貨物2093列車
やっぱりというか、何というか。結局なかなか眠れずにいて、ようやくウトウトし始めたと思ったら起こされてしまった。寝る前にちょっとだけとゲームをしたのがいけなかっただろうか。やはり寝る前のゲームはやめた方がいいだろう。
とは言え、もう寝るわけにもいかないので着替えて乗泊の隣にあるセミラミス車掌区に行き点呼をして駅まで向かう。ところで貨物列車は編成が長いものが多く、それが何本も着発する貨物駅もものすごく広くなっている。これからの乗務は2093列車、これも特急貨物列車でしかも途中駅での積み下ろしがないのでとても速い。
「2093列車はえーと……」
「4番線の上り方で乗り継ぎですよ。ちゃんと目を覚ましてしてくださいよ」
「ああ、ありがとー」
そんなやり取りをしながら通路を延々と歩いていく。広い構内で自分の行くべき位置を間違えると、最悪乗り遅れてしまう。普通の駅では多少列車を遅らせるだけですむのだが、ここのように大きな駅では駅側から車両に発車の合図をだす。ホームでお客の安全確認を駅が確実にするためだが、なぜか貨物駅側でも同じ扱いになっている。
そのためドアを閉めないと発車合図が出ない旅客列車と違って貨物列車では異常がない限り時刻になると問答無用で発車してしまう。こうなるといわゆる欠乗となるが、そのようなことは起きていないらしいので特に問題視されていない。
前にこのことをアヤに聞いてみたこともある。
「欠乗しないように注意して、もしなってもうまく何とかするのが私たちの役目です。え、どうやって何とかするかですか? それは内緒です」
そう言っていたずらっぽく笑っていた。
アヤがしっかりしてくれていたおかげか、今回の乗務もまたきちんと間に合った。
「2093列車異常ありません。これからよろしくお願いします」
「異常なし、了解。お疲れ様でした」
定刻に発車。しばらくしてやることを済ませると何もすることがなくなった。アヤと喋ろうにも最近貨物乗務が多く話すこともなくなってきた。
と、不意に無線機から呼び出し音がしてきた。何億光年も一瞬で通信できる機械もすでに実用化されているが、大量のエネルギーを消費するので列車に積んでいる無線機は通常の電波を利用する。そのため駅周辺でしか利用できない。
「2093列車の車掌さん、こちら輸送指令です。応答願います」
なんだろうと思いながら、どちらかというと悪い予感もしながら応答する。
「はいこちら2093列車車掌です。輸送指令さんどうぞ」
「2093列車車掌さん、3007列車が遅れていますのでチェンバース第五惑星駅で臨時停車となりました。よろしくお願いします」
「はい、チェンバース第五惑星駅で臨時停車ですね。了解しました」
「何かあったんでしょうね。軍の臨時輸送でもあったのでしょうか」
横で聞いていたアヤがそうつぶやいているが、ここでは詳しくはわからない。その間も列車は速度を落としていき普段は通過するチェンバース第五惑星駅に停まった。
普段から普通列車で止まることもある駅なのであまり戸惑わないが、特急などの車掌は遠くの普段は止まらない駅で臨時停車もあり得る。
十分ほどすると、駅放送とともに特急車両が隣のホームに滑り込んできた。クローバー7号は停車してドアを開けたとと思いきや、お客さんが乗り終わるとすぐにドアを閉めて出発していってしまった。慌ただしいが一秒でも目的地に急ぐのが特急なのだろう。
「やっぱり特急ってかっこいいよね。早く特急に乗務してみたいよ」
僅かな停車時間だったが、ホームの雰囲気が確かに変わっていた。同じ星系か、せいぜい一つ隣の星系をむすぶ普通列車と違う長距離列車の格というものだろうか。
「そうですね。特急は良いですよ。一等車ともなればお客さんの雰囲気も違いますし特別な列車です」
アヤもそう言ってくれる。さて、クローバー7号が出て行ってしばらくたちそろそろ発車時刻のはずだが、一向に信号が変わらない。どうしたのかと思っていると、駅員が駆け足でやって来た。どうも同じく遅れているクローバー9号も先に行かせるらしい。
「もう少し待つようにって」
車掌室に戻ってアヤに伝えると、
「荷物は大丈夫ですかね。生鮮品や動物がいたら降ろして別送したほうがいいかもしれませんね」
アヤの言うには特急貨物列車には生鮮品や生き物が積まれることが多いそうで、こういうのは列車の遅れによっては別送することになるので確認した方が良いらしい。だだ今日のはそこまで遅れないから大丈夫だろう。
そうこうしているうちにクローバー9号が追い越していった。ようやく発車、37分遅れ。今回の行路はこれで終わりなので、遅れた分が超過勤務になる。
「今日は少し長めの乗務でしたね。平気でしたか?」
「ちょっと退屈だったけど、平気だね」
降りて引継ぐ用意をしながらアヤに返事をする。
「じゃあいつでも専務車掌になれますね」
「専務車掌か、そうだね早くなってみたいな」
「ええ、これならすぐにでも……いえ、やっぱり忘れてください。今は今を頑張りましょう」
そう言ってアヤは笑っていた。