雨と夢と目
4月のある休日の事だった。桜の花弁を散らし早く夏が来いと言わんばかりの雨が降っている。溜まりに溜まった家事を終え、コーヒーでもと一息ついた時だった。ふとソファを見るとなんともまぁ情けない顔をして夫が寝ているではないか。こっちの苦労を嘲笑うかのように。しばらく彼の寝顔を見ていると、突然ニタァと笑ったりビクッと身震いしだしたり…あまりにも酷い顔だったので仕方なく起こしてやることにした。
「ちょっとねぇ、起きなって」
「ん……んん…?」
「ゆうくんめちゃくちゃ酷い顔して寝てたよ?いったいどんな夢見てたの?」
「いや…夢なんて見てないよ?」
「またまた…!話すくらいいいじゃないの。それとも何?私には話せない内容だったって言うの?」
「そっそんな!?本当に見てないんだって!」
「ウソだ!私ゆうくんがニタニタ笑ってたり怯えるようにビクッてなってたじゃん」
見てない見てたの水掛け論をしていると、ピンポンとチャイムの音が響いた。しまった、謝ろうと扉を開けると、意外な言葉が投げられた。
「ゆうくんこんにちは。さっき聞こえたんだけど、奥さんにも言えない夢ってなんなの?あたしにだけ教えてくれない?」
「いや、だから見てませんって!」
ここでもギャーギャーと水掛け論になってしまった。すると騒ぎを聞きつけた大家さんがどうしたの?と声をかけてきた。
「いやね、お隣さんのゆうくんが奥さんにも言えない夢を見たらしいの。」
「あらまぁーゆうくんいったいどんな夢を見たの?」
…もうお分かりだろう。やっぱりここでも水掛け論になった。僕は逃げる様にマンションから出てくると、不意にビュウと突風が吹き荒れ、僕は飛ばされてしまった。
気がつくも、ここはどこだろう…と、見上げるとそこには赤い顔、長い鼻、大きな扇に一本下駄と昔話に出てくる天狗そのものがそこには立っていた。
「儂はかの名高き天狗様である。先程マンションの上の飛んでおるとき、何やら騒がしいことになっておるではないか。妻にも言えぬ、隣人にも言えぬ、大家にも言えぬ素晴らしい夢があるとの事だそうじゃないか。いや、別に儂なぞ人間のつまらん話など聞きとうないわ。しかしな?どーしても話したい話したくてたらんというのならば、聞いてやっても良いのじゃぞ?」
「いや…だから…夢は見てないんですって…!」
「儂は天狗様じゃぞ!?逆らったらどうなるかぐらい分かっておるよな!?」
「え、えぇ…見ました、夢を見ました!」
「早う言わんか、鬱陶しい」
僕は仕事帰り猫を拾ったこと、ミィと名付けて飼うことにした夢だったと説明した。もちろんそんなのは出鱈目だ。
「と、言う夢だっt」
「ええい嘘をつけ!!そんなクソつまらん夢なぞあるか!」
天狗は僕を首を掴み、その長い爪で僕の目を突き刺そうとしてきた。
「お願いです!やめてください!!本当に見てないんですってば!お願いですからぁぁぁぁ!!」
うーんうーんと魘されていると、ちーちゃんに起こされた。
「ゆうくん、魘されてたけど…いったいどんな夢見てたの?」
元ネタあり。