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Railroad Tutor  作者: 悠蓉
普通車掌編
3/30

出区

 この列車には運転士は乗っていない。厳密に言えば運転のみを行う乗務員はいないというべきだろうか。技術の発展とともに、鉄道公社では長時間駅に停車することなく走り続けるようなことはない普通列車では基本的に運転士を省略し、コンピューター制御による自動運転とするようになったからである。そのため、唯一の乗務員である車掌が列車長として現場での全責任を負うことになっている。いや、そのはずだった。だが、乗務員室には謎の少女がいて、一緒に乗務するのだと言ってきたのだからもう訳が分からない。


 とはいえ、車掌として時間通りに列車を運行しなければならない。特に悪いことをしそうな様子ではないし、指令も少女を当たり前の存在のように言っていてこのままでも問題は――少なくとも処分を受けるようなことは――なさそうだ。それに、列車が遅れたら困るお客様もたくさんいらっしゃるのだからここはもうそのまま行こう。


「さあ、早く準備をしましょう」

と、まるで自分の心を読んだように彼女も言ってくる。

 彼女に促されるまま、車庫内で車外の確認を済ませて主電源を投入。乗務員室で今回の列車番号をの設定を済ませ、発車ボタンを押すと列車を駅へ向かって動き始めた。ここはまだ軌道上にある巨大な宇宙施設の中なので、列車はレール上を走行する。足元からは車輪とレールとの振動が伝わってきて「ああ、鉄道なんだな」と実感していたが、いつまでもこうしてはいられない。


 このアヤと名乗った少女、ここにいるのが当たり前というような顔をしている。彼女には色々聞きたいことがあるのだが、駅までに時間の余裕はあまりないので何も聞けずに確認作業をしていく。彼女も慣れた手つきで機器の操作を手伝ってくれる。そして出発前に加えて回送中に行う車内点検――これは空調の効き具合や電灯、トイレ、洗面所の確認など列車の走行とは直接関係のない機器の点検ということで、実際に車内を端から端まで歩いて行い、車掌室のモニターからわからないところを見ることになっている――も手伝ってくれた。


 しかも、いつの間にか彼女の指示に従いながら確認作業をするようになっている。これでは見習い時代と同じだな、なんて思いながらも彼女の指示は的確で、そのうえ無駄がないのでとりあえず言う通りに動いておくことにした。彼女の様子を見るところ、長いことこうして列車に乗っていたようだ。だとしても今までこのような人の存在を聞いたことはないのが不思議である。


 駅が近づいて来た。ホームに進入するときは車掌室の窓を開け、身を乗り出して確認する。さらに片手は非常停止スイッチにかけておく。

 到着後確認が済んだらドアを開けてお客さんが乗り込めるようにして発車時間までしばらく待機する。時計とお客さんを交互に見ながら待つが、この列車はいくつかの鉱山と工場のある工業地帯を走るのでお客さんも多い。

 時間になり、ドアを閉めてホーム確認、そして先程と同じように発車すると列車はゆっくりと今度は宇宙空間へ向けて走り出した。

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