ササミの梅しそ巻き
私は、揺れている。
応援している私と。
応援したくない私。
「おっすー♪亮太、隣空いてる？」
「げ、奈緒、こっち来んな、隣は空いてねえよ。」
「ボディはガラ空きだけどね。」
「アホ、俺にボディは通じんよ。」
「おお、さすがプロボクサー様。」
「ギリギリの合格おめでとうございま〜す。」
「ギリギリ言うな。」
「余裕だ、余裕。」
「ま、とにかくおめでとうだよ！」
「隣、お邪魔するよ！」
「あ、こらっ！……ったく。」
「…なんの用だ？」
「ん？いや、ちょっとね。」
「ご飯、そのプロテインだけでいいの？」
「あぁ、もう少し身体引き締めないといけないからな。」
「あと、本当のことを言うと単純にお金がない。」
「切実だね…。」
「それなら、良ければだけど…これ。」
「ん？」
パカッ
「これは…？」
「ササミの梅しそ巻き、作ってみたんだ。」
「これなら、タンパク質も多いし、低カロリーだから大丈夫だと思うけど…。」
「どう…かな？」
「奈緒。」
「へ？」
「ありがとな、喜んで食べるよ。」
「…うん！」
「……毒入ってねえだろうな…。」
「な。」
「なぜ分かったの！？」
「いや、否定しろよ。」
パクッ
「…んお、うまいな、これ。」
「んふふ、でしょでしょ！」
「料理は自信あるんだぁ。」
「だけ、だろ。」
「亮太もボクシングだけなんだから、人の事言えないよ？」
「ははっ！違いないな！」
「お互い様だね〜。」
「だな。」
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「……あのさ、亮太。」
「ん？」
「ササミ、食べるのか？」
「ち、違う！」
「じゃあ、なんだ？」
「えっとね、私さ。」
「揺れてるんだ。」
「亮太のこれからの事に。」
「これからの…事？」
「亮太のこと、応援したい自分と、応援したくない自分がいるんだ。」
「亮太には目指すものがある、それに私は全力でサポートしたいの。」
「でも、その反面、命の危険があるでしょ？」
「いつ死んじゃうかも分からない世界に、亮太を行かせたくないの…。」
「ワガママだよね、私。」
「……。」
「ごめんね！急にこんな話！」
「迷惑だったね！…私、教室に戻る！」
ギュッ
「えっ。」
「…え、あ、亮太？」
「……奈緒。」
「ん…ギュってするの強い…。」
「な、何？」
「俺は絶対に死なない。」
「そんなの…分かんないじゃん…。」
「あぁ。」
「確かに、この世界に入った以上、どんなことがあってもおかしくない。」
「腕が折れたって、肋骨が無くなったって。」
「目が見えなくなったって、身体が不随になったって、おかしくない。」
「だけどな…、プロになるってことは。」
「いつでも戦う覚悟をするだけじゃない、いつでもリングを降りる覚悟もしてる。」
「例えベルトを賭けた試合でも、だ。」
「だから、奈緒が恐れるような事には絶対にしない。」
「安心してくれ。」
「……本当？」
「…約束だ。」
「本当に本当？」
「あぁ。」
「本当に本当に、本当？」
「奈緒がこれからも支えてくれるならな。」
「…ぐすっ…ありがと…。」
「おいおい、泣くなよ。」
「心配してたの！」
「それに、抱き締めるのとかズルいもん…。」
「いっつも抱きついてくる奴が何言ってんだか。」
「我慢してるほうだよ、これでも。」
「今日は俺の番だけどな。」
「毎日ギュってしてくれていいんだよ？」
「やだ。」
「たまに、な？」
「えへへ…それで許してあげる。」
「今日は私がしてやられたね。」
「そうだな。」
「今日は俺のTKO勝ちだ。」
「……。」
「……。」
「……座布団は無しで。」
「うるせぇ。」
短編集3部目です。
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