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尋問美男子《セイバー》  作者: 中條利昭
後編 友達
7/13

1、お前も頭がおかしいのか

後編突入!

 

 九月が走って来た。


「おはよ~」


「おはよう、井坂さん」


 私が挨拶すると、自分の席に座っている(私の席の右隣の)河野くんと彼の机に座っている五十嵐くんは仲よく声を揃えて挨拶してくれた。

 ふたりは七月の中頃に仲直りして、九月の中頃になった今となってはもうすっかり仲がよくなっていた。


 私は窓際の席なので、朝はグラウンドで朝連してる人たちをよく見ている。特に何が面白いとかじゃないんだけど、みんな頑張ってるんだなあ、って思うと自分も頑張れるような気がして。


 二学期になって薫と奈美は「夏休みに昼まで寝ていたのが抜けない」と言って登校するのが遅くなった。一学期は私よりも早かったのに、今では授業が始まる直前に来るようになっている。


「あ、そうだ。これなんだと思う?」


 ポケットから何かを取りだすクシャクシャした音と五十嵐くんの声が聞こえた。


「なんだろう、これ。暗号?」


 河野くんの声だ。クイズか何かでもしてるのかな。


「オレヨヨー ダイコウ キナヨク……。さっぱり分からないね」


 変な呪文が聞こえてき、思わず口がほころぶ。


「さすがの河野にも分からないのか」


「こんなの教科書に載ってないからね」


 河野くんに分からないことがあるとは、珍しいね。


「そうか」


「それ、誰からのメール?」


 メール、ということはふたりが見ているのはケータイなのかな。


「熊崎さん」


 え? (熊崎)薫?


「あの熊崎さんが?」


「ああ。今朝突然送ってきてさ」


 薫の恋は今も進行中で、一学期の終業式には五十嵐くんとメアド交換していたのだ。


「ある意味、熊崎さんらしいかもね」クスッと笑いながら河野くんが言うと、「ハハハ」と五十嵐くんは大きく笑った。「それは、バカって意味か?」


「ご想像にお任せするよ」


 え? 薫、五十嵐くんに何送ったの?


「ねえ、どうしたの?」気になって仕方なかったので話しかけてみた。


「熊崎さんから変なメール送られてきたんだよ」五十嵐くんは私にケータイの画面を見せた。「ついに熊崎さんも頭がおかしくなったのか」


「どれどれ」


 そこには、

『ぉレよょ─ 大好、キナょ勺″─└|・/カゞ夢レニ出τ、キナニょ≠ャ─ぅ、ζ、、ζ、、ζ、

理子@未来@勺″─└|・/レよー⊂″ぅ?まナニヵ″─」レス″├─勹ιょぅね

楽ιゐレニιτゑょ』と書いてあった。


 ああ、と心の中で頷く。


「こんなの読めるやつは頭がおかしいんだよ」


「『おはよー 大好きなダーリンが夢に出てきたよ キャー うふふふ

理子の未来のダーリンはどう? またガールズトークしようね

楽しみにしてるよ』って書いてる」


「何? これが読めるとは、お前も頭がおかしいのか!」


「違うって」私は笑いながら説明した。「これ、ギャル文字だよ」


「ギャル文字?」五十嵐くんは頭を傾げた。


「ああ、聞いたことある」河野くんは頷いた。


「何? お前も頭がおかしいのか」


「だから違うって」


「で、ギャル文字ってなんだ」


 私は簡単に説明する。「ギャルが使う文字だよ。目を凝らしてよく見てみて。最初「おはよー」って見えるでしょ」


「確かに」


「そういう感じ。別にギャルじゃないけど私や薫の間では流行ってるの」


 私たちは夏休みによくギャル文字を使ってメールをしていた。


「ってことはこれ、井坂さん宛てのメールだよね。井坂と五十嵐で電話帳近いから間違えたんだろうね」


「あ~そうだね」河野くんに返事をした瞬間、私は薫が書いた男子に見られたくないような文面を思い出し、急速に恥ずかしさに襲われた。


 やばい、熱い。


 それを見て、五十嵐くんはにやにやして言った。「井坂さんの未来のダーリンってあれだろ? 西園寺道長(半笑い)」


「なんで半笑いなのよ」


「西園寺道長だからだよ」


「うるさい。確かに本名もちょっと変わってるけど、そこで普通の名前にするんじゃなくてもっと変わった芸名を使おうって思う辺りがいいんじゃない。思い切っていて」


「どうせ思い切るなら整形すればいいのに」


「なんでそんなに西園寺道長ディスるのよ」


 私は不貞腐れたように頬を膨らませた。それを見て五十嵐くんは笑う。


「でさ、熊崎さんのダーリンって誰なんだ?」


「え?」えーっと……答え方に困るなあ。あなたです、と真っ向から言えるわけもないし。

 色々考えた末、「秘密」と返事しておいた。「私は友達を売ったりなんてしない」


 かっこいい、河野くんは微笑む。

 都合のいいごまかし方だ、五十嵐くんは笑いながら吐き捨てる。


「理子ー!」そうこう話していると薫の怒鳴り声が聞こえてきた。


「あ、渦中の人」


 薫は速足でやってきた。「どうしてメール返信してくれないの! あ、五十嵐くん河野くんおはよう」


「おはよう」ふたりは半笑いだった。あ、訂正。私も入れて三人だ。


「何笑ってんのよ」薫が訝しむような目で睨んでくる。


 すると、五十嵐くんが面白がっている様子で「もしかしてさ、」と薫に声をかけた。


「え、何!」薫は顔を紅潮させて笑い、胸に手をクロスさせて当てた。

 恋する乙女はかわいいね。


「そのメールって、これ?」五十嵐くんは薫にケータイの画面を見せる。


 それを見て、薫の赤い顔が更に赤くなった。まるでリンゴみたいな色に。


「え……、もしかして、間違えちゃった?」


「……うん」


 真実を知り、薫はその場に膝から落ち、床に手を突いた。これぞ絶望の絵。「あ、私……死のうかな」


「駄目だよ!」私は薫に抱きつく。「立って、ねえ。立って。立つんだ薫」


「でさあ、熊崎さん」


 その五十嵐くんの一言で、薫は撃沈した。


「ダーリンって誰?」






 五十嵐くんは薫の恋心に気付いてないけど、河野くんは薄々気付いている様子だった。

 でも、二学期になってから河野くんはどこかおかしい。いつも体調が悪そうに見える。五十嵐くんに尋問されていたころとはまた違う暗い表情。


 五十嵐くんはというと「ギャル語絶対に覚えてやる!」とよく分からない闘志を燃やしている。


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