3話 語らい
みなさまどうも一日ぶりです。三箇日はいかがおすごしですか? 作者はTVの前でおせちを摘んでおります。じつに美味しゅうございます。あとは自家製の梅酒も飲んでおります。じつに旨えでございます。
・雑な粗筋のようなもの
冬馬、異世界にいく→湖で狐少女を拾う→少女クリスタのお悩み相談
そんな訳で第3話でございますが、すこしばかり予定を変えて0時に予約投稿しました。とりあえず今日と明日は0時と12時の二回に分けて二話ずつ投稿予定です。
それではごゆるりとお楽しみください。
ホゥ
洞窟を出てすぐの岩場の上に、俺は胡座を掻いて座っていた。日は完全に落ち【暗視】スキルが無ければ一間先も見通せない暗さだ。疲れきったクリスタも今はベッドで眠っているだろう。
ホゥ
俺の肩の上に止まっているのはフクロウだ。【鑑定】によると“ウラルオウル”というらしい。元の世界のフクロウよりもデカくて強いけどな。
この森に住み始めた頃に餌をやっていたら仲良くなった変わり者で、いまのところ唯一の友達だ。どうして俺に懐いてくれているのかは分からんが、感謝している。
ちなみに、名前はサイゾウ。俺が勝手に名付けた。
「気持ちいいのか?」
片手で撫でてやると、心地良さそうに目を細めて頭を押しつけてくる。むぅ、愛いやつめ。
フクロウってのは撫でられても喜ばんと聞いていたがデマなのか、それともこいつが特別なのか? たぶん後者だろうな。人の飯だの酒だの奪って平気な顔してるし、むしろこっちの世界のフクロウはこれがデフォルトなのかね?
「それにしても、まいったな……」
思ったよりも、クリスタの話は重かった。というか、同情してしまった。
彼女はエクランの森の南方、小アルバル山脈を越えた先にあるメンカルトゥールの森(アニマ族はオーストレームの森と呼ぶらしい)からやってきたそうだ。
その森には五つほどの集落に別れてアニマ族が暮らしていたそうだ。クリスタが住んでいた西ノ一庄は一番外界に近い集落だったそうだ。
ところで、いま俺達がいるガウル王国には奴隷制度がある、らしい。クリスタから聞いたかぎりでは。こっちに来て一年、全く予想しなかったと言えば嘘になるが、やっぱりカルチャーショックを感じるな。
とはいえ、制度上は悲惨なものでもない。犯罪奴隷でもなければ最低限の衣食住は保証されるし持ち主にも法的責任がある。それに、財産としての扱いだから全うな生活を受ける者がほとんどだ。制度上は、な。
その例外がアニマ族やドヴェルグ族、アルヴ族、小人族といった人族以外の人種だ。彼らの多くはヒトではなくペットとして扱われ、本当に“生きるだけ”という生活を強いられる。胸くそが悪くなる話だ。だが、アニマ族の種族はほとんど人里に現れないし、独自の大きな共同体を形成しているので滅多なことでは手を出せない。だから、アニマ族が狙われた。
人族についで数が多く、小さな共同体ごとに別れて住んでいて、ドヴェルグのように高い技術があるわけでもなく、アルヴのように魔法に抜きん出ているわけでもなく、小人族のように隠れるのが上手いわけでもない。人間にとってはちょうど良い玩具だったわけだ。
そうして、クリスタの住んでいたメンカルトゥールの森は奴隷狩りに襲われた。その時、最初に狙われたのが西ノ一庄だったそうだ。住処は焼かれ、戦士と老人は殺され、女は犯され、子供は連れ去られた。肩を震わせるクリスタに、俺はかける言葉が見つからなかった。
クリスタは両親に逃がされたそうだ。その時、父親は東都リオンにいる知り合いを頼れと
言われたらしい。たぶん、同じ森の他の集落に行っても遅かれ早かれ危ういと感じたのだろう。
問題はその後だった。たぶん、父親はリオンまで人の目を盗んで街道を行けと言ったのだろうが、クリスタはリオンが北にあることしか知らなかった。
クリスタはひたすらに北へ歩いた。メンカルトゥールの森にいる間は弓と魔法で食料が採れたし、水場も分かった。だが小アルバル山脈に突き当たるとそうもいかない。山の歩き方は知っていたが、向こう側に渡れるかはほとんど運であった。それでもクリスタはまっすぐ歩いた。
弓は折れ、服は破れ、ただ意思の力で前に進んだ。打算も希望も無い、そうするしかないという不公平な賭けだった。けれど、クリスタは賭けに勝った。山を越え、エクランの森に入った。
だが、それまでだった。水も尽き、この凶悪な森の魔獣はクリスタの手に余ったのだ。
ただ、逃げるようにして北へ北へと進んだ。恐怖と後悔、いいしれようもない絶望の中で、それでもクリスタの心は折れなかった。
そうして一昼夜以上も行ったところで、突然湖に出た。驚喜したクリスタは水際に近寄ろうとして……、そこで気を失った。
そこに現れたのが、俺だったのだ。
いまや俺は、彼女に残された最後の希望だ。当然のことだが頼られてしまった。
彼女の望みはただ一つ、『リオンでイェリンという名の女性冒険者に会うこと』だった。まぁ、仕方もあるまい。十歳の身空でどうやって生きれば良いのかすら分かるまいし、唯一の知り合いに賭けるのが道理だ。会ったばかりの男に頼まないだけ偉いものだろう。
『悩んでおるのか主?』
「まぁな」
『優しいものだの』
声を掛けてくれたのはサイゾウだ。
別に驚くことはない、いつものことだ。
……いや実のところは、ホウホウとしか喋らないこいつと会話できるのは【翻訳】スキルのおかげだ。このスキルはある程度の知性があれば種族の壁を越えて会話できる。まあこれだけ話が分かる鳥なんぞこいつぐらいのものだろう。……たぶんな。
いやまあ、駄目元で【翻訳】スキルを購入してまで誰かと会話したがった俺も大概な変人かもしれんが。
『それで、あのおなごに手を貸すのか?』
「クリスタ、な」
『話を逸らすでない』
「……むぅ、どうしようかねえ」
そうなのだ。現状、クリスタの願いを聞き入れるには最低限森から出る力を彼女も身につける必要がある。
俺一人でも生き抜くので精一杯なのだ。そのためには俺が養い、戦い方を教えるしかない。時間も相応に掛かるだろう。
『しかし、クリスタ嬢とやらは了承……、というか、むしろ懇願しておったであろうに』
「……どこからどこまで聞いてやがんだ」
『最初から最後までだの。場所のことなら、主の言う通風口から、だの』
「デバガメかよ。みっともない真似するなぁ」
『ホウ。そんなことを言っていいのかの? 全部見たのだぞ? 主が嬢の服を脱がす所も、顔を赤ら……』
「余計なことを言わんでいいっ!!」
減らず口を塞ごうとしたら逃げられた。くそっ、付かず離れずの距離から勝ち誇った顔で見てやがる。腹が立つな。
というか洞窟に連れ帰ったとこから居たのか。なら手伝えよ、少し以上に魔法が仕えるくせに!
『それとも面倒か?』
「……まぁ、断じて楽ではないな」
『そうだろうの。主の方が負担も多かろう』
それも、事実だ。
リオンとやらまで行くにはマップの拡張機能が必要だろうし、俺自身もかなり鍛える必要がある。それに他種族を奴隷にするような国をアニマ族であるクリスタを連れて歩くのはトラブルの種にしかならないだろう。他の種族の皆さんはどうしてんのかね?
「でもな、別に面倒な訳じゃないんだ」
『ホゥ』
「単純に、とりわけ子供が困ってたらさ、助けたいと思うほどの感性はあるんだよ」
『主も見た目子供のくせによく言うの』
「茶々を入れるな、茶々を」
『本音は?』
「……可愛い女の子に良いかっこつけたい気持ちもあることは認めよう」
悪かったな。俺だって男なんだよ。
「それに俺だって森の外を旅してみたいし、クリスタの境遇に同情してる部分もある。色んな話も聞けるだろうし、何かしら得る所もあるだろう。総合的に見れば俺にとっては悪いばかりのことじゃない」
『話相手ならここにもおるだろうに』
「お前の場合は意図的に色々隠してるだろうが。森の外のこととか、周りの地形とか!」
『そりゃ修行にならんからだ。主は色々と面白い人だが、相応の実力を持たずに外に出ればいいカモにしかならんの』
「ぐっ……!」
『それに魔法の使い方やら水場の場所やら教えてやっただろう?』
「ぐぐっ……!! ま、魔法は独自に改良したし、代わりに気功を教えたろうが!」
『それはそれだの。というか、そこまで言うならクリスタ嬢に手を貸せばいいだろうに』
けっ、話を変えやがった。俺を心配してくれてるのは分かってるんだが、このフクロウの場合は妙に師匠面しようとするきらいがあって困る。
……まあいい。問題なのはクリスタに戦いを教えることだ。この森で生き残るレベルの戦い方を教えるためには少なからず俺のことを明かす必要がある。ウィンドウや元の世界で得た知識なしには独自の戦闘法を説明できないのだ。
それに、たとえ一時的にでも一緒に生活するなるならば、あまり隠し事などしたくはない。腹を割って気のおけない程度には仲良くなりたいのだ。
『ふうむ。それではリスクが高いというのかの?』
「いや、リスクは気にしていない」
『ホウ』
「お前が言うリスクってのは、俺の情報が拡散するってことだろ?」
そう、誰かに何かを話するという行為は、それだけで情報漏洩の可能性を秘めているのだ。もちろん、話し相手の信用云々の問題ではない。そりゃあもちろん信用できる相手にこしたことはない。が、それには関係なく漏洩は防ぎきれないのだ。
盗み聞きのような直接的な危険や脅迫や拷問が相手に襲いかかる可能性、あるいは、知るという行為自体が他人の行動を変化させる以上、類推や推理を重ねて誰かが何かを察してしまうことも考えられる。誰かが知る、それがすでに情報漏洩の危険性を拡大させる要因なのだ。
『まあの。保証するが、私の知る限りでも主は十分異常だよ。貪欲な人族に知られれば良くて監禁か討伐、悪いと生きたまま解剖されるんではないかの』
「異常って……。他に言い方は無いのか」
『あいにく正直がモットーでの』
「そうかい。まぁとにかく、それを恐れてたら誰とも関われないだろう? どうせここを出る頃にはそれなりの実力はついてるだろうからなんとかするさ。それで駄目なら仕方ない、自己責任だよ」
『主らしい考え方だの。ふむ、しかしそうすると……。ホゥ、ははん、なるほど』
なんだか嫌な笑顔だな、おい。
「なんだよ……」
『さては、信じてもらえない、あるいは怖がられるのを恐れておるな?』
うぬぅぅぅううう。図星をつかれた。翼を広げて戯けてるあたりが腹立たしい。バカみたい鋭いフクロウは焼き鳥にして食っちまうぞ。
というか、そりゃそうだろうが。信じてもらえず痛い目で見られるくらいなら(それだけでも心が折れる自信があるが)耐えられるだろうが、女の子に怖がられた日には俺は自決するかもしれん。こちとらM属性なんぞもってないんだ。
……イテッ! 一人で落ち込んでいたらサイゾウに乗られた。頭の上は無いだろう、お前重いんだから首の骨が痛くなるんだぞ。
あ、こっち睨まないで。妙に怖いから。
『不躾な思念をキャッチしたが……』
「イエイエ」
『……まあよいか。それはともかく、大丈夫ではないかの』
「どして?」
頭上で得意げに胸を張るサイゾウの言葉に、俺は当惑した。
普通に考えて俺の実情ってエイリアンとか幽霊並みの話じゃないか? 信じる人の方がマイノリティで一般的には有り得ない与太話程度の認識になるだろう。
……いや、ひょっとしたらもっと酷い、のか?
『そうさな。どうしてクリスタ嬢が主をあれほど信頼したか分かるかの?』
「ああ、それは俺も気になってたんだ」
ごく最近に人間の奴隷狩りを体験し家族や仲間を失った少女が、会ったばかりの俺、というか誰も住まない(らしい)エクランの森で洞窟暮らしをしている怪しさ満点の人間を信頼して希望を託したのか。
普通に考えれば博打とかそう言うレベルじゃない気がする。
『あれはの、理由が二つだ』
「ほう」
『一つは主が“アニマ族”という呼称を使ったこと』
「ほう?」
『もう一つは【翻訳】スキルのおかげで主がアニマ族の言葉を喋ったことだの』
「ホウ??」
『……バカにしとるのか?』
「そんな訳ないじゃないじゃないですかー、やだー」
『ん? なにかおかしい気が……』
フクロウらしく可愛らしく首を傾げているサイゾウ先生によると、人間は他の種族を亜人、アニマ族をとりわけ獣人と呼んで差別しているらしい。言われてる側からしたら“人”とは違う種族に対して獣or亜“人”などと呼ぶ時点で上から目線+押しつけくさいのだそうな。
さらに、アニマ族に限った話ではないが種族の固有言語は部外秘なのだ。奴隷という手段があるため全く知られていない訳ではないが、人間にとって読み書きはともかく会話は絶望的、どう頑張ってもネイティブスピーカーばりに喋ることは不可能らしい。
「それを俺が喋れていた、と」
『端から見れば、主は完璧にアニマ語を喋れておったの』
「おうふ。でもそれだけじゃ信頼には……」
『それがの、歴史上には全ての言語に通ずる例外が何人かおるのだ』
「?」
『導き手と呼ばれるソール殿やアニマ族のために命を落したジン殿が知られておったの。彼らは皆旅を好んだので“放浪者”と呼ばれたが、どの種族にも友好的なうえ幾度も手を貸しておる。彼らにとって“放浪者”というだけで尊敬する存在なのだ』
「へ? それじゃ俺はそういう偉人と同一視されてるのか!?」
『そこまでは分からんが、こんな所で住んどるあたり主も似たようなものに見えるだろうの』
それは困るぞ。歴史に残るような偉い人間と一緒にされても俺はしがないひ弱な日本人に過ぎないんだ。大したことが出来るとは思えない。
そりゃあ自分の腕の届く範囲でなら助けてやりたいとは思うが、過剰な期待は重すぎる。
あまりのことに頭を抱えようとした途端、サイゾウが離れた。俺の周りを飛んで、今度は目の前に音も無く止まった。
『まあ、そう悩まなくても良いだろうの』
「……なんでだよ」
『“放浪者”云々はあくまで可能性だし、もしそうでも、それは切っ掛けに過ぎんの』
「切っ掛けねえ……」
『別にクリスタ嬢は過分な期待をしているわけではないの。アニマ族を助けろなどと言わんのが良い証左だ。第一、アニマ族は自立心が強いしの』
「……そう言われりゃ、そうか」
『よって、与えられた信頼をどうするかは主次第。主は主らしく振る舞えば、それ相応に相手も理解する。“放浪者”に悪いと思うならせいぜい気張れば良いだけだの』
「むぅ」
サイゾウの言うことに一理ありか。俺がどうこうと思案することじゃない気がするといえばその通りだ。むしろそういう認識があるならば、クリスタが俺のことを知った所で気持ち悪がったりはしないかもしらんな。
ありもしない顎髭を撫でながら考えていると、サイゾウがてこてことこちらに近づいてきた。
『まぁ、何を言いたいかというとだの』
「?」
『恐れずとも、主ならば大丈夫だの。心配するな』
……そんなつぶらな瞳をしてこっちを見るな、ツンデレ鳥め。
いつになく饒舌だと思ったら心配してたのか、このやろう。妙に恥ずかしいぞこのやろう。優しいのはお前だ、ばかやろう。こちとらこの世界に来てからホームシックを経て涙もろいんだぞ。
よし、恥ずかしさのお裾分けだ。撫でまわしてやる!
「ふふふふふ、そういうこと言うサイゾウはこうしてやる」
『ちょ、な、意味が分からんの! にじり寄るな気持ち悪い!!』
「ふはは、逃げようとも無駄、むだっ……「ガアァァァアアアアアッッ!!!!」
俺から逃げようとサイゾウが翼を広げた瞬間、その鳴き声は聞こえた。特徴的な嗄れ声の騒音は、間違えようもない魔獣の叫び声。それもこの森でもかなり危険度が高い爪熊のものだ。
『まずいっ! あの声はかなり興奮しておるぞ!』
「……おいおい! こっちに来るぞ!?」
【索敵4】スキルが無情な事実を俺に告げてくる。どうやら、今夜は本当に長い夜になりそうだ。
というわけで、人外の友人ことサイゾウさんの登場でした。一応冬馬くんの師匠っぽい立ち位置ですが本人も色々と思惑があります。はてさてそれがいつ明かされるのか?
あと、どうでもいいですがサイゾウの性別を冬馬は知りません。本当に適当に名付けております。作者も知りません。というのもいまのところ彼or彼女の設定は性別が必要でないものでして。
……どうしましょう?
てなわけで、みなさん(いるのか?)のアンケートを募集します。どのみちサイゾウがメインになるストーリーはかなり先ですので、とりあえず無期限で男か女、どちらが良いかお教えください。結果次第で多少の脇道ストーリーをプロットに追加いたします。
てなわけで……
・次回予告のようなもの
突如、闇夜を切り裂いて現れた爪熊。傷だらけとはいえエクランの森の凶悪な魔獣。ろくな準備もできない冬馬は退けることができるのか!?
次回『夜襲』をお楽しみに!




