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銃火を捧ぐもの  作者: 怠然自虐
6/6

6話 トーマ先生の魔法教室 前編

 遅くなってすいません。今日の分の二回目です。次回は明日となりますが投稿時間は未定です。今回は説明回に近いです。二話構成になっておりますので次回で一応魔法に関する説明は終わります。


・雑な粗筋のようなもの

冬馬、少女クリスタを助ける→クリスタを鍛えることにする


 あれから数時間後、俺達は洞窟前の岩場に来ていた。

 割と広くて見通しも悪くない。いうほど岩も多くないから訓練とか休憩には良いんだよ。


 ん? サイゾウはお昼寝中だ。

 基本夜型らしいからな、無理もない。


 そういうわけで、俺はクリスタと一対一で向き合って座っている。

 なんというか、純粋な視線がとても痛い。



 思い切って異世界から来たこと、ウィンドウという(サイゾウ曰く)特別な能力を持っていること、一通り俺の事情を話したのだが、彼女は怖がるどころかむしろ目を輝かせた。


 ポイント次第でなんでも―———スキルすら手に入るというのは、もはや化け物じみた力だと俺自身思う。

 けれどクリスタに言わせれば


『すごいですっ』


 の一言で済んでしまった。

 この力を理解し切れていない、というよりは分かった上で俺に全幅の信頼を置いているように思える。



 やはり、“放浪者”と思われているのだろうかと考えないでもない。


 誤解されるのは好きではない。



 だが、朝の一件以来そういう思考に至っても苛立つことはなくなった。

 ま、ちょっとした進歩というやつなのだろう。



「どうかしました?」



 気がつくと、クリスタが小首を傾げて愛らしくこちらを見ていた。

 黄金色の耳と尻尾が意味もなく眩しい。ぱたぱたと尻尾を振る姿は万金に値するだろう。


 なんというか妹でもできたかのような感じだ。



「いや、なんでもない。ちょっと考え事をな」

「考え事ですか……?」

「気にするな」

「はいっ」



 なんとなくクリスタの喋り方が若干幼い感じになっている気がする……。

 いや、むしろこっちが素かね。それだけリラックスできているなら嬉しいことだが。



「さて、さっそく今日から訓練を開始していく」

「先生、質問です!」

「先生ぇ!?」



 いかんいかん、想定外なクリスタの発言に俺の思考回路がショートしかけた。


 まかりまちがっても俺は十代の少女に先生呼ばわりされて喜ぶ趣味の持ち主ではない。ないったらない。



「えっと、だめですか?」

「うぇ!? あ、いや質問は良いんだが先生はやめてくれ。なんというか気恥ずかしい」

「それじゃ師匠、とか?」

「普通に名前を呼んでくれれば……」



 俺の台詞を受けてクリスタは困った顔で呼び捨ては失礼だとかどうとか呟いている。あれかね、アニマ族ってのは上下関係に厳しいのだろうか。


 しばらくクリスタは悩んでいたようだが、「トーマ先生」とのたまった。もういいよそれで、俺は諦めた。



「……んで、なにを聞きたい?」

「はい、訓練の前に私のスキルを言った方がいいかと思ったんですが」

「お、いい目の付けどころだ」



 そう言いながら俺はクリスタにウインク……は気持ち悪いだろうからサムズアップを返す。


 ……ごめん、不思議そうな顔しないで。

 そうだよな、ジェスチャーが異世界間で共通するわけないわな。



「あー……。とにかく、互いの情報を共有することは重要だな」

「そ、そうですよね!」

「複数人でのパーティーを組んでの戦闘では連携も必要になるし、クリスタの出来ることが分かれば俺も具体的に何を教えることが出来るからな」

「はい!」



 サイゾウの受け売りを垂れ流しながら俺は地面にガリガリと自分のスキルを刻んでいく。素晴らしきかなは【翻訳】スキルだ。文法も文字も分からないのに、クリスタに伝えようと思うだけでどう書けば良いのかが分かる。


 気持ち悪くないのかって? そんなピュアな心は一年間も非常識の中にいれば失われるんだよ。




【弓術3】【剣術3】【体術4】【投擲術2】【索敵4】【隠伏3】【斥候3】【解体3】

【暗視】【状態異常耐性】【気功】【鑑定】【翻訳】

【火魔術】【水魔術】【風魔術】【土魔術】


 これは俺がウィンドウでステータスを確認した時と全く同じだ。

 経験則から言うと一列目は習熟度のあるスキル、二列目は特殊スキル、三列目は魔法系統という感じだな。



「俺のスキルはこんな感じだな」

「ふぇぇ、すごいですね」

「なにがだ?」

「量もすごいですけど、聞いたことないのも結構……」



 ほう、サイゾウ以外に客観的評価を下せるのがいなかったから貴重な意見だな。



「ちなみに、どれだ?」

「えっと、初めて見るのですよね。斥候とか状態異常耐性? それに気功、鑑定、翻訳も知りませんでした」

「なるほど……」



 気功はオリジナルだし、斥候はサイゾウから教えてもらったからな。他のもたぶんショップで買ったからかね。


 ふむ、クリスタの指摘したスキルは二列目のが多いな。この列はレアなのか?

 今後要検証だな。



「気功と斥候は教えるよ。特に斥候は隠伏とか索敵と組み合わせると効果的だからな」

「あっ、索敵と隠伏は持ってます。父に必要だから覚えておけって……っ!」



 言いかけて、クリスタは息を詰まらせた。


 ついつい失念しかけるが、彼女は家族を失ったばかりなのだ。思うことがないわけがない。

 俯いてしまった顔は窺えないが、震える両手と伏せた狐耳を見れば分かることもある。



「少し、外そうか?」

「……いえ、大丈夫です」



 そう言うと、クリスタは手頃な石を取って俺と同様に地面に何かを書き込んでいく。

 強い娘だと思う。俺には真似ができないかもしれん。



【弓術2】【剣術1】【投擲術1】【索敵2】【隠伏2】

【狐の犀利】【タニス語】【共通語】

【火精霊魔法】


「これが、私の持っているスキルです」



 こちらを見るクリスタの瞳は微かに潤んでいたが、俺はそれをあえて思考の外に追いやって書かれた文字列を目で追った。



「ふむ……」



 全体的に習熟度は低め、なのか?

 いや、年齢を考慮すればむしろ高い方なんだろうな、たぶん。

 ……うん、俺自身が非常識の塊のような人間だからよく分からん。


 それはともかく―———、



「この狐の犀利ってのは……?」

「あ、えっと種族特性のようなものです。私は狐のアニマなので」

「ふぅん、効果は分かるか?」

「すみません、分かりません……」


 いいから! 分からなくてもいいからしょんぼりしないの!



「あ! でも、スキルの習得に関連するんじゃないかって聞いたことがあります!」

「おおう……」


 思い出して嬉しいのか尻尾がぱたり、ぱたりと左右に振られている。

 ……もふりたいな。



「どうかしましたか?」

「あ、いや、なんでもない」


 いかんいかん、気をしっかり持たねば。



 ふむ、それにしてもスキル習得に効果がある、ねえ。それが本当なら面白そうだが、詳しい条件が分からないと何とも言えんな。ま、いったん保留か。




「よし、だいたい方向性は決まったな」

「ほんとですか?」

「おう。とりあえず弓術と剣術を延ばしていこう、あと気功も。その他の習熟度があるスキルは実践しながら鍛えていく」

「はいっ!」

「それから、魔法については俺とサイゾウの二人で教えることになるだろう」

「ふぇ? でも……」



 そこで、はじめてクリスタが疑惑を顔に出した。


 それもそうだろう。クリスタの使う精霊魔法と俺の魔術は根本的に違う技術だと思われてるらしいからな。俺がどうやって魔法を教えるのか疑問にも思うだろう。

 だがしかし、そこに落とし穴があるのだよ。



「まぁ任せとけ、悪いようにはしないから」

「はいっ!」



 うん、良い笑顔だ。


 さぁ、まずは魔法の授業だ。体を動かすのはまだしばらくは無理だからな。クリスタの体調が万全になるまでは座学の方がいいだろう。



「おし、少し付いてきてくれ準備しよう」

「?」



 そうと決まれば教材の準備だ。

 俺はクリスタを連れて洞窟住居の中に入っていった。






◇◆◇◇◆◇






 昼休憩を挟んで一時間後、俺達は元の場所に戻ってきていた。

 


「さて、クリスタ」

「はい」

「突然で悪いが魔法と魔術の違いは分かるか?」

「はい?」



 ……痛いものを見る目は止めてくれ。真面目な質問だぞ?


「魔術の方が遅かったり魔法陣がいるとか……。でも違いも何も、共通するところがあるんですか?」


 ふむ、やっぱりそれが一般常識になってるのか。



「それじゃあ聞き方をかえよう。魔法とはなんだ?」

「精霊魔法、ってことですよね」

「そうだ」

「精霊にお願いして奇跡を起こす、って私は習いました」

「それじゃあ、その“お願い”の部分、具体的にどうやっているか分かるかい」



 クリスタの目が驚愕に見開かれる。


 まあ常識ってのはある種の固定観念だからな、改めて試みることも少ないものだ。クリスタも考えても見なかった質問だろうな。



「種明かしをすると、魔法において術者は精霊と繋がっているんだ」



 俺はサイゾウとの議論の結果による仮説だが、と前置きして説明を続ける。


 自分の魔力をパスにして周囲の精霊につながる、それが精霊魔術の骨子だ。その結果、術者のイメージという文脈に従って精霊がクリスタの言う“奇跡”を引き起こす。

 つまり、魔法において精霊とは媒体なのである。



「ちょっと待ってください! それじゃあ……!!」

「そうだな。精霊魔法の強弱は術者のイメージに本質的に依存するだろう」



 もちろん、精霊とのパスを構築する魔力が切れたら意味がないからイメージだけというわけではないが。



「ここで、最初の質問に戻るわけだ。魔法と魔術の違い、どうだクリスタ何か分かるか?」

「もしかして、魔術は精霊を介さずに奇跡を起こしている……?」

「そうだ。よく分かったな!」



 そう、それが正解だ。

 魔法で本来精霊が行っている作業をも自前の魔力によって行うのが魔術だ。だからこそ魔術は魔法よりも遅いし魔法陣だって必要なのだ。



「先生、つまり魔法陣は精霊の代わりなんですね! それに遅さの原因も!」

「またまた大正解」



 時折見せる間の読み方でそうかとは思っていたが、やはりクリスタは賢い。たぶん一を聞いて十を知るタイプだな。俺には真似できん。



「あれ? でも、どうやって魔法陣で精霊の代わりをしてるんですか?」

「いい着眼点だ。そしてそれこそが魔法と魔術の共通項でもある」

「ふぇ……!?」


 優秀な新しい妹……、いや弟子に思わず笑みを零しながら俺はクリスタの頭を撫でた。ちょっとばかり顔が赤くなった気がするが、役得ということにしておこう。



「俺とサイゾウも同じ疑問に着目して、かなりの検証実験を行った」



 あの時のことは忘れようがない。知識欲の権化みたいなサイゾウの鬼気迫る脅は……説得に従って毎晩毎晩夜更けまで実験を繰り返したんだ。


 その結果、ある存在を仮定することで全ての疑問は氷解したのだ。



「ある存在?」

「うん。そいつを俺達は“エーテル”と呼んでいる」

「エーテル……?」

「そうだ。世界のあらゆるところに存在しているエネルギーや情報体のようなものだと考えてくれ」



 クリスタの目が点になっているので更に詳しく説明してみようか。


 エーテルを目に見えない水や空気のような存在であると考えれば分かりやすいかもしれないな。そいつが色んな形になって生き物や物体を形作っているのだ。エーテルが無いものは有り得ない、全ての存在はエーテルと不可分に結びついている。


 そして同時に、エーテルは情報の塊でもある。エーテルにはログやコードに該当するような情報が組み込まれており、それに従ってそれぞれの形を成している。



「そうだな、それぞれのエーテルの中には各々の設計図が入っていると思ったら良い」

「う〜〜、頭が沸騰しそうです……」

「いや、むしろよく付いてきてる。だが、そうだな。もし分からなくなったら適時質問してくれ」

「はい。……あれ? でもそれだけじゃ魔法陣の説明にはなってないんじゃ?」



 おお、そうそう説明が途中になってしまった。



「シンプルに言うとだな。魔法陣、引いては精霊が行っているのはエーテルの“設計図”の改変だ」

「設計図の改変?」

「そうだ。エーテルの状態を決めるのが設計図なのだから、設計図を変えればその形や動きを変えられるだろう?」



 そして、それこそが魔法や魔術の要諦でもあるのだ。



「大発見、……って言葉で済ませて良いんでしょうか?」

「あはは、まあね。欲深い奴が知ったら色々とまずいから、絶対に漏らさないように」

「うぅ、責任重大です……。それに、まだまだ続くんですよね?」

「まあね。でもま、とりあえず休憩にしようか?」

「……お願いします」



 文字通りバタンキューしたクリスタを横目に俺は意地悪げな笑みを浮かべた。

 目の前の可愛らしい弟子が今日一日で何度の驚きと興奮の表情が見れるのか、と考えるとちょっとばかり楽しくなってくるのは致し方ないと思うだろう?



 そんなわけで今回は魔法と魔術の違いについて話しました。この辺りは割とこの世界の根幹に関わる話なので気を使いました。次回はいよいよ冬馬の特殊な魔術の使い方について言及していきます。冬馬の魔法のチートさと、同時に彼の抱えてしまった制約とは……。次回『トーマ先生の魔法教室 後編』をお楽しみに

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