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Railroad Tutor  作者: 悠蓉
普通車掌編
10/30

便乗

「さて今日は便乗からだね」


 今日はアルテミス駅からセミラミス駅までを貨物列車で往復する予定だったが、往路の列車がアルカス駅まで区間運休になってしまい、他の列車に便乗していくことになった。

 便乗するのはツクヨミ行きの普通列車である。偶然にも車掌はファンの存在が明らかになったクロエ車掌、もしかしたら良い放送が聞けるかなと期待しながら先にホームに出ていたクロエ車掌のもとへと向かう。


「アルカスまで便乗よろしく!」


 同じ車掌区で、しかも友人ともなれば気楽なものである。発車後すぐに頼まれて車内を回ることにした。便乗中で検札は本来の業務ではないが、逆にすることが無いので時間を気にせずに回ることができる。何か連絡が来た時のためにアヤは車掌室で待機するとのこと。不正乗車、なんていうものは滅多にないが、それは車掌がきっちり検札をしているからである。少なくとも車掌は皆そう思っている。

 お客さんが正しく乗車券を購入しているか、端末で読み取りながら進んでいく。ついでに放送を聞いてみたが、丁寧で聞き取りやすく流石ファンが出来るだけあるなと思わせるような放送であった。と、そこに見覚えのある顔が。


「あら、この間の車掌さんじゃない」

「今日はクロエ車掌と一緒なの?」


 先日の二人との再会である。覚えてくれていたみたいだ。それとあのファンの子、きっちり今日がクロエ車掌と把握しているところが流石である。よく放送を聞いているのか、まさか声でわかるのか。


「私はアルカス駅までです。そこからは貨物列車に乗ってセミラミスまで行くことになっています」


 二人の切符も確認させてもらうと、アルテミスからアルカスまでの定期券であった。アルカスの人工衛星も規模が大きく、通う人も多い。二人もそうなのだろう。残念ながら今は検札中なので僅かに言葉を交わしただけで終わる。

 アルカスで列車を降りると先程の二人もホームを歩いていた。わざわざこっちに近寄ってきてくれた。


「車掌さん、またね。お仕事頑張ってね」


 それだけ言ってまたすぐに行ってしまった。またびっくりしたのと同時に不思議な人にあった気分だ。そう考えるのはちょっと失礼だろうか。

 と、その様子をアヤが少し不思議そうに見ていた。そういえばこの二人のことをまだ知らないはずだ。彼女たちお客さんにはアヤが見えないので、今の車掌と少女が歩く光景を不思議そうにされることはないのだが。


「可愛い人たちですね。お知り合いですか?」

「まあ、ちょっとね」


 乗務中に知り合ったことを言うと何か言われるか一瞬考えたが、興味がないのかそれ以上は特に聞かれなかった。そしてすぐに別の話に移っていった。


「話は変わりますが、クロエ車掌がよく窓から外を見ていたのは気付きましたか? あれは星などの位置から列車がどこにいるのかを探っていたのですよ」


 たしかに思い出してみると何度か外を見ていた。しかし、そのようなことは見習いの師匠からも先輩からも聞いたことがなかった。アヤによれば教えるのは大抵座敷わらしの担当で、しかも最近は教えないことも多いそうだ。


「今は車両の方できちんと位置を把握してモニターで確認できますからあまり必要ないのですよ。非常時とか、そうでなくても車内にいながら列車の位置を知るには便利ですけどね」


 せっかくなので教えてもらいたい。アヤにそう頼んでみる。


「それじゃあ私も教えてあげましょうか。覚えるべきは星の位置、大きさ、色です。ただ、列車の速度によって見える色は変わってしまいますからね。そこには注意しましょう。あと……」


 こうしてアヤによるレッスンが始まった。

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