう」


 その後暫くして、海と飛鳥は職員室に呼ばれた。リーダー少年が親へ告げ口をしたようで、どうやら親が乗り込んだらしい。




「……飛鳥君、これは本当に君がやったことなのかい?」


「ああ。俺がやった」


「どうして、「俺の所為です」


 間髪入れずに海が言うと、校長たちは海へ注目した。


「鳴瀬君……?」


「この上級生が、仲間と寄ってたかって、俺をカツアゲしてきたんですよ。それを目撃した立谷君が助けてくれました」


「……なっ、カツアゲ!?」


「証拠ならあります。彼らの会話は録音してあるんで」


「何……っ!?」


 背後でリーダーの少年が驚愕しているのを感じながら、海はズボンのポケットから取り出したボイスレコーダーを目の前に見せた。


 実は、海にとってこういったことは初めてのケースではなかったので、念のために携帯してあったのだ。まさか、活用する羽目になるとは思わなかったが。


「何なら、ウチの父親にこれを聞いてもらおうと思っています」


「そ、それは……っ」


「止めろ。余計な真似すんな」


 そう言って、海を止めたのは意外にも飛鳥だった。


「立谷……?」


「別に、一日二日くらい、自宅謹慎なり何なりやってやるよ」


 そう言い置いて職員室を出て行く飛鳥を海は慌てて追いかけた。


「た、立谷……っ!!」


「やせ我慢してんじゃねーよ」


「え?」


 立ち止まった飛鳥が突然言った言葉に首を傾げると、今度はこちらに振り返り、真っ直ぐ海を見ながら言った。


「親父の力になんて、ホントは頼りたくないんだろう」


「な……っ」


 こんなことを言われたのは初めてだった。


 当時、父親が会社社長だと聞くと、皆、羨ましい悩みなんて無いという目で自分を見ていた。その為、当の本人の悩みが、そこであることなど、誰しも気付くはずなかった。


「どうして……?」


「お前、転校初日にあの先公に親父のこと言われて、すっげ嫌な顔してたじゃねーか」


「……やっぱ、立谷にはバレていたんだな」


 あの時の視線はやはり、気のせいではなかった。彼には自分の奥底の心が見透かされていたのだ。


「ってことで、お前は何もするな。別にこんなのは初めてじゃねーし、慣れっこなんだからよ」


「……じゃあ、俺も。俺だって、お前と一緒に謹慎する」


「——は?」




・・・・・・




「……なあ、お前ホントに俺と謹慎すんの?」


「うん」


 確認してくる飛鳥に、海ははっきり頷いた。


そして、自宅謹慎となったことを親に言わなければならない為、家へ帰った。


「海?」


 父親は忙しく留守がちの為、家には理解ある母親しか居ない筈だったのだが、帰ってすぐ聴こえて来た男物の渋い重い声に思わず肩が跳ねた。


「……お爺様」


 滅多に顔を見せない、会長をしている父方の祖父が家を訪ねて来ていたのだ。


 どうして、よりのもよってこの日に……。


 海は、自分の運のなさを呪いたくなった。


「学校はどうした。まだ終わる時間には早かろう」


「海、学校で何かあったの?」


 母親に心配そうに促され、今は言いたくなかったが、海は意を決して告げた。


「……ちょっと上級生と揉めてしまって、今日から2日、学校を休むことになりました」


「え……っ?」


「お母さん、ごめんね」


「なんと情けないことよ」


 吐き捨てるように言ったのは、他でもない祖父だった。


「……お爺様、すみません」


「情けないのは顔だけじゃなく中身までとは……」


「……す「おい、ジジイ!!」


「じ……っ?」


 何処からか聞こえて来た声に驚いていると、姿を現したのはまさかの人物だった。


「立谷!?」


「よう。勝手に入ったぜ」


「……どうして」


 今居る場所は庭先なので、門を開ければ入ってはこれるが、彼が後を追って来た事が驚きだった。


一体何故か混乱するなか、飛鳥は歩み寄って来ると唐突にこう言った。


「謝んな!!」


「え……」


「お前は何も悪くねーんだから、一言だって謝るな!!」


「立谷……」


 驚いていると、今度は祖父の前に立って、飛鳥は頭を下げた。


「謝るなら俺の方だ。俺がこいつに絡んでいる奴ら伸した。鳴瀬は、責任感じて俺に合わせただけだ」


「……そうか」


「けど、ジジイも、こいつに謝れよ」


「お前……っ、このワシを……っ」


「くそジジイの方が良かったかよ?」


「なっ!?」


 呆気に取られているような、この時の祖父は、何とも形容しがたい表情をしていた。


 一瞬、怒り狂う祖父が思い浮かんだだけに心配だったが、それを他所に、祖父は飛鳥を前に声を上げて笑い始めた。


「わっははははは!! 面白い奴よ!!」


「え……」


「お前、ウチの道場に来んか?」


「どうじょう……?」


「あ、お爺様は空手の道場で師範をしていて……」


 怪訝な顔をする飛鳥を見て慌てて説明すると、飛鳥は海の肩を掴んで予想外の提案をした。


「ふーん。まあ、こいつと一緒なら入ってやってもいいぜ!」


「え!?」


「……海もだと?」


 声を聴いたら顔を見るのも恐ろしくなった。海は飛鳥の方だけ見て、抗議する。


「おい、何言ってんだよ!?」


「言われっぱなしで良いのかよ、お前」


「え?」


「顔なんか関係ねえだろうが。謝る必要もねえことで無駄に頭下げるくらいなら、そんなこと言わせねえくらい強くなってやれよ」


「立谷……」


 またも、初めての感覚だった。自分のことで誰かからここまで言って貰ったのも、このチャンスを逃したくないと思えたのも。


 気が付けば自分から祖父を振り向いていた。


「お爺様……俺にも、ご指導いただけますか?」


 祖父はかつて見たこと無い程、驚いた顔で自分を見ていた。


 その日を境に、飛鳥は祖父の道場に本当に通い始めた。そしてそれを機に、2人の関係にも変化が芽生えた。


「海、一緒に帰ろうぜ!」


「ああ」


「え……2人いつの間に?」


 クラスメートのそんな声を聴いた飛鳥は、海を引寄せ肩を組むと笑った。


友達(ダチ)だ」


 海もそれを聴いて嬉しくて笑う。2人の今に続く友情はここから始まったのだ。


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