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Paradise  作者: 香澄るか
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始り

登場人物紹介


小遊鳥たかなし そら 

黒髪のミディアムボブ 人見知りで臆病な性格な少女。望夢達と知り合って変わっていく。


高羽たかばね 望夢のぞむ

グレーの短髪・両耳ピアス 端正な顔立ち。入学式で空の隣の席になり、空を仲間に入れる。


久遠くおん ゆかり

襟足長めの茶髪・ピアス 爽やかイケメン。望夢の幼馴染で親友。周りをよく見ている。


立谷たちや 飛鳥あすか

短い金髪・ピアス 望夢といつも一緒に居るが、よく喧嘩をする。女嫌いで口が悪い。


鳴瀬なるせ かい

くせのない短い黒髪・耳穴はなし 望夢の仲間。飛鳥とは幼馴染で親友。冷静沈着



仁倉にくら あかつき

茶髪・高身長 空の保護者。血縁関係は無い。



西園寺さいおんじ えん

襟足長め・金髪 青い瞳 暁とは高校時代からの親友。空を溺愛。



名取なとり 安梨沙ありさ

望夢の従妹。



有馬ありま はるか

空の中学の時の同級生。



加瀬かせ つかさ

1年A組の担任。強面だが優しい所がある


桜が一段と咲き誇ったあたたかな春のある朝。


 ネイビーのブレザーにチェック柄のスカートの制服姿の少女が、緊張で顔を強張らせながら玄関の前までやってきた。この物語の主人公、小鳥遊空たかなしそらだ。


「空、気を付けて行って来いよ」


 玄関でローファー靴を履いていると、緊張を解そうとしてくれるかのように背後から頭を撫でられる。空の【家族】のあかつきだ。


 背が高く、短い茶髪に銜えタバコがお決まりだ。切れ長の鋭い目つきが一見どっかの殺し屋かと思わせるが、よく見れば、空を見つめるその眼差しは優しい。


「……暁君、行ってきます」


「おう。緊張してすっ転ぶなよ」


 暁に送り出され、空はゆっくりと目的の場所へ向かい歩き出した。


 どうか、大切な今日という日が無事に終わりますようにと願って。





「新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます」


 ありがとうございます。


 空は心の中で呟いた。――かれこれ12回目だ。


 そう、今日は、高校の入学式。来賓の挨拶だけでも相当な時間になる。


 空としては座り続けることは平気だったが、問題は、この状況。右も左も前も後ろも、まったく知らない顔ぶれということだ。


 空は極度の人見知りで、新しい環境ではいつになく緊張するのだ。


「……眠ぃ」


 そんななか、緊張で顔を強張らせる空の傍で突然聞こえてきた声に、心臓が飛び出るかと思うほど驚いた。


 わ、私じゃありません……っ!


 訊かれてもいないのに、誰かに答えそうになって大分挙動不審だ。


 恐る恐る顔の向きを変えると、隣に座る男子生徒と目が合ってしまった。


 類を見ない、パーツのはっきりした整った顔の青年だった。おまけに、両耳には小さいがシャレたピアスをして、髪の毛の色はグレーという奇抜さである。


 空といえば、黒髪のミディアムボブで、自分ではこれといった特徴がないと思う容姿に、制服はお手本をそのまま着ただけの、真面目を絵に描いたような姿だというのに。


「あ? 何だよ?」


 見過ぎた。彼の問いかけに今更気付く。


「ち、が、えっと……な、な」


 上手く喋れない。というか、本来今は喋ってはいけない場だ。


 考えるほどパニックに陥り、空は自分が一体何を喋ろうとしているのかさえ分からなくなる。


 ……どうしよう。これでは昔の二の舞だ。


 突然フラッシュバックしたのは、中学のころの記憶。まるで珍獣でもみるかのような、白い目に囲まれた中心で、下を向き震える自分の姿。


『キモイんだよ』『宇宙人かよ』『何言っているか意味不明』『怖いんだけど』


 早くっ……しっかり喋らないと……! 嫌われちゃう……っ!


 気持ちはそう焦るのに、言葉がなかなか出てこない。もどかしさだけが冷汗となってギュッと握る手を湿らせる。


「――俺の勘違いか。悪かったな」


 不安と恐怖が渦巻いて呑みこまれそうだった空に、青年が、まるでボウルをふわっと投げるような調子で軽やかに言った。


「え……っ」


「何でもなかったんだろ?」


 瞬きをしながら驚いていると、またも彼はこちらの様子を気にする素振りもなく言った。


 信じられない。初めて会った人にすんなりと気持ちを理解してもらえるなんて。

感激した空は思わず、彼の手を取った。


 あ、ありがとうございます……!!


 この時、空自身は気が付いていないが、感謝と感動が極まって、それは嬉しそうに、今にもとろけそうな笑みを浮かべていた。


「お前……」


「え? ……わっ!? ご、ごめんなさ、い……っ!」


 彼の声にハッとした空は、彼が気分を害したと思い慌てて手を放し、持っていた真新なハンカチで彼の手を拭く動作をした。


 大変だ……っ。つい、暴走してしまった! 不快にさせてごめんなさい……っ!


 しかし、彼は空に怒ることはなかった。


 それどころか、


「ちょっと借りるぞ」


 そう言うと、いきなり空の肩を枕にして寝始めた。ガン寝だ。


「え……っ」


「動くなよ」


 そう言われると、もう一ミリも動けない。空はそのまま、呼吸をすることを忘れて硬直した。


 こんな事初めてで、全く、何が起こっているのか、これが一体どういう状況なのか分からなかった。





「あれ? 何やってんの、望夢のぞむ


 式が終わって教室に移動することになった時、空の肩に未だ頭を預け寝たままの青年のもとへ3人の男子生徒がやって来た。


 いずれもみんな、スタンダードとは違う。


「は? マジ寝かこいつ」


 そう言って少年のパイプ椅子の脚を蹴るのは、眩しい金髪の上から黒いロゴ入りキャップを被った目つきが鋭い青年。


「飛鳥すら寝なかったのにね。昨日よっぽど寝られなかったのかな?」


 『おい、サラッと俺をディスってんじゃねーよ』と、さっきの金髪君に睨まれても穏やかな笑顔を見せているのは、首までのくせのない黒髪で、女子に間違われそうな色白の美青年。


「そうだとしても、このままは良くは無いよね。――こいつが巻き込んでごめんね」


 空を見て優しい声音で何故か謝ってくれたのは、茶髪にピアスながら爽やかで大人ぽい青年。


 彼らは、きっと少年の友達なのだと思うけれど、一体何者なのだろうか。さっきから周りの視線が突き刺さって痛いのは気のせいではないだろう。


『あそこだけオーラ違う』 『芸能人みたい』 『ダントツかっこいいね』


 こんな目立つ人たちの中に地味な私がいることに怒っているのかもしれない。勝手にそう思い込んだ空は、彼らから離れようと考えた。


「あ、あの」


 しかし、つい動いてしまったことで、グレーの髪の青年が目を覚ます。


「……終わったのか?」


 問いかけてくる青年に答えたのは、金髪の青年だった。


「お前が寝こけている間にな。おら、さっさと動け」


「あ? お前ら居たのかよ」


 青年は3人が側に居ることに今漸く気が付いた様子で、驚いていた。


「早くしないとみんな居なくなるよ」


「おー……行くか」


 辺りを見渡し状況を確認すると、重い腰をあげた青年は歩きだした。その後ろから友達3人も付いて行く。


 空は、先を越されたけれど緊張から解放されたことで安心し、胸を撫で下ろす。


 後から人ごみに紛れてゆっくり行こう。そんな風に思っていたが、次の瞬間、その考えは打ち砕かれる。


「おい、行くぞ」


 グレーの髪の青年が、まさか、振り返って空に言ったのだ。 


「え……?」


「お前も同じクラスだろう」


「あの……っ」


 早く行ってしまったらいいのに、彼は空が動き出すまで待っている。


「おい、あの女誰だよ?」


 眉を顰めながら、金髪の青年がグレーの髪の青年に訊く。それはそうだ。突然で、誰もこの状況を把握できていない。


「俺らのクラスメート」


「名前は?」


 今度、黒髪の青年が訊くと、グレーの髪の青年は、こっちを見て同じ質問をする。


「名前は?」


 まさかに、3人がズッコケそうな勢いと共に苦笑した。


「知らねーのかよ!」


「こういう奴だよ……」


望夢のぞむらしいね」


 それでも、グレーの髪の青年は大した問題ではなさそうに、空から目を逸らさない。


 空から言うのを待っているのだと感じた。


「は、初めまして。……小遊鳥、空です」


 あまり声は出せなかったが、精一杯の勇気を出したつもりだった。


 でもやっぱり少し怖くて、恐る恐る顔をあげた。すると、少年が笑ったのが見えた。ちゃんと届いていたらしい。


「高い梨か?」


「え、いえ……っ、小さい、遊ぶ鳥と書いて……っ!」


 よく誤解されるので、訂正には自然と力が入る。


「そっか。——じゃあ、お前は【小鳥】だな」


「え、こと……?」


「小鳥、俺は高羽望夢たかばねのぞむだ。覚えとけよ」


「……は、はい!」


 小鳥の命名は良く分らなかったけれど、どうやらニックネームを付けて貰ったらしい。


 空は【高羽望夢】という、今聞いた名前を忘れないように心の中で繰り返した。


「望夢、仲良くなったの? じゃあ俺達も挨拶しないとね」


「へ……っ?」


「俺は久遠紫くおんゆかり。望夢とは小学の時からの付き合いなんだ。よろしく」


 笑顔でそう言ったのは茶髪の青年。やっぱり爽やかだ。


 優しい雰囲気にホッとし油断していると金髪の青年と目が合い、その鋭い眼光に震えあがりそうだった。


立谷飛鳥たちやあすか。いっとくけどな、望夢が認めたイコール俺もってわけじゃないからな!」


「飛鳥、何恐がらせてんの! ったく……、ごめんね。気にしないでね? 俺は、鳴瀬海なるせかい。飛鳥とは小学校からの幼馴染ってやつで、望夢と紫とは中学から一緒。よろしくね」


 金髪の青年飛鳥に萎縮する空を気遣って、黒髪の青年海が優しく笑いかけてくれた。


 温かいのとちょっと冷たいのが混合して、落ち着かないけれど、反面今誰かと一緒に話をしたり、共有出来ているこの時間は新鮮でとても嬉しかった。


「小鳥、こいつらの名前も憶えておけよ」


 色々な感情が心の中を駆け巡る最中でも、届いたのは彼、望夢の声だった。


「高羽君……」


「小鳥、早く行くぞ」


 強い引力を纏うかのような力が、彼の声には込められているのかもしれない。


 空の足は自ら彼が待つ方へ向かったのだった。


 この出逢いが後に沢山のキセキと変化を起こすことを、空も彼らもこの時は未だ知らない。物語は、眩しくも静かに幕を開けた――





















読んでくださってありがとうございます。

感想など、良かったら一言でもよろしくお願いします。

この先もお付き合いいただけると、幸いです!!

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― 新着の感想 ―
[良い点] ・心理描写が上手い [一言] 面白かったのでブックマークさせてもらいました。 これからも読み続けていきたいと思います。
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