2話 少女クリスタ
本日投稿の二作目です。次回は明日早朝になるかと思います。
どうでもいいことですが、作者は獣人さんが好きです。ムッキムキの獣人さんも好きですが、可愛い獣人さんはもーっと好きです。……それだけです。
それと前話で言い忘れていたのですが、私あんまり詳しい操作とかが分かっておりませんで投稿上のミスですとかご意見などございましたら、ドシドシご教授くださいませ。よろしくお願いします。
湖から俺の足で10分ほど北に走ったところに“我が家”はある。といっても見た目ただの洞窟だが。
切り立った崖の岩に隠れるようにして小さな横穴がある。【索敵4】で周りに気をつけながら俺はその横穴に滑り込むと、速やかに【土魔術】を使う。すると、先ほどまでただの岩壁だった場所がするりと崩れて広い洞窟に繋がった。
洞窟内部は奥に広がった一部屋限りだが、たぶん50畳近くはあるんじゃないかな。十分な広さだろ? 一年間でコツコツと集めた内装もあるから割と快適なんだよ。
ベッドを頭に、料理道具や道具箱、天井の電球、我慢できずに買った個人向け水耕栽培キット、それから着替えの類いはショップのおかげだ。あと発電機と蓄電器もだな、動力は魔法だ。あとは【木工2】スキルで作った食器とか作業台とか。ポイントは節約しなきゃいけないからな。
「……んんっ」
「おっとっと」
背中の少女、クリスタが微かに動いた。さっきから少し熱があるようだし早いとこ寝かせないとまずい。
俺は同じ要領で洞窟の入口を隠すと、部屋の中央にある作業台の上にクリスタをそっと横にした。
クリスタの顔はかなり紅潮している。疲労からくる風邪の類いか、ひょっとするともっと悪い病気だろうか。さてどうしたものか。
いや、実際のところ悩むまでもないのだ。俺はいままで【気功】と魔術系のスキルを組み合わせて自分の治療をしてきたからな。どこまでできるか分からんが、やるだけのことはやってみよう。
俺は気持ちを落ち着けてから、苦悶の表情を浮かべる少女の傍に腰を降ろした。目を閉じ、三つの丹田に蓄えられた気に集中する。これからするのは大雑把な制御では駄目だ。
……よし、掴んだ。実感と同時に気を経絡に流して両手の先まで循環させる。そうして集めた気をゆっくりとクリスタの体の上に翳し、じわじわと染み入らせる。こうすることで体内部の気血の流れ、内臓の状態、異常の有無などが感覚的に分かるのだ。CT要らずで便利だろ?
ふむふむ、特に大きな問題は無さそうだ。極度の疲労と栄養不足、脱水症状ってとこか。とりあえず水魔法と土魔法をうまく組み合わせて体内の血液や内臓を慎重に操作、血液中に栄養と水分を補填しながら代謝を強制促進する。魔法ならではの力技だな。
細かい制御のためにガリガリと集中力が削られていく。……これでとりあえずは大丈夫だろう。疲れた。こんど治癒魔法の購入を真剣に考えようかな。でもあれ高いんだよ、200.000Pもするんだぞ? 一年間貯めたのがほとんどパーになるんだよな。
益体もないことを考えながら今度は細かい怪我の治療だ。ふむ、あちこち服も破れてるし一度脱がせるしかないか。
……いやいやいや、まずいだろ常識的に考えて。
しかし破傷風なんぞになると真剣にまずいぞ。
ええい、ままよ。俺が邪な考えを持つのが悪いんだ。
これは医療行為、これは医療行為、これは医療行為。……よし! いくぞ!!
「……っ!!」
おおう、これはまた……。
えらく、痩せてるな。肋が浮き出るほどになるまで一体何があったんだか。失礼ながら胸は(元の世界の)平均以上はあるようだから元からこうって訳じゃないな。たぶん短期間でこうなったんだろう。……遣る瀬ない。
……ていうか、ブラジャーしてないのか。この世界では存在しないのかね?
まあいい、今は治療だ。あー、顔が熱い。
複雑な思いを横に、俺は一通りクリスタの体を見渡した。幸い、軽い打撲や小さな切り傷、それに治りかけの細かい傷があちこちに見受けられるだけのようだ。片っ端から治療していこう。
打撲や治りかけには代謝促進、切り傷は水魔法で生成した真水で細菌と汚れを落してからやっぱり代謝促進。これで傷跡も残らんだろう。女の子だからな、サービスだ。
む、少し臭うな。こればかりは代謝促進治療の弊害だ、汗とか垢が一気に出るんだよ。
このままはまずい、デリカシーのない男になる。ついでに火魔法と水魔法の混合で適温の湯を大鍋に張り、タオルで体を拭いてやる。
なんかすごい絵面だな……。はっ!! いかんいかん、これは医療行為なんだ。集中しなければ。
……やわこいなー。
十分ほどでおよそ綺麗になった。これ以上は本人が起きてから自分でやらせよう。
壊れそうなくらい華奢な体を、そっと持ち上げて部屋の奥のベッドに運ぶ。火魔術で布団を適度に温めてやれば終了だ。ゆっくり休め。
「ふみゅ……」
おうおう、寝顔も随分良くなったな。ショップで50,000Pした高級ベッドだからな、気持ちいいだろう。良い夢を見ろよ。
俺も少し寝かせてもらうか。魔術の連続使用で魔力があんまり残っていないからな。ベッドの縁に背中を預けて俺は静かに目を閉じた。
眠りは、すぐにやってきた。
◇◆◇◇◆◇
ガタタッ
んぅ? ふぁぁあ。随分眠りこけてたみたいだな。というか何の音だ?
振り向いた俺の視線の先には、布団と毛布をかき抱くようにして壁際に身を寄せる狐耳少女の姿があった。あぁ、そういえば拾ったんだったな。
んーと、会話の前に【翻訳】スキルを起動させてと。
「目が覚めたか?」
「……っ!」
っと、怖がらせちまったか。そりゃそうか、目が覚めたら密室+全裸+見知らぬ男だもんな。俺なら即通報もんだ。
「あー、怖がらせて悪かった」
無言でイヤイヤしてるよ。そんなに怯えられるとなんか傷つくな。
「怪我、治しといたが大丈夫か?」
「ふぇっ!?」
そう言われて気づいたらしい。布団を持ち上げて顔をつっこんで自分の体を調べはじめた。……小動物みたいだな。
おお、尻尾がピンと立ってる。あれは驚いてんのかね。
あ、また顔が出てきた。
「あ、ありがとうございます」
「どういたしまして。俺のことは冬馬って呼んでくれ」
「……トウマさん、ですか?」
「そうだ。君の名前は?」
「私……、私は、クリスタです」
うん、知ってた。でもまあ、少しだけ警戒が解けたかね、一歩前進だ。
よし、もう一歩進むためにも服と下着を作ってやるか。ウィンドウのショップから適当な女性服とショーツ&ブラジャーを購入する。締めて2,100P、まあこんなもんか。
僅かな時間差と共に購入した品が俺の目の前に現れた。
「ほれ、サイズは合ってるはずだ。これ着とけ。元の服は洗わねえと着れねえからな」
「……え? 今、どこから?」
「あー、説明が難しいが俺の特殊なスキルみたいなもんだ。気にするな」
そりゃそうか。突然こんなもの出てきたら驚くわな。
それでも“スキル”という言い訳が効いたのか、少女はおずおずと服に手を伸ばした。
あ、布団が捲れそうになって慌ててる。なんか可愛いな。
「あの……」
「へ?」
「着替えて、良いですか?」
「どうぞ?」
着替えたら良いじゃないか。などと考えていたら困った顔をされた。
あ、そうか。俺が見てたら着替えられないじゃないか。
気恥ずかしくて顔が赤くなるのを自覚しながら急いで後ろを向くと、安心した雰囲気が背中から伝わってきた。すまんね、クリスタちゃん。
途中ブラジャーの使い方を説明するというハプニングがあったものの、十分も掛からずにクリスタは着替えを終えた。
「うん、似合ってるじゃないか。よかったよかった」
「……あ、ありがとうございます」
クリスタの顔が真っ赤になった。褒められ慣れてないのかね、可愛いもんだ。
「さて、それじゃご飯でも作ろうか。クリスタはそこで横になってな」
「え、でも……」
「病人は寝てるのが仕事。今は休んどきな」
言いおいて、俺は竃の方へと移動した。今はそっとしておいた方がいいだろう。クリスタの体がまだ震えてたからな。何がとは言わんが、やっぱり怖いのか。
原因は知らないが、いったい何があったんだかね。……それとも俺が原因か?
色々と思いを巡らせながら台所に立ち、煮沸消毒した先ほどの大鍋に洗った米と水を入れる。もちろん作るのは病院食の定番お粥だ。こういう時のためにわざわざショップで米を買っているんだしな。……いやまあ、正直に言うと俺の趣味だが。
火がないけど大丈夫かって? 大丈夫だ、問題ない。火魔術があれば直接鍋を加熱できるからな。
浸水で30分。強火で沸騰させ弱火で1時間、蒸らして5分。
待ってる間に卵酒でも作るか。卵はショップで2P、酒と砂糖は料理用に買ったのが残ってるな。後は、しょうがを入れようか。部屋の反対側で作っている水耕栽培キットからよさげなのを選んで収穫する。うーん、ウィンドウ万歳、ショップ万歳。
煮立てた酒に砂糖を混ぜた溶き卵を入れ、擂り下ろしたしょうがをプラス。これでよし。木から削りだしたマグカップに移して、大人しくベッドに横になっていたクリスタに手渡す。
「ほれ」
「これは?」
「あー、卵酒って言って、俺の国に伝わる料理だな。体が消耗してる時にはちょうど良い」
しばらくの間、クリスタは不思議そうにマグの中身を見ていた。
ふむ、やっぱ見たこと無いものは忌避感があるかね。先に飲んでみせるか。
「……うん、旨い。あぁ、でももうちょっと砂糖が多めの方が良かったかな」
「砂糖!?」
ん、この世界では砂糖は貴重品なのか? クリスタが目を見開いてマグを見つめている。
あ、飲んだ。
「すごいっ!」
「お、おう」
「美味しいです!」
喜んでくれるのは嬉しいが、よく見て飲め、零すぞ。
あぁあぁ、口元がベタベタになってるって、歯がゆいなぁもう。
世のお母さん方はこんな感じなのかね。
そうこうしているうちに粥も仕上がったようだ。
こっちも木碗に移してクリスタに手渡す。
「これは?」
「お粥だよ。胃が弱ってる時にはこれが一番だ。味が無いように感じるかもしれんが、食べれるだけ食べとけ」
「はぁ」
そう言ったきり、クリスタは沈黙してしまった。
木碗から立ち上がる湯気を見つめているようにも見えるが、何を考えているかは俺には分からん。はてさて、どうしようか。
「……食べないのか?」
「トウマさん」
「おう」
徐に、こちらを向いたクリスタの視線は思いのほか強かった。
まるでそう、何一つ見落とすまいとする意思を感じた。
……そんなに見つめるなよ、照れるじゃないか。
「私が、気持ち悪くないんですか?」
はい?
「……すまんが、意味が分からん」
うん、あんまり唐突過ぎると思うぞ?
思わず俺が眉をつり上げると、クリスタは申し訳無さそうに縮こまってしまった。
すまん、怖がらせるつもりはなかったんだ。
「その、私、人間じゃないから……」
「ん? アニマ族のことを言ってるのか?」
「っ!!」
なにかまずかったか? 【鑑定】で見た時は確かそうだったよな?
というか、呼び方なんて別にいいじゃないか。耳が特殊だったり、尻尾がついてたりしても。むしろステータスだよステータス、立派な個性に違いないんだから。可愛いじゃないか。
「やっぱり……、言葉もそうだったし……」
「どうした?」
ぼそぼそと何かを呟いているのは分かるが、よく聞き取れん。
「お願いします!」
「のわっ!?」
急に土下座したクリスタの変貌に思わず跳び上がってしまう。
少女にかしずかれて喜ぶ趣味は俺には無いぞ!?
「助けてください!」
「分かった! 分かったから、顔を上げて! お願いだから!」
「本当ですかっ!!」
ああ、本当良い笑顔だね。……早まったかね、俺。
とはいえ、何があったのか聞かないことには始まらないしなぁ。
「はぁ……。とりあえず事情を聞かせてよ」
「はい! 実は―—————」
すでに外は暗くなりはじめている頃だ。どうやら今日は長い夜になりそうだ。
・次回予告のようなもの
狐耳と尻尾を持つアニマ族の少女クリスタの頼みに冬馬は苦悩する。明かされる少女の境遇、この世界の暗い一面。優しさと責任の狭間に立たされた少年に現れる小さな影とは!? 次回『語らい』をお楽しみに!




