8.はじめての会話
こんにちは、葵枝燕です。
こちら沖縄では、もう夏です。セミも鳴いてますし、毎日暑いし、寝苦しいし……。生まれ育って今も住むこの土地の、夏の暑さだけは慣れることができません。セミが鳴くと、暑さ倍増する気がするのは、私だけでしょうか?
さて、連載『空梅雨に咲く』、第八話です!
本当は、先週の木曜日あたりに投稿したかったのですが、着地点がわからなくなり、梅雨明けした所為でやる気は半減し、さらに色々と現実の問題もありまして……。ズルズル悩んでる間に、新しい一週間がやってきてしまった次第です。
こんな調子で、無事終わりを迎えられるのか――作者が一番不安です。もしかしたら、完結予定日を延期するかもしれません。
それでは、そんなこんなで第八話、どうぞご覧ください!
「あの……」
今にも消え入りそうに小さな声で、紫村さんは言った。こちらに来るまでは、視線を逸らすことなく真っ直ぐに俺を見ていたのに、今は俯いたまま俺の方を見ようとしない。俺はといえば、動くことを忘れたかのように、紫村さんを見つめたまま固まっている。
ふと視線を感じて、背後にチラリと視線を向けると、伯母がいたずらっ子みたいな表情でウインクを寄越してきた。“これはチャンスよ。話しかけなさい!”というような意味だろうか。どちらにしろ、手を貸す気も、口を挟む気も、伯母にはないらしい。
「どうかしましたか?」
発した言葉だけは冷静だったが、俺の心臓はバクバクと鳴っていた。紫村さんにも聞こえてしまっているのではないか――などと考える自分が、ひどく乙女チックなことを考えているような気がして、それでよけいに緊張してしまう。
あらためて伯母に視線を向けるが、伯母は素知らぬ顔だ。俺の視線には気付いているはずだし、その視線に救難信号が混ざっていることも気付いているはずなのだが、伯母はこの現状を傍観することに決めているようだ。多分、面白がっているのかもしれない。俺はそこでようやく、伯母に助けを求めることを諦めた。
紫村さんに目を戻すが、彼女は俯いたままだ。身動き一つせず、黙って下を向いている。
この状況をどう打破したものか――そう思って、何か言葉をさがそうと考えついたときだった。
「この間は……その……すみませんでした」
澄んだ鈴の音のような、そんな声が俺の鼓膜を揺さぶった。思わず、目の前にいる少女に視線と意識が吸い寄せられる。相変わらず俯いたままだが、それでもその言葉が紫村さんの口から発せられたものだということはわかった。
「その……あんなふうに帰ってしまって……不快な思いをさせてしまいましたよね」
驚いていた。あの日のことを気にしているのは、俺だけだと思っていたのだ。俺の見た目が、赤く染めた髪が、彼女をこわがらせてしまったのだと感じていた。だが、どうやらそういうわけではないらしい。彼女の口からたどたどしく紡がれるその言葉達で、それだけは何となくわかったのだ。
「ああ、いえ。その……よかったです」
そう言うと、紫村さんが顔を上げて俺を見た。どこかキョトンとしたその表情は、僅かだがちゃんと彼女にも表情があるのだということを教えてくれる。そしてそれは、“よかった”という、俺の発した言葉の意味が読み取れないことからきているらしい。
「あ、その……こわがらせてしまったんだと思ってたもんで」
「こわがらせた――とは?」
それを聞いて、俺はまたも驚いていた。あのとき彼女が垣間見せた怯えと恐怖の眼差しは、今も俺の中に残っている。俺はてっきり、俺の見た目がそれを生んだのだと思っていたのだが、彼女のこの問いかけから察するに、どうやら紫村さんは俺のことをさほどこわいとは思っていないようだ。それなら、あの怯えや恐怖の色は、一体誰に対して向けられていたのだろう?
そんなことをつらつらと考えていた所為だろう。つい、
「あの、俺の見た目とかで慌てて帰って行ったんじゃ……?」
と、口走ってしまった。そんな俺の言葉に、紫村さんが目を見開く。驚愕と、焦心とが混ざり合って溶けている。
俺は、また見当違いなことを言ってしまったのか――……?
焦り始める俺の前で、紫村さんがスゥッと息を吸い込む。その呼吸の音だけが張り詰めて、狭い図書室を満たしていく。その気配だけが、俺の肌を伝っていた。
第八話のご高覧ありがとうございました!
さて、行間についての意見には応えられませんが、評価や感想などいただけると嬉しいです! 気になる点は、メンタル弱いので何とぞお手柔らかにお願いいたします。
それでは、第九話で! とりあえず、今は目標修正せずいきたいと思います。
葵枝燕でした。