6.少女の名前
こんにちは、葵枝燕です。
今日は朝からすごい雨だったんですけど、今は青空ものぞいてて暑いです。でも、黒い雲がまだ出ていたので、また降るかもしれないです。暑いのもいやだけど、雨も雨でいやです。汗かきには、夏はつらいのですよ。
さて、連載『空梅雨に咲く』、第六話です!
だんだん、どんなふうに進めたらいいのかわからなくなってきました。でも、少しずつではありますが動き出してきたかなとは思っています。もうすぐ六月も終わってしまうので、期限が迫ってきた焦りはあるのですが、私なりにフミちゃん達を最後まで走らせていこうと思います。
それでは、どうぞご覧ください!
「ああ、シムラさんね」
閉館の準備があらかた済んだ頃になって、ようやく伯母は戻ってきた。そんな伯母に、あの少女のことを訊いて返ってきた答えがこれだった。
「シムラさん?」
「そ。紫の村って書いて、紫村さん。下の名前は、日が三つの――あ、水晶の“晶”でキラリさん。だからフルネームは、紫村晶さんね。常連さんだから、フミちゃんも憶えていた方がいいかもね」
何だか、本当に俺が知りたい答えとは少し違う気がしていたが、とりあえず名前がわかっただけでもまた前進したのかもしれない。それでも、彼女以外の誰かの口から彼女自身のことを聞くのは、悪いことをしているような気がしてしまう。
「それで、その紫村さんがどうかした?」
伯母のその問いに、俺はなぜか返答に窮した。伯母のことだ、妙な勘繰りをしかねない気しかしない。紫村さんというあの少女に惹かれているのは事実だが、恋だとかそんなわけではないのだ。……多分。
「いや、あの……何であの時間に図書室に来るのかなと思ってさ。花ヶ衣にだって図書室はあるだろうし、それ以前に授業があるだろ。花ヶ衣は、進学校なんだから」
悩んだ末に俺が口にしたのは、そんな言葉の羅列だった。よくもまあ口ごもることもなく、すらすらと言葉を並べられたものだと、我ながら感心してしまう。これでどうにか誤魔化せただろうという、微かな安堵があった。
花ヶ衣学園は、笠元市で唯一の中高一貫校にして、市内で一番の進学校だ。朝は七時から、夜は十九時近くまで、ぎっしりと授業が入っているという噂もある。それだけではなく、学校が終われば塾に行くやつもいるというのだから、進学校に通う連中というのは意識が高い。地元でもゴミ箱のような高校を卒業した俺にとっては、雲の上の存在というような学校が花ヶ衣だ。
紫村さんも花ヶ衣に通っているのなら、朝から晩まで学校にいなければならないのではないのだろうか? なぜ、まだ学校が終わる時刻でもない十三時台に図書室に来るのだろう?
利用者のプライバシーにかかわることだとわかっているのに、俺はどうしても気になって仕方がなかったのだ。
「ああ、そのことね……」
明るく陽気な伯母が、珍しく暗めなトーンを発する。俺はそんな伯母に視線を走らせた。しばらく沈黙が流れた後、伯母が静かに口を開く。
「あたしも詳しくは知らないし、利用者のことを簡単には話せないんだけど……そうね、紫村さんには紫村さんの事情があるのよ、ってことだけは伝えておくわね」
「……わかった」
心のどこかで、落胆している自分がいた。知りたいことを知ることができなかった、そのことに対してがっかりしていたのだ。そして、伯母が俺の欲しかった答えをくれなかったことに対しても、苛立ちに似たものを感じていた。
でも、伯母の言いたいこともわかる。図書館は、利用者の秘密を守る場所だ。たとえ一職員だとしても、俺はただのバイトであることは変わらない。利用者の秘密は、吹聴するようなことではないのだから、軽々しく話せることではないはずだ。それもわかっていたから、俺は黙るしか手がなかった。
「それにしても」
伯母のさっきまでは暗かった声が、突然に明るい声に戻る。いやな予感がした。
「フミちゃんが他人に興味持つなんて珍しいわね。なぁに? 恋でもしちゃったのかしら?」
「はぁ!?」
さっき考えていたことが現実になった。伯母のことだ、妙な勘繰りをしかねない――まさか、それが本当に当たってしまうなんて思わなかった。
「紫村さん、美人さんだものねぇ。フミちゃんも隅に置けないんだから」
「ちょっ……勝手に話進めんなよ! そんなんじゃねえからな!」
否定の意味を込めて吐き出した言葉は、伯母にとってはただの照れ隠しとしか映らなかったらしい。いたずらっ子みたいな表情が濃くなる。
「恥ずかしがらなくてもいいわよぉ。やだもう、青春ってカ・ン・ジ! 詳しく聞かせなさい、フミちゃん」
「気持ち悪っ! 妄想も大概にしろよ、陽子さん。それに詳しくも何も、そういうんじゃないっての」
こんなことになるんなら訊くんじゃなかったと、思ってももう遅い。俺は、この後伯母に質問攻めにされるんだろうなと考え、重いため息をこぼしたのだった。
第六話のご高覧ありがとうございました!
さて、行間についての意見には応えられませんが、評価や感想などいただけると嬉しいです! 気になる点は、メンタル弱いので何とぞお手柔らかにお願いいたします。
それでは、第七話で! もうすぐ七月、その上旬までの完結を目標に掲げた以上、それに向けてがんばります!
葵枝燕でした。