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1.はじまりの朝

 こんにちは、葵枝燕です。

 新連載『(から)梅雨(つゆ)()く』を、はじめます!

 このお話は、昨年、つまり二〇一六年に考えたものです。本当は、そのときに掲載するつもりだったのですが、いつの間にか全国的に梅雨明けしちゃったので、諦めてしまっていたのです。しかし、どうしてもカタチにしたいと思って、今回こうして投稿を始めることとしました。

 目標といたしましては、遅くとも二〇一七年七月上旬には完結させたいと考えています。……無理、かなぁ……? ま、やるだけやってみます!

 それでは、どうぞご覧ください!

 俺は、その建物の前に立った。(かさ)(もと)市立中央公民館――市民の色々な芸能や芸術の(たぐい)の発表の場として使われることの多い建物だ。赤茶色の煉瓦に覆われた外壁はどことなく暗く、見る者に寂れた印象を与える。

 そんな建物の前で俺は、自分でもどう形容したらいいのかわからない感情を抱えていた。言いようのないこの感情をどうすればよいのか、わからなかった。少なくとも多分、緊張はしているんだと思う。

「帰りてぇ」

 呟いてはみるが、そんなことをする度胸はない。そんなことをすれば、確実に伯母に怒られるからだ。

 目の前の建物をあらためて見上げる。頭の中で、二週間前に交わした、伯母とのやりとりを思い出していた。


『もしもし、フミちゃん? わかるかしら? (よう)()でーす!』

 朝の八時半。まだ眠気を克服できていない俺の鼓膜を、そんな明るい声が揺らした。俺は、思わず眉間に皺を寄せつつ、

「いちいち名乗らなくてもわかるっつーの。おはようございます、伯母さん」

と、とりあえず朝の挨拶をした。口をついて出る欠伸を押し隠さずに対応しているこの短い間でさえ、正直にいうと電話を切りたくてしょうがなかった。いつもなら、まだ寝ている時間なのだ。しかし、切ったところで昼頃にかけ直してくるだろうことは、よく考えなくてもすぐにわかる。それなら、面倒なことは早いうちに済ませてしまえと感じるのだ。何だかんだで、伯母に逆らえない部分があることは認めなければならない。

『あらやだ、フミちゃん。“おばさん”じゃないでしょう? “陽子さん”って呼んでちょうだい』

「俺からみたら、いろんな意味で“おばさん”だろーが」

 彼女の名は、()()(よう)()。俺の親父の姉であり、正真正銘俺の伯母にあたる人だ。年齢は、現在四十九歳。十九歳の俺からしたらそれは、おばさん、という年齢にしか思えない。最もそう呼ばれる本人は、その呼び方が気に食わないらしいのだが。

『“おばさん”って、いっきに老けた感じがしちゃうのよね-。だからフミちゃん、“陽子さん”って呼びなさい』

 あ、“呼んでちょうだい”が“呼びなさい”になった。強制度が少し上がったな……。とはいえ、この手の会話は、今までに何度もやっていることなので、俺は長年の経験から素直に、

「はいはい、わかりましたよ。それで、陽子さん」

と、早々に呼び方をあらためる。

「用件は何すか?」

『うふふふふ……驚かないでね?』

 電話口から、気持ち悪い笑いがこぼれてくる。こういうときの伯母の笑いは、何かよからぬことを企んでいる場合が多い。いやな予感が、背筋を走るのを感じた。

『フミちゃん、今暇よね? 進学もしてないし、就職もしてないし、アルバイトをしているわけでもないわよね?』

「他人に言われると、俺、すげーろくでもないやつみたいに聞こえるな」

 ま、事実なので否定しないが。高校を卒業して一年、俺は何をするでもなく日々を自堕落に生きていた。焦りはあるが、何もしたくない気持ちの方が強いのだ。

『そこでね、優しい陽子さんは考えたわけですよ』

 電話の向こうで、伯母がいたずらっぽく微笑んだのを感じる。

『フミちゃん、市立図書室で働きなさい』

 そんな声が、先ほどまでと変わらない明るい声音でこぼれてきた。


 あれから二週間経って、現在。俺はこうして、市立中央公民館の前に立っている。回れ右したくなる自分を、なんとか抑えていた。

 今この瞬間になって、本当に今さらでしかないのだが、後悔している自分がいた。伯母は『働くっていってもアルバイトよ』とか気楽に言っていたが、俺は生まれてこの方アルバイトをしたことがない。だからこその不安、だからこその後悔だ。断ればよかったと、そんな思いが顔を出す。

 それでも、伯母の誘いを断らなかったのは、多分――自分で考えている以上に“本が好き”だから、なのかもしれない。ま、伯母の言葉に逆らえない、というのもあることにはあるのだが。

 とにかく、ここまで来たら行くしかない。立ち止まって迷っていたって仕方ないのだ。

 息を吸う。深く深く、身体中を満たすくらいに吸い込んでみる。

「……よし」

 空を見上げた。梅雨入りが発表されて二日が経ったが、綺麗で曇りのない青空がそこにはあった。今年のこの地方の梅雨は空梅雨になるらしいと、テレビのニュースで言っていたような気がするのを思い出した。

 そうして俺は、緊張と不安と後悔と、(わず)かな気の高ぶりを身の内に抱えて、笠元市立中央公民館の中に向けて歩き出したのだった。

 第一話のご高覧ありがとうございました!

 行間についての意見には応えられませんが、感想などいただけると嬉しいです! 気になる点は、何とぞお手柔らかにお願いいたします。

 それでは、第二話で! 早く掲載できるように、がんばります!

 葵枝燕でした。

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