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Paradise  作者: 香澄るか
28/42

不穏な再会

 

 翌日、梨々香が30センチも髪を切った大胆なイメチェンが、ちょっとした噂となった。


「梨々香、その髪……どうしたの……っ?」


「別に、気分転換。変?」


「変っていうか……ビックリして」


「あたし、変わるの」


「え? 変わる?」


 何が何だかわからない友人をそっちのけで、梨々香は遠くにある人物を見付けると、小さくウィンクをした。


「——梨々香ちゃん、すごい……髪の毛切っちゃったんだ!」


 空は、その可愛いウィンクを受け取って、興奮気味に彼女を見つめていた。


「女の子って、失恋すると髪を切るって聞くけど……本当だった」


 隣で紫が驚きの声を漏らす。


「でも、似合っているね」


「梨々香ちゃん顔小さいし、何より可愛いからね!」


「空、何でいつの間にか名前呼びになってんの?」


 紫への空の言葉にまさかと思い望夢が訊ねると、空は笑顔で答えたのだった。


「友達になることにしたから」


「「お前……っ」」


 望夢と飛鳥が空の言葉に絶句する。


「飛鳥君には悪いとは思うけど……、私、梨々香ちゃん、根はいい子だと思う。もっとしっかり向き合っていけば、どんどん変わっていくはずなの」


「……しょうがねえな。空がそう言うなら」


「ああ」


 渋い顔を並べていた2人も、空の真剣な言葉を受けとうとう頷いてしまった。


「空ちゃんて、さながらゲームとか漫画の主人公みたいだよね。逢う敵逢う敵、仲間にしてしまう感じ」


「「「言えてる」」」


 いつの間にか梨々香の元へ行ってしまっていた空の姿を遠くに見ながら、4人は笑った。




・・・・・・



「あ~思えば、色々一気にあり過ぎて疲れたな!」


 放課後、街中を歩きながら飛鳥が大きく伸びをする姿を見て空はハッとする。


「そうだ! 飛鳥君の快気祝いしようよ!」


「いいんじゃね」


 望夢が飛鳥を見て頷く。それに紫と海も続く。


「地獄からの蘇りおめでとう」


「黄泉の世界からお帰り」


「……だから、死んでねえって何度言わせれば気が済むんだよてめえら!!」


 散々言って来たことに飽きて飛鳥が海たちに怒鳴っていた時だった。


「……飛鳥?」


 突然歩み寄って来た1人の男子学生が飛鳥のことを名前で呼んだのだ。


「は? お前誰だよ? 何で俺の名前知ってやがる」


 不思議に思う飛鳥に、彼は笑顔を浮かべると言った。


「憶えてねえ? 俺、竜崎雅哉だけど」


「竜崎……雅哉。マジかよ、雅哉かよ!?」


「おう。思い出したか」


「お前、こっちにまた戻ったのか」


「兄貴がこっちで就職したから、俺も付いて来て、今一緒に住んでんだよ」


「そうか。お前その制服って、真龍?」


 彼の灰色のブレザーの胸元に銀の龍が刺繍がされてあるのを見付ける。


 これは真龍高校という、青宝の隣地区にある男子校だ。


「そうそう。お前の制服は青宝か。共学とか羨ましいぜ。後ろのメンバーは……同じ学校のダチか?」


「ん? ああ」


「……てかさ、人違いかもしれねえけど……そっちの奴って、もしかして鳴瀬?」


 雅哉が飛鳥の背後にいる海を見て訊ねた。


 その言葉を受けて、飛鳥は後ろを振り返り、海と並ぶと肩を組んだ。


「そうだよ。俺らと同小だった、海だ!」


「……久しぶり」


 海は硬い表情で挨拶をした。それが、ずっと様子を見守っていた空には気になってしまった。


「ふーん……。お前らがまだ一緒に居ると思わなかったわ」


「は? それ、どういう意味だよ?」


 飛鳥が怪訝な顔をする隣で、やはり海は視線を外して表情を曇らせている。


「いや、こっちの話。俺そろそろ行くわ。あ、LINEだけ交換しようぜ」


「……まあ、いいけどよ」


 飛鳥が雅哉とスマホを突き合わせている間、海はその様子を見つめながら何やら考えていた。


「真龍の奴、タメなのか?」


「おお。小学の時、海とあいつと俺は同じクラスでよ。雅哉が途中で親の転勤で引っ越して行ったキリ連絡も取ってなかった」


「へぇ。すげえ偶然の再会だな」


 3人のは会話を聞きながら、空は海と並んで後ろを付いて歩いていた。


 その間、海は何だかずっと心此処に在らずのように見えた。


 どうしたのだろう。いつもの彼らしくない。


「……ねえ、海君」


「何?」


 試しに話しかけてみたらこっちをみたけれど、その笑顔はやはりいつもより暗いものだった。


「私で良かったら何でも話してね?」


 そう言うと、海はわずかに瞳を揺らし動揺の色を滲ませるも、すぐ笑顔で頷いた。


「ありがとう。空ちゃん」


 何か様子がおかしいと思いながら、この時は、笑顔の裏で海が抱えているものに気が付けずにいた……。



・・・・・・



「いらっしゃいって、お前らか」


「お帰り~」


 店っていったらここしかないでしょうと、満場一致で暁のお店にやって来ると、暁と苑の2人が温かく迎えてくれた。


「今日は、飛鳥君の快気祝いなの! お店でやってもいいかな!?」


 空が訊ねると、暁は快く快諾してくれた。


「当然だろう」


「もう君らが来るのが当たり前になってきたからね」


「暁君、苑ちゃんも、ありがとう! じゃあ手伝うね!」


 空はさっそく暁と食器など準備をする。


「もう怪我は良いのか?」


「あ、はい。お陰様で。えっと、お見舞いとか……すみません。ありがとうございました」


 ドリンクを運んできた暁の言葉に飛鳥が頭を下げる。


「空を庇ってくれたせいだしな。せめて、それくらいはな。元気そうな姿が見られて安心したよ。本当、改めてありがとうな」


「いえ……。空が怪我するよりは俺で良かったです。それよりも、親父がくれぐれもよろしく伝えてくれって」


「そうか。こちらこそだよ」


 その後、料理が運ばれてきたので、みんなで乾杯した。


「「「「飛鳥、お帰り~!」」」」


「サンキュ!」


 飛鳥は少し照れくさそうにしながらも、嬉しそうに笑みを浮かべる。


 暫く飲み食いをしたり、スマホで動画を色々観ていた時だった。


 臨時ニュースで【本日、鳴瀬 誠社長帰国。日本初海外合同プロジェクト落着】と入った。


 飛鳥が直ぐに海へ顔を向ける。


「おい、親父家に帰って来るんじゃねえか?」


「……うん」


「え、この社長さん……海君のお父さんなの? 凄いね……!?」


 空が驚きでスマホの画面に映る男性と海を見比べながら訊ねると、海は笑いながら頷いた。


「そうなんだ……。でも、凄いのはこの人で、俺は関係ないから」


 【この人】まるで他人に対するような言い方と、笑っているようでどこか哀し気な表情がとても気になった。けれど、立ち入ったことを簡単に聞ける筈もなく、海の様子をもどかしく見つめていると突然彼のスマホが鳴った。


 海が店を一旦出て行く姿を飛鳥が目で追いかける。


「……はぁ。3年振りか」


「え……っ? 3年……?」


 苦い顔で呟く飛鳥が言っていることが海の父親のことを指していると解かった空はまたも驚く。


「ああ。あいつの親父、世界を股にかけるってやつだから。何年も居ないのがザラなんだけど、戻ってくんのがいつも急なんだよな」


「そうなんだ……。お仕事忙しいんだね……」


「NARUSEモーターズの3代目だからな」


「え、鳴瀬君って、その鳴瀬!?」


 空の代わりに声を発したのは、側で話を聞いていた苑だった。


「はい。あいつも一応4代目候補筆頭ではあるんですけど……」


「へえ~鳴瀬君はお坊ちゃまか。確かに、育ち良さそうだもんねぇ。俺とは違って」


 そう言うと、すかさず暁が手を動かしながら目だけ苑を追って言った。


「何を他人事みたいに。そう言うお前だって、西園寺財閥の跡継ぎだろうが」


「「「え!?」」」


 今度は、事情を知っている空以外の3人が驚く番だった。


「マジで……」


「苑さん……西園寺なんすか……っ?」


「さらりとミサイル級の発言投下されたね……」


「うん。あれ、最初の時苗字言わなかった?」


「「「言っていません」」」


 口を揃えて言われると、苑は悪びれもせずそうだったか~といつも通りに笑った。




 それから暫くして、海が戻ってきた。


「ゴメン。お待たせ」


「家からか?」


 飛鳥が尋ねると、苦微笑を浮かべる海が頷く。


「うん……、母さんだった。会社寄るから遅くはなるけど、やっぱりあの人が戻ってくるみたいで、なるべく早めに帰宅して欲しいって」


「そうか……。——あ、そうだ海。驚くぜ。今知ったんだけどよ、苑さん西園寺財閥の人間なんだと。お前と同じ穴の何とかってやつだ」


「え……っ?」


 飛鳥から聞かされた海は苑を見て目を見開いた。その視線を受け取った苑は、相変わらず笑顔のままグラスを傾ける。


「改めてよろしく? ま、俺と君じゃ毛色が全然違うけどね」


 そう言う苑を暫く観察するようにみていた海は、遠慮がちに口を開いた。


「あの……苑さんは、失礼ですけど……どうして家業を継がれていないんですか?」


 それを訊き、飛鳥達も側で確かにと思った顔をする。


 西園寺家の人間で暁と同じ社会人である彼は、今カメラマンという全くそれこそ【毛色】の違う職種に就いているのだから。


 全員からの注目を集める中、苑は口元に笑みを浮かべたままやがてこう答えた。


「——俺がやる気がないからだよ。それに、本気でやる気が無いなら継がない方がマシだって言われたし。俺もその方が西園寺の為だと思っているけど」


「……そうですか」


「こんな答えでも、少しは君の参考になったかな? 悩んでいるみたいだけど」


「……っ、すみません。突然なのに、答えてくださってありがとうございました」


「いいえー」


 頭を下げる海に苑は優しく微笑む。


 空は、毛色が違うとか言ってはいたが、やはり苑には彼の苦労が少しは理解できるのかもしれないと感じた。


 海達が帰って行ったあと、苑が少し語った。


「俺はさ、親父というより爺さんに育てられて、どちらかと言えば自由に将来も選ばせてもらった。でも、これって当たり前じゃないって、彼を見たら考えさせられたよ。前何かの記事で読んだけど、確か鳴瀬君は姉が2人居て、待望の男児だったみたいだから、きっと重圧もそれなりに感じて今まで生きてきたんじゃないかな」


「……私に出来ることは無いのかな」


 空が後片付けをしながら呟くと、暁が優しく声を掛ける。


「そのままでいい」


「え……?」


「あいつの言葉の意味は色々あるかもしれねえけど、少なくとも、親父は親父、自分は自分って思っているみたいだった。だからお前は、あいつのこと、仲間の鳴瀬海としてこれからも変わらず見てやったらいいんじゃないか」


「暁君……」


「確かに。俺が西園寺家の人間って知っても、暁がずっと態度を変えずにいてくれたから、俺は俺でいられたな」


 加えて苑がそう言うと、空は納得した。


「そうだよね! もし何かあれば、海君から言ってくれることがあるかもしれないし! 2人ともありがとう!」



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