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Paradise  作者: 香澄るか
10/42

体育祭ー閉会ー


<<次の競技は、プログラム8番、団選抜五色リレーです>>


「しゃあ!! 必勝青団!!」


「「「「おー!!!」」」


 青団テントが一層盛り上がりを見せる中、空はドキドキしながらスタートラインを見つめる。


「空ちゃん、選手よりも緊張しているね」


「海君」


 声がして振り向けば、隣に海が立っていて微笑みかけられた。


 このリレーには、望夢・飛鳥・紫の3人が出る。海は彼らほど脚力には自信がないからと、空と一緒に応援をすることになったのだ。


「よかったら、貰って来たからコレ飲んで落ち着いて」


「ありがとう」


 渡してくれた水を口に含んで一息つくと、空はお礼を伝えた。


 海はいつもその気遣いと優しい雰囲気で、空の心を落ち着かせてくれる。


「海君、いつも本当にありがとう」


「え?」


「海君のお陰で私、出会ったときからいつも救われているから」


 そう言うと、海は一瞬驚いた顔になったが、直ぐいつもの笑顔を見せた。


「俺も。空ちゃんの笑顔に癒されているよ。……それに、空ちゃんが現れてくれて、飛鳥も随分変わったし」


「飛鳥君……?」


「うん。出会ったときの飛鳥って威圧感すごくて狂犬みたいだったでしょう。空ちゃん怯えてたし」


「あ、うん……。最初の時は正直恐かったな。仲良くなれるか分からなかったし……。でも、接しているうちに本当は誠実で優しい人だなって分かって。そんな飛鳥君と仲良くなれて嬉しいと思っているよ」


 えへへと笑うと、海もとても嬉しそうに笑った。



「あいつはさ、ちょっと口下手だし不器用なんだ。特に女の子には嫌な思い出しかないから、警戒する分威嚇しがちで。でも、本当は誰よりも仲間想いで、仲良くなった人間にはとことん付き合うヤツだよ。空ちゃんと居る様になってから、あいつの良い部分がよく表れるようになって周りの目も変わりつつあるから、俺としても2人が仲良くなってくれたことはすごく良かった。ありがとうね」


 その言葉を聞いた空も、心が温かくなる。


「飛鳥君は幸せだね。こんなに理解してくれて、想ってくれる仲間が居て」


「そうかな? ありがとう」


「まだ声を出すのは苦手だけど、私も頑張って応援するね!」


「俺も。後から飛鳥達に声が聴こえなかったって文句言われないように頑張らなきゃ」


「あはは! そうだね!」


 空と海は2人して笑った。そして、精一杯声を上げて応援した。


 1・2.3年の順で選ばれし者達が走る団選抜五色リレー。午前のプログラムが終わりに近づき盛り上がりは最高潮となるなか、青団は紫・飛鳥・望夢の順でバトンが渡ってからの引き離し方が凄く、その勢いのまま2年が3年の選手へ繋ぐと、勝利を確信した団長が雄叫びを上げた。


 結果、ダントツで青団が1位を獲った。


「「「やった~!!!」」」


 みんな喜びと歓喜で湧いている。


 空と海も健闘を称えるべく、望夢達の元へ向かった。


「みんな!」


「望夢、紫、飛鳥、お疲れ!」


 3人は空と海の姿を捉えると揃って肩を組みながら笑顔を見せた。


「おう海! 空も! 見たかよ? 俺ら、ぶっちぎり!!」


「ずっと見ていたよ~!! 本当にすごかった!!」


「これで優勝に俄然近づいたな!!」


「うん!!」


 空は感動で何度も大きく頷く。


 海は飛鳥に歩み寄ると笑顔でハイタッチをしていて、先ほどの言葉を思い出しながら見ていると、男子の友情って素敵だなと、空は、しみじみそんなことを思った。


 改めて思い返すと海と2人きりでちゃんと話したのは初めてだった。こうやって友達について語らえたことは、一層解かり合えた気がしてとても嬉しくなった。きっと、みんなのこと、知らないことがまだまだある。こうやって話したりすることで、知っていることが増え、もっと仲が深まるといいなと、空はそう思った。




・・・・・・




<<生徒の皆さんお疲れさます。素晴らしい活躍でした。ここで一時、昼休憩となります。短い時間ではありますが、各自しっかりと休息を取って下さい。午後の活躍も期待しています>>


 校内アナウンスを聴きながら、空達は体育館のステージ付近を陣取って昼食を広げていた。


 その場にはもちろん、暁と苑の姿もあった。


「ほら、好きなだけ食え」


「マジで……いいんですか? 俺らまで」


 全員が昼に食べる弁当を作って来た暁に、4人は恐縮する。


「良いに決まっているだろ。これだけの量、空に一人で食えってか?」


「いやっ、本当に、ありがとうございます!」


「有り難いですマジで。俺のとこ親父だけだから弁当とか無理だし……」


「ウチも実は親が忙しいからお弁当どころじゃないって感じで…っ、助かります」


「すごく美味しそう。いただきます」


 暁は、望夢・飛鳥・紫・海の順に言われた言葉を受け、満足げに微笑んだ。



「今のご時世何処もそうだろう。現に俺もガキの時がそうだったよ。それで、同じようにしてくれる人の存在に助けられた。俺は、自分がしてもらった分、お前らにも同じようにすることで恩を返せているような気になっているだけだ。お前らは俺の身勝手に付き合っているくらいに思えよ」


「君らが手を付けないと、俺も食べさせてもらえないしね」


 苑がそう言うと、4人は漸く気負いもなくなり笑顔に変わった。


「「「「いただきます」」」」


 暁のお弁当は空を想ってか、割と彩と盛り付けにも気を遣っていた。何より味はとても美味しかった。


 空も、みんなと食べることでより一層美味しく感じた。


「——ご馳走様でした。マジ、美味かった!」


「調子に乗って食べ過ぎたくらいだな」


「美味しかったです!」


「本当に、ありがとうございます」


 4人が改めて礼を言うと、暁と苑は顔を見合わせて笑った。


「こっちこそ、美味そうに食べて貰えて何よりだ。午後からも頑張れよ。応援合戦あるだろ?」


「これ、結構注目されているみたいだね。俺らも楽しみにしているから」


「はい! 超練習したので、見て損はさせないと思いますよ!」


「クオリティ、他の団と桁違いですから」


「マジ、ヤバいっすよ!!」


「空ちゃんともずっと一緒に居られなかった時間、無駄にしないように、ラストスパート出し切って来るね」


「うん! すごく楽しみにしているね!」


 空も、暁と苑同様、準備に向かう4人を笑顔で見送った。




・・・・・・




<<皆さんお待たせいたしました。只今より、体育祭午後の部始まりますと同時に、お待ちかねの、応援合戦の時間となります>>


「応援合戦始まるって!!」


「ヤバい、早く行かなきゃいい席なくなる!!」


「私、大国中だったから高羽君達楽しみにして来たんだよね~!!」


「私も!! 友達が、1年にめっちゃカッコいい人達が居るって教えてくれて!!」


 始まりのカウントをとる太鼓が鳴り始めると、グラウンド内が人で混み始め、午前に比べて一層賑やかになった。


「空、こっち」


「暁君、苑ちゃん」


 特別出番がない生徒達は好きなところで観ていたりするので、空も人にもみくちゃにされないよう、暁と苑と一緒に観ることにした。


 事前に望夢達が教えてくれた場所で、正面からしっかり全体を見渡せる位置を確保することが出来た。


 既にグラウンドでは、応援団に対するコールが始まっており、熱が高まっている。


「それにしても、すごいモテモテだね。1-2ブルー」


 周囲の期待に満ちた様子をみながら苑が呟くと、同じように視線を巡らせながら暁が頷く。


「高羽達の面は人目を惹くだろうからな」


「……みんな本当に凄いな」


 空は、いつも一緒に居ても、離れた場所でこうして歓声に包まれる彼らを見ると、まるで違う世界の人達のように感じてしまう。


 自分には特別取り柄が無いから同じステージには立てないし、こんな時、どうしても寂しいな……。


 そう思っていると、いつの間にか太鼓の音が止み、マイクのスイッチが入った音がした。


<<応援団の入場です。トップバッターは、赤団による【大炎輪】>>


 入場門が開き、赤色の衣装を着た赤団メンバーが現れた。


 全員赤い鉢巻をして、気合を入れた演舞を披露した。


<<続きまして、黄団による【月花】>>


 黄団も月をイメージした金の衣装で、動くたび煌びやかでその美しさは注目を集めた。


<<月の次は、森、緑団【精霊】>>


 緑団は森の精をイメージした可愛い衣装で女子からは歓声が上った。


<<次は、白団【白雪】>>


 この白雪は、白い雪ではなく、まさかの白雪姫だったようで、突然白雪姫の寸劇のようなものが始まり、予想の斜め上の発想に、観客からは高らかに笑いが起こった。


<<……最後になりました。ラストを飾るのは、青団 Bluebird>>


 司会がそう告げるやいなや、周囲から先ほどまでとは比にならないほどの大歓声が起こる。


 その直後、透き通るような歌声が流れる。カリスマと称えられた某・女性アーティストの曲だ。


「これ、あれだよな?」


「うん。俺、この人の歌割と好きだったわ」


 縁と暁が懐かしそうに談笑する横で、空は登場した彼らの姿に釘付けになった。


 青と水色と紫の透ける素材を白い衣装の上下に重ねて纏い、アクロバティックな動きを繰り出し宙を舞う。


 その姿は、まるでこの晴れやかな青空を羽ばたく鳥のようで、とても綺麗だった。


 そして、歌詞が、心に響く。届けるように、包まれるような感覚で。


『青い空を共に行こうよ。白い砂浜を見下ろしながら。難しい話は要らない、キミが笑ってくれればいい。そう言って君が笑いかけた』


「凄い……っ」


 感動で言葉にならない空がじっと視線だけで想いを伝えようとしていると、ラストスパートにかかった青団の演舞が今日イチの盛り上がりを魅せる。


「そんじゃあ、いっせーの!!」


 団長の号令を合図に一人をみんなが抱え、その瞬間、高々と天へ持ち上げる。


「え……、望夢君……っ?」


 なんと、中心で跳躍したのは、望夢だった。


 運動神経が良いのはわかるし、そんな気もしていたけど、まさかこんな場面で飛ぶ役になるとは知らなかった。


 なにより驚いたのは、飛ぶ瞬間、望夢がこっちを見て、笑った。


「やるな、ガキ」


「ハイスぺックイケメン、マジ腹立つわ~」


 空には感動で届いていなかったが、その場面をみた保護者二人が複雑な表情を並べた。


<<以上で、応援合戦を終わります。どの団も思考を凝らして、素晴らしい仕上がりだったと思います。それでは審査に移ります>>






「空!!」


 演技を観て4人の元へ急ごうとする空を呼び止める声があった。


 聞き覚えのある声に空は目を丸くしながら、その声に導かれるように振り返った。


「望夢君……どうしてそっちから?」


「お前の方からだと人が殺到するから、テントの裏抜けて回って来た」


「……望夢君、聞いてないよ! あんな凄い事するなんて……っ! カッコよかった!!」


 駆け寄って感動を訴えると、望夢は照れながらも満足げに笑う。


「練習ではミスったこともあったんだけど、無事成功。お前のお守りのお陰で無傷だ。ありがとな」


「……わ、私のお守りなんて全然……っ」


「本当に、そう思ってるんだよ。だから、終わった瞬間なんか無性にお前の顔見たくなってさ、あいつら置いてきちまった」


 ははと笑う望夢の言葉に胸が熱くなり、うれし涙が溢れた。


「……なんで、そんな嬉しいこと言うの……っ」


 すると、望夢は空を軽く抱き寄せた。


「泣き虫だな。お前」


「違うよ……、望夢君が泣かせるの」


「俺のせいかよ」


 溜息を吐くのが聴こえるも、笑っている気配が伝わり、空の口元にも笑みが零れる。


 ずっと、一緒にいられたらいいのに。そう願うも、シャッター音がその終わりを涼やかに告げた。


「あ……苑ちゃん……っ?」


「ごめんね~邪魔しちゃ悪いと思う反面、いい被写体を見るとシャッターを押さずにはいられなくって」


「その割に……全然、悪気なさそうっすね」


「何のこと―?」


 恥かしく鳴って真っ赤な空とは対照的に、妖しい笑みを浮かべる苑の魂胆に一人だけ気付く望夢は苦笑していた。


「望夢てめえ、何一人で先に戻ってんだよ!」


 暫くして駆け足で飛鳥達がやって来た。


「悪い」


「まったく悪びれてねえ顔だな」


 望夢の態度に眉を寄せる飛鳥だが、いつものごとく海に仲裁される。


「まあまあ」


「折角感動したのに熱が冷めるから、喧嘩は最後に取っておけ」


 暁がそう声を掛ける横で、苑が衣装姿の彼らを次々に写真に収めていく。


「そこ並んで。折角だし、記念にみんなで撮ってあげるよ」


「本当に?」


「「「「ありがとうございます」」」」


 5人は顔を見合わせた後、空を真ん中にして何枚も写真を撮ってもらった。


「苑ちゃん、ありがとう。本当に素敵な思い出だよ……!」


「空ちゃんの為にできることは、俺は何でもするよ」


 空が駆け寄ってお礼を云うと、苑は綺麗な顔で絵になるようなウィンクをした。




・・・・・・




<<体育祭もいよいよ終わりに近づいてきましたが、まだ盛り上がりは続いています。次は恥ずかしくも楽しいと評判高い名物競技・ペア競技です>>


「あ、コレ、俺と空出るやつ」


「そうだね……っ」


 放送がかかった瞬間、空はドキッとした。これは、なかなかクラスの話し合いで参加者が決まらず、加瀬が決めた采配で、しかも空と望夢は同じペアだった。


 望夢が誰か別の女の子と組むのは見たくはないが、自分が相手としてやるのも緊張で落ち着かない。


 もし迷惑でも掛けたりしたらと、マイナス思考の空を、グッと持ち上げるのは、やはりこの人物だった。


「空、何暗い顔してる?」


「望夢君……、だって、もしこんな大衆の面前で転んだりしたら……」


「その時は、俺が抱えて走ってやる」


「……は、はい!」


 抱えるのイメージがピンと来なかったが、空はパワーをもらった気がした。


 そして、競技スタート。


「え……何これ、手繋ぎスキップ!? 無理でしょ!!」


「俺は平気だ!」


「あたしがアンタとじゃ嫌なのよ!!」


「「「「ははは!!」」」」


 雰囲気づくりのために選手たちはピンマイクを装着しているため、問答が聴こえて場は一層盛り上がる。


「望夢君……私」


「大丈夫」


 空達の出番が近づいて来て緊張がぶり返す空の手を、望夢がギュッと握る。


 そして、運命の時。——お題は、


「お姫様抱っこで外周。……マジで抱えることになったな」


「え……?」


 漸く、望夢の言っていた「抱える」がどういうことなのか解かった空が衝撃を受けるも、気が付いたときにはスタンバイOKな状況になっていた。


「俺、多分速いから、しっかり首に手掛けとけよ」


「えぇ……っ?」


<<よーい、スタート!!!>>


 合図と共に、望夢が走り出す。


「す、すごい速い……っ。落ちる……っ!」


 空が自信無くそう言った直後だった。対照的に絶対的自信にあふれた顔で望夢が言った。


「大丈夫だ。死んでも落とさねぇよ」


<<キター!! 少女漫画にも負けない、神フレーズ!!>>


「……あ、ヤベ。マイク付いてんの完全に抜けてたわ。……ま、いいか」


「望夢君……っ!?」


<<素晴らしい!! 流石、青団きっての魅せるイケメン高羽望夢!! 応援に続いて、女子のポイントをガシガシ稼いでおります!!!>>


「……イケメン滅びろ!!」


「クソイケメン、ムカツクイケメン……っ!!」


「青団目立つな!!」


「高羽はもう引っ込んでろ~!!」


「俺達が霞むわ!!」


<<多方面から男子による嫉妬の野次が止まりません!! モテる男はつらいですねえ~!!>>


「……すげえな、コレ」


「高羽フィーバー凄いね」


 今時の体育祭の盛り上がり方について行けない大人二人は腕を組んで笑うほかない。


 その横では紫・海・飛鳥が2人の活躍を見守る。


「こりゃ、空ちゃんが気の毒だな……」


「観て、ダントツ1位通過。加点50ってエグイ」


「審査員に青団の回し者でも居るんじゃねーのかってくらいだな」



<<皆さんお楽しみいただけたでしょうか? 以上でペア競技終了です!! 選手の皆さん、特に、高羽望夢君・小鳥遊空さんペア、ありがとう!!>>


「……個人名を出すなよ」


 競技が終わってみんなが待つテントに帰ると、グラウンドアナウンスがかかり、望夢が苦笑交じりに頭上を睨んだ。


「私の名前も流れた……っ。ビックリ!」


「これはベストカップル賞かな?」


「「は?」」


 紫の言葉に、空と望夢の目が見開かれる。


「久遠君、それ、どういうこと?」


 笑顔だけど目が笑っていない苑と、ピンと来ていない暁に、紫が表情を硬くしながら説明する。


「えっと……、体育祭では、加点抜きにして、各種競技で盛り上げに一役買った人に特別賞が贈られるんですが、この競技にいたっては、ペアで行うので、男女共に送られることになっていまして……っ、その賞の通り名が【ベストカップル賞】というわけです」


「「へぇ……、ベストカップル賞ね?」」


「ちょ、暁君、苑ちゃん……顔が怖い。ただの頑張った賞だしっ、実質頑張ったのは、望夢君だから、コレは個人賞だよ……っ?」


「そうかな? ……そうなの望夢君?」


 わざと訊いてくる苑に、望夢は圧されながらも、暫く考えて口を開いた。


「違いますね。俺、相手が空じゃなかったらこの競技参加すらしていないので」


「え……っ?そうなの……?」


「当たり前だろう。誰とでもこんな恥ずかしい競技できるかよ」


 その場に居る中で誰より驚く空に、望夢はしっかりと伝えて来た。


 すると、さっきとは打って変わり穏やかな笑みを浮かべる二人が口を開く。


「……じゃあ、空も頑張りに一役買ったということか」


「空ちゃん、こりゃカップル賞、貰うしかないね」


「暁君……苑ちゃん」


「もしかして」


 空達はこのときに気が付いた。


 彼らはただその賞が気に入らないわけではなく、目ぼしい活躍が無い自分を卑下していた空に自信を与えるモノが欲しかったのだと。


「2人とも、ありがとう。……望夢君も、ありがとう」


 空は周りの温かさに何度目かの涙が出そうだったのをグッと堪え、代わりに満開の花のような笑みを浮かべた。


 そして、着々と体育祭は終わりに近づいていき、今日一日の体育祭スケジュールは完了を迎え、フィナーレ。


 放送席が、今年の体育祭勝者を告げた。


<<第56回・総合優勝は青団!!>>


「「「しゃあーっ!!!」」」


 空達の青団は、競技・応援・(応援団)衣装演出の三冠を獲り、華々しく勝利した。


 そして、予想していた通り、特別賞受賞式ペア競技の部で名を呼ばれたのは望夢と空だった。


「おめでとう。君たちは本当に素敵なペアだったよ。来年も活躍を期待します」


「「ありがとうございます」」


 学校長から直接賞状を渡され、空は感動が抑えられなかった。


「望夢君のお陰だな……っ。私、賞なんて貰うのは初めてだよ」


「俺もだって」


 団の列に戻ったあと、話しながら薄ら涙を浮かべる空に、望夢が大袈裟だなと笑いかける。


 本当に、今までの人生で最高の体育祭だな。


 空はこの幸福に満たされた時間を涙と笑顔と共に噛みしめる。


「……壊れればいいのに」


 しかし、この幸せな空間を壊そうとする鋭い悪意が着実に迫っていた。




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