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Paradise  作者: 香澄るか
23/42

予感

「そこの彼氏、妬いてんの?」


 突然声を掛けられ、望夢は本気で心臓が飛び出るかと思った。


「ば……っ! 妬いてねえ!」


 軽く顔を赤らめて言わすな!と言えば、声の主である紫が悪戯心を覗かせながらクスリと笑う。


「人の彼女ってあれでしょ、余計良く見えるって言うしね」


「海のさっきのは違うだろ。……飛鳥は……ダァーッ!! クソ!!」


「悩んでんね。そりゃそっか。相手が友達って面倒だよね」


「チッ……」


 望夢は複雑そうな顔つきで、空一人になった方を見つめる。


 さっきまで、飛鳥と空が何やら話しているのには気づいていた。けれど、飛鳥のことを思うと気になる反面、望夢はあの中へ入ることが出来なかった。


「……どうするの? あの人ってば、日に日に気持ちがダダ漏れになっているように見えるけど。もし、飛鳥がうっかり告白しちゃったりしたら」


「そん時は……自信がねえけど、信じるしか無いだろう。空を」


 そう言えば、顔を背けたにも関わらず何故か回り込まれ、目の前に立った紫に訊ねられた。


「マジで? 自信が無いの?」


「……うるせえ」


 思わず低く言い返すが、紫はそんなことで怯む相手ではない。寧ろ、この場面では望夢の方が劣勢なので、ささやかな抵抗と言えた。


「あんだけの想いで漸く手に入れた大事な子でしょ。奪われたくないんじゃないの?」


「……そうだよ、すげえ嫌だけど……俺が変化球なら、飛鳥はドストレートだろ? 俺がごちゃごちゃ悩む様なことでも、きっとあいつなら真っ先に空に会いに行って、伝えると思うんだよ。決めたら迷いが無いっていうか……そういうところは悔しいけど、ちょっと羨ましい。……勝てねえなって思う」


「本当にごちゃごちゃと。……面倒臭い」


「は…っ?」


 身もふたもない言い方にショックを受ける望夢に、休む間も与えず紫は尚も言葉を重ねた。


「それでも空ちゃんはお前を選んだんだよ。それなのにウジウジしていたら、それこそ飛鳥に悪いと思わないわけ?」


「お、思うけどよ」


「じゃあしっかりしろよ。言っておくけど、2度目はないからな」


「は?」


「空ちゃんのことでごちゃごちゃ余計なこと考えて、万が一でも手放したりしたら……その時は今度こそ、俺が本気で空ちゃんを奪うからね」


「止めろ……っ! 渡さねーわ!!」


 望夢は、恐ろしい宣戦布告を目に力を込めながら突っ撥ねる。それは作戦だったのだが、全く気付いていない様子を見て、紫は一人腹の底でほくそ笑むのだった。



・・・・・・



 その頃、海は飛鳥の居場所を突き止めていた。


「みっけ」


「は? ……お前かよ」


 屋上で風に当たりながら寝そべって空を眺める飛鳥の隣に海はそっと座り込む。


「そんなに好きなわけ?」


「ん?」


「空」


「ぶっ……!!」


 飛鳥は思わず咽かえりながら状態を起こすと、隣の海を動揺丸出しの顔で見返してくる。


「俺はただっ、そ、空を、天の空を見ていただけで……っ!」


「うん。だから、【空】でしょ?」


 そう言ってにっこりと笑いながら真上を指さすと、呆然となったあと、飛鳥はしかめっ面で顔を反らした。


「お前……友達少ないだろ!」


「そうだねー。生憎4人かな」


「……そんだけいりゃ十分じゃねえか」


 言った後に後悔しているのか、ぶっきらぼうなその言葉に思わず笑ってしまう。


「頭冷やし中だった?」


「……危うく告いそうになったんだ。あのまま一緒に居たらまずいと思ってよ」


「何で? 告白したっていいじゃん」


「……お前は最近そればっかだな。けどよ、考えてみろよ。空が普通にしていられると思うか? もう直ぐ文化祭で、俺らバンド組むんだぜ?」


「まさか、飛鳥が気を遣ったの?」


「まさか、俺が気を遣えないとでも?」


「当たり」


「おい!!」


 本当に俺を何だと思っているんだとぶつぶつ呟く飛鳥をじーっと見ながら、口を開く。


「親友だよ。……親友だから、思うんだろ」


「え?」


「後悔はしてほしくない。だって、あれじゃん? 俺が知る限り、初恋だろ?」


「おま……っ、何……はぁ!?」


 飛鳥が真っ赤にして、言葉にならないのか口をパクパクしている姿に海は思わず噴き出す。


「ぶっ!! 鯉かよ!!」


「海……っ、てめえな……っ!?」


「あはははははっ!!」


「はぁ……。――決めたわ。俺……文化祭終わったら、マジであいつに告う」


「ふーん」


「何だよ」


 一大決心をしたというのに、そっけない態度だと思っていると、いきなり海とは思えないほど力強く背中を叩かれた。


「い……ってー!! ちょ、何すんだよ!?」


「良かったなと思って」


「俺は、お前の剛力に衝撃を受けているよ」


「ははは」


「いや、はははって……。まあ、いいや。そろそろ行くか。空がどんだけ便所なげえんだよって、勘違いしてもいけねえし」


 頭を掻きながら先に歩き始めると、後ろを追って来る海がさらりと告げる。


「ああ、それなら大丈夫。多分トイレじゃないって言っといたから」


「お前は……本当に、抜け目ないな!?」


「どうも」


「褒めてはねえ。どちらかと言うと引いている」


 そんなやり取りをしながら屋上を降りた2人。すると、廊下を歩いている時、反対側から1人の少女がやってくるが見えた。その少女は細身で、色素の薄い茶髪を緩く巻いた美少女だった。


 そこらにいる男子なら一度や二度振り返ってもおかしくはないが、前を歩く親友は当然素通りだった。多分、こんなことは初めてなのだろう。通り過ぎる瞬間少女の見せた表情に、最初はそんな風に思った海だったが、直後、何か引っかかった。


 あの子、どっかで見たことがあるような気がする……。


 そこで、ある日の記憶が蘇る。


『ねえ、鳴瀬君。立谷君って彼女いたりするのかな……?』


「―—まさか……っ?」


 海は、たった今通り過ぎた少女を振り返り、その背中をじっと見送った。


「海、どうかしたか?」


「……飛鳥、お前さ【笹森梨々香】って覚えてない?」


「は? ……誰だそいつ」


 訝しんだ目を向ける飛鳥にこれ以上何も言えなくなり、海はもう一度、少女が歩いて行った方向を振り返ったが、もうそこには少女の姿は無かった。


「……いや、何でも無い。忘れて」


「ふーん。分った」


 飛鳥は何だったんだ?と1人首を捻りながら再び歩き始める。その背中を見つめながら、海は心の内で何も起こらなければいいと思った。




・・・・・・




準備も滞りなく進み、気が付けば、青宝祭当日の朝を迎えた。


<<生徒の皆さんおはようございます。青宝祭の開会式を行いますので、全校生徒の皆さんは体育館へ集まってください>>


 校内放送を聞き、生徒達は一斉に体育館へ向かう。その中には、勿論この5人の姿もあった。


「昨日は、緊張してなかなか眠れなかったよー」


 歩きながら薄いクマが出来た目を押える空を、望夢が心配して覗きこむ。


「マジか、保健室で寝て来るか?」


「うーうん、大丈夫! 緊張するけど、楽しみの方が大きいし! それに暁君や苑ちゃんも来てくれるんだもん、私だけ休んでいられない!」


「けど、本当に辛い時は俺らに声かけてね」


「うん。紫君ありがとう」


 気遣ってくれる紫に返事をした時、横を通り過ぎる女子生徒達から、空にしか聞こえないような小声で囁かれた。


<か弱いアピール? マジうざ>


<ビッチ>


「空? どうかしたか?」


 思わず足を止める空に気付いた望夢がまた心配そうな顔になる。空はハッとし、慌てて気丈に笑顔を作った。


「大丈夫だよ。ちょっと考え事していただけ。ごめんね」


「いや、ならいい。行こうぜ」


「うん!」


 実は、5組のメンバーと言い争って以来、一部の生徒達からこういった陰口を叩かれることが多くなった。といっても、前のように手を出されたりというわけでもないので、それに行動を起こす気など空には全くない。


 望夢を好きになって分かったのだ。


 好きな人が誰かに告白をされたり、必要以上に側に寄られているところを見ると、心が酷く痛み、悲しくなったり不安に感じるということが。だから、望夢のことを好きな女子たち、あるいは、紫・飛鳥・海の誰かを想っている女子たちも、空と同じような想いを抱くのだと。それなのに、文句を言うことなど、自分の立場で出来る筈がないと思う。この学校の中で、誰より彼らの側に居れる自分が……。




<<以上で開会式を終了します。9時丁度より、青宝祭スタートです。みなさん、各持ち場へ移ってください。来場者の皆様は、ごゆるりとお楽しみくださいませ>>


「はぁ~!! いよいよ開催だ!!」


「よし。じゃあ1-2みんな、がんばろー!!」


「「「「オー!!!」」」」


 体育祭以来、学校が再び活気づく時間が訪れた。


 盛り上がる雰囲気に暗い気持を払拭させ、空も笑顔で支度を始める。


「空ちゃんのアリス可愛いね。凄く似合っている!」


 衣装チェンジが終わり、アリスの格好に身を包む空に桃加と月菜が駆け寄る。因みに、彼女たちはアリスのお姉さんの衣装を纏っている。


 HRでの話し合いの結果、空のクラスは不思議の国のアリスならぬ【迷路の国のアリス】になった。


 教室では手狭のため、敷地内の小ホールを貸し切り、そこに迷路空間を設置。中でキャラクターに扮した空達2組の生徒が、各ポジションで先の道へ進むためのAかBの二者択一クイズを出題。見事正解し、正しい道を選びぬけた者が、無事に迷路から脱け出せるというものだ。


「あ、じゃあ……私達は先に行ってるね!!」


 桃加と月菜が突然足早に消えたので不思議に思っていたが、その理由が直後に聴こえて来た声の主にあると知る。


「空」


「望夢君……!? わぁ。カッコいいね!!」


 今回はオリジナル【迷路の国のアリス】ということで、架空のキャラも出て来るなか、望夢は王子になった。シルバーの大人デザインの衣装が煌びやかで、彼の髪の色ともマッチしている。


 遠巻きに見ている女子たちからも感嘆の息が漏れている。最高の出来栄えだ。


 しかし本人は、周りの歓声や熱い視線など気にも留めない様子で、空だけを一点に見つめて微笑む。


「空はアリスか。良いな」


「そうかな? ありがとう」


「ホント、空ちゃんによく似合って可愛いよ」


 望夢の後ろから現れてそう言ったのは紫。彼は、衣装班からの熱い要望でマッドハッタ―だった。


 彼女たちの素材を見抜く力は天才的だと思うほど、紫のその姿は紳士的でありつつどこか謎めいた雰囲気を醸し出していて、横切る人たちの間では度々黄色い歓声が上った。


「紫君、凄く絵になるね! 素敵!」


「ありがとう。空ちゃんに言って貰えると一番嬉しいな」


「さすが紫」


「妬かない妬かない」


「な……、俺は普通に褒めただけだ!」


 紫の言葉に顔を赤くする望夢に、空は盗み見ながら嬉しく思った。


「―—お前らは良いよな。キマってるし、涼しそうでよ」


「え? ……もしかして、飛鳥君!?」


 声がしたのに姿が見えないと思ったら、全身ウサギの姿で立っていたのは飛鳥だった。見た目だけなら普段の姿が想像できないほどそれはそれはファンシーでかわいいのだが、全身で苛立った空気と近づくなオーラを放っているのが見えるのはさすが飛鳥というべきか。


 そのため横切る人々からは、あのウサギなに!?怖っ……!!中、誰よ!?と、望夢達の時とは打って変わり悲鳴に近い声が聞こえている。


「海の奴……俺を何だと思ってんだ!」


「ウサギ」


 即座の返事に飛鳥が目を剥きながらがばっと振り返れば、案の定そこには笑顔の海がいた。


 海はチシャ猫のイメージで、紫とピンクの異素材の生地を組み合わせた衣装を身に纏っている。加え妖しさを出すため薄く化粧を施していて、それが彼の中性的な容姿を美しく引き立たせていた。


「……すごーい。海君、綺麗だね。すごくいい雰囲気になっている!」


「ありがとう空ちゃん」


「これは海じゃないと無理だね」


「ああ」


 紫と望夢が海を眺めながら言うと、海はふて腐れている飛鳥を見た。


「こっちも、飛鳥じゃなきゃ無理だけどね」


「「ぶっ! た、確かに!!」」


「おい紫、望夢! 馬鹿にしんじゃねえ……っ!!」


 大爆笑の望夢と紫に赤面で抗議する飛鳥。その様子に、海が再び口を出す。


「これでも通気性は抜群に作ってるんだよ。そもそも、どっかの誰かさんが『見つかったら女どもが寄って来て面倒だ』って言うから、わざわざ手製でウサギにしてあげたのに。これ以上文句言うなら、頭と胴体を縫い付けるけど? いいわけ?」


「……良くないです」


大きくぶんぶんと重たい顔を振り乱しながら訴え、飛鳥がそれ以降文句を垂れることはなくなった。


 空は、本当に、飛鳥の事を一番に解かっているのは海だと思った。


「――お前ら、無駄にクオリティーたけーな」


 ホールに現れた加瀬は、迷路や生徒達の衣装の出来栄えを見て感嘆した。


「加瀬先生! 私達頑張ったでしょ!?」


「ああ。褒めてやる」


「「「やった~!!」」


「待って、でも先生……衣装は!?」


 衣装班の1人が加瀬の格好に気付くと顔を背けられた。


「どう考えても、不思議の国のアリスに【魔王】は出ないだろ」


「「「魔王!?」」」


 加瀬の衣装が何だったかを知った生徒達は、一様に『いや、他にはないほどあなたにピッタリです』と思ったが、声を発する勇気ある者はいなかった。


「もう先生~、迷路の国だから何でもアリなんですから~!!」


 衣装班は最後まで説得を試みたが、加瀬からの最終的な返事は『青宝祭が終わったらな』だった。


「学祭が終わった後じゃ意味ないっての!!」


「けど、あまり怒らせたらもう直ぐテストあるじゃん……っ。後からどんな報復が待っているか!!」


「そういう問題!?」


 結果、諦めるという結論に達したが、日頃のドライな一面を考えたら褒められただけでも十分だということになり、クラスのテンションが再び上がった。


 1年2組は、実は素直な子達の集まりである。


「一番盛り上がったクラスには校長から褒美が出るってよ。気合入れようぜ!」


「よっしゃ~入国数稼ぐぞ~!!」


「「「「おぉ~!!」」」


「―—じゃあ、全員各自の持ち場に別れろ。午後のメンバーは交代まで校内を好きに回ってよし。散れ」


 加瀬の号令で、午前の班・午後の班と分れる。


 空達5人は、午後のステージパフォーマンスに合わせ、午前の班になっていたが、60分交代なので、それまでは自由時間となった。




・・・・・・


「それじゃあ何処から行くよ?」


 望夢の言葉でみんなが手元のマップに目を落とす。今学祭に限り発行されたもので、各クラスの出店やパフォーマンスが、タイムスジュールと共に載っている。


「けど、空ちゃんと望夢、本当に5人でいいの?」


 そう訊いたのは紫だ。実は事前に紫と海が、空と望夢は別行動をしてはどうかと提案していた。しかし2人は話し合あって5人で回ることを決めた。


「気持ちは凄く嬉しかったよ。でも、来年クラスがどうなるかもわからないし、5人で居られるうちに、みんな一緒の思い出を沢山作りたいなって思って」


「俺は、空が楽しければそれでいいから。2人ではいつでも遊べるしな」


「そっか」


「空ちゃんがそんなに俺達と回りたいならしょうがないか。ね、飛鳥?」


「……おう」


「ふふ。みんな、ありがとう」


 空が満面の笑みを浮かべると、彼らもちょっと照れくさそうにしながらも、嬉しそうに笑ってくれた。空はその顔を見て、改めて5人で居ることを決めて良かったなと思った。


「よし! 食うぞ!」


「飛鳥にとって、文化祭の醍醐味はそこしかないだろうね」


「やれやれ」


 意気込む飛鳥に海と紫の2人は顔を見合わせながら苦微笑を浮かべる。


 一方望夢は同調しそうな空を見て釘を刺しておく。


「空、あまり飛鳥の馬鹿につられて食いすぎんなよ」


「あ? お前何つった?」


「馬鹿」


「ふざk」


「「はいはい。時間が勿体ないから早く行くよー!」」


 喧嘩になる寸でで、紫と海の2人が互いに相棒の首根っこを掴んで、引き放しながら強制的に歩き出す。後ろを付いて歩く空は笑いが止まらなかった。


 やっぱりみんなと居ると楽しいな。




「俺……見ているだけで腹がいっぱいなんだけど」


「同じく……」


 うげぇ……という顔の望夢の言葉に頷くのは、口元を抑えながら顔を背ける紫だ。


 食うぞと宣言しているからには食べるとは思ったけれど、飛鳥の胃袋は底なしだった。食べ終わったそばから次々と出店から買い足して行く。


 流石に空もここまでとは想像もしなかった。言われるまでもなく早々に戦線離脱し、応援サポート(お代わりを運んでくる役目)に回ることとなった。


「何だ、お前らもういいのかよ? おい、海は細ぇんだからもっと食え!」


「お前が俺の分まで食ってくれたからもう十分だよ。……腹いっぱい」


 海がそう言って飲み物を取りに立ったので、空も後に続く。


「飛鳥君あんなに食べるんだね。ビックリした」


「あー……多分アレは……緊張の裏返しかな?」


「え、緊張……? もしかしてこの後のライブ?」


 海の言葉が意外で聞き返すと、海はそんなところかなと曖昧に笑った。


 その意味をあとから体感することになるとは知らず、この時の空は飛鳥君でも緊張するのかくらいにしか考えて無かった。





 時間はあっという間に経ち、とうとうステージ演奏20分前になった。


「空」


「空ちゃん」


 名前を呼ばれた先には当日のヘアメイクをお願いしていた苑と暁の姿が在った。


「暁君、苑ちゃん!」


「「「よろしくお願いします」」」


 空と4人が頭を下げると2人は頼もしい笑顔で頷いた。


「任せておいて」


「俺は補佐だけどな」


 空は髪を緩く巻きポニーテールにして、薄く化粧をしてもらった。ピンクをベースにした衣装で、スカートは膝上丈のドット柄が可愛いチュールスカート。


 4人はワックスなどの整髪剤で髪型を変えた。男子メンバーは空とは対照的に黒・白・銀でシックに仕上げたシャツとパンツ。こちらはストライプがアクセントになっている。


 いずれも衣装は、衣装班が協力してくれた力作だ。


「良いねみんな」


「様になってんじゃねえか」


 2人から称賛され、5人はお互いを見比べ満足気に頷き合う。


 ステージパフォーマンス2分前。5人は袖で軽い円陣を組んだ。


<<お待たせしました!! 続いてのグループは、あの体育祭活躍メンバー勢ぞろいの1-2からskyblueです>>


「出たよ! 高羽君の彼女!」


「え、どれ!? ……ふーん可愛いじゃん(悔しい!!)」


「でも本当に歌えるの? 凄く大人しいって聞いたけど」


 噂が広まっていただけあって会場は満席で、大勢の生徒や来客がこちらを興味津々で見つめていた。


「なんか、空ちゃんの注目度がずば抜けて高いね」


「望夢の彼女っいうのが大きいだろうね」


「鬱陶しいぜまったく」


「……空、大丈夫か?」


 心配して声を掛けてくれた望夢に、空は笑顔で頷く。


「本当に不思議だけど、恐いって気持ちより、今はみんなと同じステージに立てていることが嬉しいの。大丈夫」


「そっか」


 そう言った望夢はスリーカウントをとり、それを合図に空達の演奏は始まった。


「キャー!!」


「高羽君、久遠君、鳴海君、立谷君かっこいいー!!」


「小鳥遊さんだっけ、彼女歌上手いじゃん!!」


「衣装もキマッてるし、なんか……思っていたよりずっとお似合いだよね!!」


 演奏に集中していた空は何を言われているのかなど知るよしもないが、舞台袖で見守っていた暁と苑は笑顔を浮かべずにはいられなかった。


「暁、空ちゃん変わったな。あんなに大勢の前で歌を歌う日が来るなんて」


「ああ。あいつらが居たからこそだ。この姿……大地さんが見ていたら喜んだだろうな」


「そうだな。でも、きっとどこかで見守っていると思うよ」


 苑が空達を見つめたままそう言うと、暁も大地の顔を思い浮かべて頷いた。










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