5. first contact
こんにちは、葵枝燕です。
前回は「梅雨らしくない、ジメジメとした暑い日が続いております」と書いたのですが、今週はずっとどんよりとした雨模様です。そろそろ梅雨明けかと思っていたので、何だか拍子抜けしています。
さて、連載『空梅雨に咲く』、第五話です!
前話に引き続き、更新が遅くなってしまいました。お待たせしましたです。なかなか、どんなふうに進めたらいいのかが迷いどころでして……。
さて、主人公のフミちゃん、今回もまだフルネームが出ません! ほんと、出す機会がないのですよ……。名乗る機会はあるのかなって感じがしてきました。
それでは、どうぞご覧ください!
市立図書室で排架のバイトを始めて、一週間が過ぎた。その頃には、排架もスムーズにこなせるようになっていたし、伯母に言われずとも開館や閉館の準備ができるようになっていた。
その間も、俺の目は気が付くと、ずっとある一人を追いかけていた。
排架作業をしながら、伯母に言いつけられる仕事をしながら、閉館の準備をしながら――目は自然と少女の姿をとらえていた。自分でも、なぜこんなに一人の少女に引きつけられるのかわからなかった。
漆黒に艶めく長い髪も、花ヶ衣学園高等部のセーラー服も、時折髪をかきわける仕草も――その全てが美しかった。美しくて、それでいて儚かった。
目を離せないのは、少女があまりにも美しく、そしてあまりにも儚かったからなのかもしれない。目を一瞬でも離したら消えてしまうと、そう感じたからなのかもしれない。
その日も、梅雨真っ只中だというのに、相変わらずの晴天が拡がっていた。
俺は伯母に留守番を頼まれて、カウンターの内側で一人、欠伸を噛み殺していた。昼休みから戻ってきたばかりの俺に、「大事な会議があるの。ちょっと席外すわね」というたった二つの文を残して伯母が出て行って三十分ほどが経つ。伯母も忙しいのだから仕方ないと思いつつも、一介のバイトに過ぎない俺に務まるわけがないという気持ちの方が強くあった。まあ、「もしも本を借りにきた利用者がいれば、書名とラベルの番号とその本に付いた請求番号をメモしておけばいいから。あ、あと、利用者の利用カードの番号も忘れないでね」とのことだし、そもそも利用者自体そんなにいないし――正直、やることはなかったのだが。
そんな十三時半を少し過ぎた頃。午後初めての利用者がやってきた。それはあの、花ヶ衣学園高等部の制服を着た少女だった。少女は、カウンターにちらりと視線を走らせ、俺に向かって軽く頭を下げた。そして、やや足早にいつもの席――あの日当たりのいい窓際の席へと向かった。その一連の動作全てが、俺にはなぜだかとても美しいものに思えたのだった。
時間は過ぎ、あと十分ほどで退勤時間になるという頃になっても、伯母は戻ってこなかった。俺は、とりあえず閉館の準備だけはしようと、カウンターを出て窓際の席へと向かう。そこにはまだ、あの少女がいたのだ。
「あの、すみません」
そう呼びかけただけなのに、少女はビクリと身体を震わせた。そうして、おそるおそる俺の顔を見上げた。黒い前髪が少女の片目を僅かに覆っている。その瞳からは、怯えと恐怖の色が垣間見えた。
「あ……」
俺の赤い髪がよくなかったのかと思った。もしくは、単純に男性嫌いなのかもしれないとも思った。どちらにしろ、相手のことを考えずに声をかけたのは軽率だったかもしれない。
「えっと……そろそろ閉館の時間なんすけど……」
それだけ言うのがやっとだった。少女は一瞬きょとんとした顔になる。そうして、左手首にしている腕時計を見た。それで閉館の時間が迫っていることを知ったようで、慌てて立ち上がる。
「ごめんなさい」
消え入りそうに小さな声だけを残して、少女は逃げるように去っていった。そんな少女の消えたドアを見つめて俺は、ただただ自問していた。
こわがらせるような見た目なのはわかっている。そして、もしかしたら少女が人見知りなのかもしれないことも感付いていた。だとしても、だ。あんなにも怯えや恐怖をみせるものだろうか? ――どちらにしろ、もう少し慎重に行動すべきだったのかもしれなかった。
机に置かれた、分厚い一冊の本。それは、幅広い世代から人気を得ている小説家の推理小説だった。俺はそれを手に取って、ため息を一つこぼした。
それでも、初めて少女の声を聞けたことに、密かな安心感と、一歩前進したような感覚が、俺にはあったのだった。
第五話のご高覧ありがとうございました!
今回のタイトル“first contact”ですが、日本語に訳すと“最初の接触”とかそういった意味になるそうです。本当は日本語で付けたかったんですけど、どうやっても堅苦しくなりそうだったので、英語のままにしました。
さて、行間についての意見には応えられませんが、評価や感想などいただけると嬉しいです! 気になる点は、メンタル弱いので何とぞお手柔らかにお願いいたします。
それでは、第六話で! 七月上旬までの完結を目標に掲げた以上、それに向けてがんばります!
葵枝燕でした。