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マリッジ◎マリッジ  作者: いすみ 静江✿
Ⅰ マリッジ◎マリッジ
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β011 白の世界に輝く

「ぐっ」


 今度は、僕が声をもらした。

 倒れた誰かが、僕の青い空中庭園国国民服を引っ張るものだから、首が絞まる。

 死にたくはない。

 まだ、やり残したことがある。

 ひなの声を確かに聴いたんだ。


「助けてください。自分の足元が段々……。なくなってしまうのです!」


 これは、愛しいひなからは、かけ離れた声だ。

 どちらかと言えば、大人の女性のような。

 ひなではないことを確かめなければ。

 僕はゆっくりと振り向いた。


「ひ、ひいっ」


 僕の背筋から滝のような汗が哀し気に流れた。

 その白い女性は、上のフロアにいたCMAのように見えた。

 しかし、額に一本の突起がある。

 そこだけが、まるで赤い(つの)のような……?


「金色のあなた、上から来たのですか? あなたは、伝説の巫女ですか?」


 この女性が、僕の国民服を支えにして、下へ落ちるのを持ちこたえているようだ。


「僕もよく分からないが、上からだな。しかし、僕は巫女ではないよ。ただ、巫女に助けて貰って、この世界に来た」


「ひっ。ひい! 落ちたら死にます!」


 既に、下半身は消えている。

 AIは、実像があったり、ホログラムがあるようだ。

 気になることを聞いたら、心を切りつけたりしないだろうか?


「あの……。その赤い部分は、鬼と化したのかな?」


「鬼? ああ、この角のようなものは自分が印を受けたのです。自分はバグなのです。そうか、鬼に見えるのですか。酷いですね! 虫は、鬼なのですか」


 もしかして、マルクウの中枢にバグがあるのは、多大なミスではないか?

 マルクウは自浄作用で、バグの区別をつけているのかな。

 それにしても角とは、面妖なこともあるものだ。

 架空の世界のことだと思っていた。


「自分は、CMA(シーマ)999(ナインナインナイン)に生まれて、働けど、働けど、サイバーセキュリティに携わって来ました。それなのに、こうも簡単に切り捨てられるとは……! 鬼畜なのは、空中庭園国です。本当の鬼は」


 やはり、CMAだったか。

 あなたは、CMA999なのか。


「CMA999。どうして、バグだと分かったんだ? 今まで、中枢で働いていたのだろう?」


 じわりと消えて行くCMA999に、悪いけれども、どうにか僕の使命に関するヒントを得たいと思った。


「自分は、デバッグ……。除虫されそうなのです。コンピュータプログラムに潜む欠陥ですから。いつまでも隠れておられずに、とうとう見つかってしまいました。急に足元が緩くなり、排除のコールが鳴りました」


「見つかるって、誰にだ?」


 ことは急がなければならない。

 CMA999が胸元まで消えている。


「清浄の鐘の音です」


 ああ、ゴーゴーと鳴ったばかりの。

 清浄の鐘にそんな働きがあるのか。

 その鐘は、確か……。

 確か、あの人が関わっているのでは?


 初めての『マリッジ◎マリッジ』からの彼女の返信を思い出す。


≪私は、重いβコードを背負って生きています。ハイスクール在学中から、空中庭園国の父の補佐として、清浄の鐘を鳴らす大事な役目を担うようになりました。この頃身辺が落ち着きません。どうか、私のボディーガード役を買って出てくれないでしょうか≫


 あの、メッセージには本当に重い意味が含まれているのか。

 何とか彼女と繋がっていたい気持ちはまだある。

 この気持ちで、話し掛けてみようか。

 僕は、パーソナルフォンを見つめ、こんなものに頼っていてはダメだと思った。

 それに、ロックされており、ウィンドウの起動もできないかも知れない。

 CMA157に起動させた場所を探知さられても脅威だ。

 よし、がんばろう。


「CMA999。今、僕の誠意で、呼びかけてみる」


 僕は、CMA999に手を伸ばす。

 CMA999は、随分と驚いた顔で手を震わせる。


「自分を……。自分を助けてくださるのですか。バグなのです。鬼……。なのです」


「バグだって、鬼だって? そんなのを気にしてはいけないよ」


 僕は、戸惑うCMA999に、顔も似ていないCMAβの面差しをしんと感じた。

 CMAβ、君ならどうする?

 逞しい君なら。

 僕は振り返り、国民服を頼っていたCMA999の腕をしっかりと両手で掴む。

 国民服では、救えないだろう。

 気持ちだ。

 気持ちが大切なのだ。


「よーし、せいの!」


 腕を引き抜きながら、助かれと念じる。


「せいの! せいの!」


「自分は、バグです。自分を助けては、惑星アースへ惑星流しになるかも知れませんよ」


 そんな覚悟もできていない人間が、マルクウまで来たりはしないよ。


「そもそも、僕は、ヤン父さんとかや乃母さんが惑星流しされているかも知れない。そして、ひなが依然として、行方不明になっている」


「しかし、自分は鬼です」


「せいの! せいの!」


 よく見れば、可愛い角ではないか。


「中身が大切ってこと」


 僕の力のある限り、CMA999を助ける。

 そして、メッセージを送ってくれた鐘をつくあなたに届きますように……。


「せいの! せいの! せ、い、のー!」


 CMA999よ、助かれ――。



 真っ白だった世界が、金色に輝き出し、そして、虹色の世界へと変わって行った。

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