EP61:side.森の世界 scene.2
〈視点:谷高 瑠奈〉
あれから私たちは三時間程歩いたが一切魔物と遭遇していない。
それに不思議なことに喉は乾かないし、お腹も空かない。少し足は疲れるけだそれでも異常よ。
ほんと、この森はなんなのかしら……。
「……ん? ……誰か来る」
「えっ!?」
「「何!?」」
――えっ!?
私たち以外に人が!? ……でも怪しいわね。
こんな所に人がいるなんて……まさか黒幕なんて事はないかもしれないけど何かしら関係があるかもしれないわね……。
「ちっ! 敵襲か……〈指示〉……龍川 卓也、谷高 瑠奈、構えろ!」
龍川 卓也君と私は強制的に啓成 維池郎先生の〈指示〉で構えさせられる。
次第に二人の姿が見えてきた。
一人は…エルフ? の女の子で…もう一人は…女の子、かな?
二人の髪の色は黒じゃないから日本人ではなさそうね。
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〈視点:カリア〉
私たちがこの森を探索していると四人の人影が見えました。
「あっ! 人がいるですぅ!」
「あの四人の内、三人は戦闘態勢に入っています……カリアさんは戦えますか?」
戦闘態勢ってどう言うことですぅ!?
兎に角、私は弓を構えた。
「わ、私はあまり戦えませんが弓を少し使うことはできるですぅ」
「では、カリアさんは弓で指示者を狙ってください。その間に僕は残りの二人を相手にします」
そう言うとサリアさんが女の子から放たれるいくつかの属性の魔法を避けながら二本のナイフで連続攻撃を仕掛けたですぅ……晴兎さんの攻撃よりは遅いけどかなり速い攻撃ですぅ。
私も指示者の男の人を弓で魔力を乗せて狙う。
……しかし、
「こんな矢は効かん……フン!」
――ボキッ!
男の人が矢を手で取って折ったですぅ!?
一方でサリアさんは男の子と女の子を片付けて(気絶させて)いたですぅ。……どれだけ手際がいいんですかぁ!?
そのままサリアさんは男の人を簡単に片付け(気絶させ)たですぅ。
あと女の子が一人残っているですぅが……。
「……待って、私は戦う気は無い」
「ですぅ!?」
「説明してもらえますか?」
「…………わかった、説明する。……私たちは気がついたら異世界トライアスから見知らぬ森に来ていた。……私たちの星の私たちが来た国の人は基本的に髪の色が黒だから髪の色が違う貴女たちを警戒したこの男……先生はこの女の子と男の子、卓也と瑠奈に命令して戦闘させた。……って言うことがあった」
「……そう言うことですか」
「どうするんですぅか?」
「……ん、私たちも連れて行って欲しい。ここがどこかわからないから数は多いほうがいい。………そこの三人は私が説得する」
「……分かりました。確かにここがどこか分からない以上、人数は多いほうが良いですね。それでいいでしょう……ですが、不穏分子だと判断したら処分しますので、そのつもりで」
あの、サリアさん、目が全く笑っていなくて怖いですぅ。
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〈視点:三人称〉
サリアの集団と、その十分後に見つけた圓の集団――ジーノが読み取った二つの気配のうち、カノープス達はサリアの集団との合流を目指すことにした。
サリア達の集団を先に見つけてそちらの方に向かっていたため、かなりサリア達の集団の方に近づいていたからである。
「……何かいるね。反応は三つ……これは、多分魔物じゃないな。……どうなさいますか、陛下」
ラピスラズリ公爵家の戦闘使用人は闘気と見気を練度に差があるとはいえ、全員が習得しているが、その中でもカノープスの闘気と見気はローザに匹敵するほど発達している。
今回は偵察をジーノに一任させていたが、ジーノがサリアやローザの気配を追うことに意識を割くようになったことで他の気配に意識を向けることが難しくなった。
右を向きながら左を向くことが難しいように、複数の気の位置情報を全て正確に知ることは困難だ。そのため、ジーノの代わりにカノープスが発達した見気を駆使して探査網を張り巡らせていたようだが、どうやらその網に三つの魔物ではない存在が掛かったらしい。
「何か知っているかもしれねぇからな、殺すなよ」
「委細承知致しました。私の陛下……ということで、ジーノ」
「承知しました、旦那様。――武装黒脚!!」
ジーノは両脚に武装闘気を纏わせると、そのままカノープス達を置き去りにして森を駆ける。
「――ッ、何か来ます!!」
カノープスが発見した集団――その中のルーアが一早く気づき、猛スピードで迫ってくる人影の方に視線を向けた。
次いで、晴兎と星也もそれぞれ武器を構える。
「……鑑定が、できない、ですって!?」
「なるほど、鑑定ですか……どうやら、ローザ様と同様にステータスを見る力をお持ちのようですね。……それでは、単刀直入に質問させて頂きましょうか? 貴方方はこの件に関する黒幕か、私達と同じ被害者か……敵か、或いは味方となり得るものなのか?」
ジーノは「武装黒拳」を発動して拳を硬化させる。両手と両脚が黒く染まり……。
「全身黒武装-漆黒金剛-」
やがてその黒が全身に及ぶ――部位の部分硬化ではない武装闘気、それもただ全身を硬化させることができるというだけではなく、直接相手に触れずに武装闘気を衝撃波として放つことで吹き飛ばす武気衝撃、更に相手の身体に直接武装闘気を流し込むことで内部から敵の身体を破壊する武流爆撃……つまり、全ての武装闘気の派生系へと展開することが可能である。
「……その質問、そっくりそのまま返すよ。貴方は一体何者なんだ?」
「なるほど……それは一理ありますね。その反応で貴方方が敵でないことは分かりましたが、誤解を解くために私も自己紹介をしておきましょう。私はラピスラズリ公爵家の執事長を務めていますジーノ=ハーフィリアと申します」
星矢の質問にジーノは威嚇の意味を込めて発動していた武装闘気を解きながら名乗るという形で答えた。
「……ねぇ、星也。……僕達の知っている執事長ってこんなに威厳がある存在だったか? 百戦錬磨の騎士みたいな武闘派に見えるんだが……」
「僕もそう思うよ……この人、ただの公爵家の執事長にしては強過ぎる……。あの教皇みたいな只者ではない気配がするよ」
「詮索はお辞めになった方が賢明かと……我々ラピスラズリ公爵家は歴史の闇を司ります。我々の真実を知ろうとした者達は過去に何人も葬られてきました――その中にはシャマシュ聖教教会の勇者も含まれています。……まあ、その頃は過激な者達が集まった先代の使用人の時代の話ですから、実際に勇者暗殺に参加したメンバーは私くらいしか残っていませんが」
さらりと事も無げに語るジーノ。もし敵対することになったとして、三人で全力を出せば正面からなら勝てるかもしれない。
だが、奇襲を受けたとしたら果たして対処することができただろうか? 今回、ジーノは気配を消さずに接近してきたから気づくことができたが、本気で暗殺しに来ていたとしたら、勝ち目があるとは思えない。
「そういえば、シャマシュ聖教教会なんて宗教団体、聞いたことがないよな、ルーア、星也」
「はい、マスター。……私達の知る宗教と言えば……」
「「「ネスト・クデューエンが教皇をしている異世界トライアスの宗教団体しか思いつかない」」」
神官のような背の低い男の老人の姿が三人の脳裏を過ぎる。
「ほう……異世界トライアス。……聞いたことがありませんね。ローザ様から我々の世界はユーニファイドと呼ばれているようですし……となるの、別の世界からこの世界に紛れ込んだということですか?」
「まあ、ジーノの推測で正しいだろうね。……しかし、困ったな。こういう話は私の娘が専門なのだが……」
「と、なれば、早くお前の娘を見つけねえとな! DEAD OR ALIVEだ!」
「いや、殺しちゃダメだろ! ラインヴェルド!!」
ジーノの言葉を肯定するように、音もなくカノープスと戦闘使用人達が姿を現した。ちなみに、ラインヴェルドは全く気配を消さず、同じく全く気配を消していないリボンの似合うメイドに説教されている。
「ほら、警戒されたじゃねえか! 大体先陣切って戦う王様がどこにいるんだよ! この阿保が!!」
「アハハハ、ディランに言ったらマジで大受けするんじゃねえか? ぼんやりでうっかりが相変わらずぼんやりでうっかりしているって」
「オホホホホ、なんのことかさっぱりですわ!」
「……お〜い、アクア。変な目で見られている要因って多分大体はお前の奇行のせいだぞ! というか、陛下に阿保って言えるのも許されているのもお前くらいだからな」
「ヒースだったか? 後、あの嬢ちゃんも許しているぞ?」
晴兎達を放置して漫才を繰り返す人達に――。
「マスター……非常にユーモラスな方達ですね」
「……そうだね」
終始置いてきぼりムードでただただ呆然とする三人であった。
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「最後は俺だな! ブライトネス王国国王のラインヴェルド=ブライトネス、趣味は宰相達をあたふたさせることと面白いことを探すことだ! お前らもせいぜい俺を楽しませろよ! クソ笑ってやるから」
「「「…………はぁ」」」
自己紹介を終え、「とんでもない奴らに遭ってしまった」と今更ながら自分達の不運を呪う三人。
「……ん? 囲まれたか?」
「そのようですね。……敵は三十体……我々だけでも十分に対処できるでしょうが……」
「勿論、俺も戦うぞ。それと、こいつらがどれくらい戦えるのか見てみてえな」
幻想級装備『ノートゥンク』を鞘から抜き払ったラインヴェルドがニヤリと笑い、カノープスがそれに応じて戦闘使用人達に命令を下した。
「ということで、私の陛下と晴兎殿とルーア殿と星也殿の獲物を奪わないように、各々全力を尽くすように」
「僕達の分も倒していいですから! そんなお気遣いは無用ですよ!!」という晴兎の半ば絶叫と化した声を無視してナディアとニーナを先頭に戦闘使用人達が歩行する木々達に突撃した。




