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前衛女子が打ち破る世界と陽の光  作者: 紺色ツバメ
二章 異国の兵士は、騙る
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ホントにBKなんじゃないの

 そもそもどうしてこんなことになったのか。


 全ては奴が手にしていた二枚の紙が元凶だった。


 部隊に変更を加えるにあたっては、その隊の兵士全員のサインが入った編成届けを提出し、さらに最長で一週間もかかる内部稟議を経た後に認可印をもらって登録を受けるという流れがある。

 つまり、通常は私たちの知らないところで勝手に隊員が増減することはない。

 

 が、この男が現れた時には既にチームメイトになっていた。


 こんなことができるのは指令本部長だけだ。あいつが持つ絶対的人事権の行使だけが、この面倒な手続きを全て吹き飛ばすことができる。こいつが辞令をもって現れた時点で私たちに拒否権は無かった。

 これが、一枚目の紙。


 そしてまた厄介なものを同時に授かってきていた。インテグレータの討伐という特別任務だ。

 それが二枚目の紙。


 本来窓口で受注する『任務』というのは、絶対に達成すべきゴールなどでは決してなく、努力目標を意味するに過ぎない。つまり昇級の査定やステータスに反映されるのみで、ほとんどの人間にとっては無意味なものである。


 それに対して『特別任務』というのは、レベル5の兵士もしくは指令本部長から出される『命令』だ。拒否することは許されず、それが達成されるまで他の任務は受注出来なくなるし、何より自由が極端に制限される。


 具体的には、一日通算十二時間以上の潜入を義務付けられ、加えて全ての『願い出』が取り下げられる。一切の娯楽が奪われると考えてくれたらいい。


 当然達成した時の見返りも大きいのだが、基本的には無理難題がふっかけられ、悪戦苦闘している間に指定期間が過ぎて『特別任務』が失効し、全て白紙に戻るという末路を辿る。その期間は最短で三日、最長で一週間。ほとんど罰ゲームだ。


 この男はそんな事情は知らないはずだ。多分、上から期待されているなどと誤った理解をしているに違いなかった。そんな何も知らなさそうな背中をじっと眺め、そしてはっと思い出した。


「――そう、ちょっとあんた」

「なんだ?」


 クライスは足を止めずに顔だけこちらに向けて返事をする。なんとなく、さっきサクヤ様と言葉を交わしていたときの顔とは違う顔に見えた。


「――なんだ、じゃないわよ。さっきも言ったけど何私たちの前歩いてんのよ」

「問題あるのか?」


 わざとらしく肩をすくめるその仕草に私の苛立ちは頂点に達した。


「あるわよ! エンジニアが先頭を行くなんてバカじゃないの? 敵と遭遇したとき真っ先にあんたがやられるじゃないのよ」


 どうしてこいつにレベル5が与えられたのが全く理解できない。新人にとりあえずレベル5を与えてこの隊に放り込んだんじゃないでしょうね。


「あんたの役目は、私たちのサイファーとリンクを繋いで補助・調整をすること。エンジニアなんて戦えないやつばっかりなんだから、布陣としては最後尾になるの」


 今まで隊に入ってきて、そしてすぐに辞めていったエンジニアはみんなそうだった。ろくに戦うこともできないくせに自らの役目だけを声高に叫んで、偉っそうに私たちの戦闘指揮をとったりする。

 今目の前にいるこの男の振る舞いを考えると、もしかしたらそっちの方がまだ御しやすかったのかもしれないけど。


「それからサクヤ様はああ言ったかもしれないけど、あんたまさか真に受けてんじゃないでしょうね。喜び勇んで先頭歩いてるけどあれは社交辞令みたいなものでただのエンジニアのあんたに本当に期待してるわけじゃ――」

「そうだった。確かにそれはボスから聞いた話だ」


 どの件か分からないセリフで私の言葉を遮る。それから直後、男の手が私の方ににゅっと伸びてきた。


「ちょっと! 何するのよ!」


 身の危険を感じて手刀で振り払おうとする。が、その攻撃はいとも簡単に男に防がれてしまった。伸ばされた手がそのまま私の腕を掴む。


「どうした、共鳴させるんじゃないのか」


 その言葉から男は私のサイファーに触れようと手を伸ばしたことが分かった。確かにリンクを繋ぐにはそれが一番安全確実な手段なのだが。私は掴まれた手を乱暴に振り払う。


「戦闘中だけでいいの! ずっと繋がれてたら不快でしょうがないわ。それに、直接じゃなくて間接で繋ぎなさいよ」

「そうか。分かった」


 そう言って男は歩みを再開した。

「全然分かってないじゃないの! だから前を歩くなあ!!」

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