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尋問美男子《セイバー》  作者: 中條利昭
前編 クラスメイト
2/13

2、野球部でもないのに坊主頭をしている中野くん

 

 学校に着き、コンクリートの古臭い校門をくぐって、玄関の左から二つ目の扉から入った。

 珍しくそこには誰もいなくて静かだった。楽しそうな声とかがいっぱい聞こえてくるけど、ロッカーが邪魔で誰も見えない。


 熱い体を重々しく五階の一年生の階まで運ぶと、汗がツーっと落ちた。

 暑いー。


 私は割と汗っかきな方で、部活のテニスなんかをしていると誰よりも早くタオルで額を拭き、水を飲む。そんなこんなで私の通学リュックにはいつも水筒が二つ入っている。ちなみに、それだけでは全然足りなくて友達のを借りたり、冷水器を使ったりしてこの命をつないでいる。気持ち的にはもうひとつ水筒を持っていきたいところだけど、カバンに入らないし、何より重い。


 教室に入ると「おはよー」という奈美と薫の声が聞こえ、「おはよー」と汗をかきながら笑ってオウム返しした。


 上橋奈美はこのクラスでできた私の友達。中学は全く違うところで、でも同じくテニスをしていたので、このクラスに入る前から顔は知っていた。でも話はしたことなく、あくまで「見たことあるような気がする」のレベルで、最初はそんな感じだった。


 そんな私と奈美が最初に話したのは、入学してから何日か経った後にあった自己紹介のとき。出席番号順に前に出て、名前と中学と入るつもりの部活と趣味を言うという簡単なあいさつで、前半の男子の紹介は右耳から入って左耳から出ていくような感じで、私は適当に聞き流していた。女子に入ってからは左耳を塞いで割と本気に聞いた。そして奈美の順が来て、彼女が「テニス部に入るつもりです」と笑顔で挨拶したときに初めて心のもやもやが解消された。


 大会で見たことあったんだ!


 私も同じように挨拶して、その後の人たちも適当に挨拶してチャイムが鳴り、その時間が終わった。すると走るよう即座に奈美が私の元にやってきて「実は井坂さんのことどっかで見たことあるなーと思ってたんだけど、思い出せなくて。さっき思い出した。テニスの大会だ!」と楽しそうに笑うと「実は私も」と私も同じように笑った。「よろしくね」


 それ以来私と奈美は大の仲良し。


 しかも、奈美は大人っぽくて美人。きっと男子人気は高いと思う。特におでこが綺麗で、いつも前髪を上げている。

 あと、女子会で私が「西園寺道長が好き」と言ったときに唯一弁護してくれて、昨日もメールをくれたのは奈美。


「相変わらず汗っかきね」奈美と薫と一緒に幸せそうな笑顔でからかった。

「汗っかきは三日でなおる物じゃないから」


 熊崎薫はこのクラスのムードメーカー。本人は「ムードメーカーなんて大げさな」と恥ずかしそうに笑って否定してるけど。

 彼女はひょうきんな性格でみんなから愛されている。部活はソフトボール部で、ノックがうまいらしい。漫画みたいだけど「針の穴をも通すコントロール」があるのだとか。でもピッチャーから飛んでくるボールはまともにコントロールできないらしく、中学のときもレギュラーを取ったことがないそう。


 そばかすの多い顔はキュートで(本人は嫌ってるけど)その笑顔はまるで天使だ。奈美曰く「薫の笑顔は世界平和をもたらす」だとか。

 私は薫のそんな面に憧れるんだけど、彼女はオブラートに包んだ言い方で言えば勉強があまり得意ではなく、包まなければ……バカ。


 私が席に着き、後ろに振り向くとそこの席の奈美が訊いてきた。「昨日のダーリンはどうだった?」


 ダーリンとは多分西園寺道長のことなんだろう。


「よかったよ」


 ふと薫を見ると明らかに笑いをこらえていた。

 ちなみに女子会のときに「あんなの顔負けだよ」とからかい笑ったのが薫だ。


「何笑ってんのよ」


「いや、別に……ハッ」


「あ、こらえきれなかった」奈美が指摘すると更に薫はおなかを押さえて笑う。


「そんなに変? 西園寺道長」


「うん……ハハハ名前負けしてるもん、ハハハ!」


「笑い過ぎだって」


 私はいつもこんなくだらない毎日を楽しく過ごしている。幸せ。みんなこんな感じで幸せだったらいいんだけど、少なくても男子ではそうなってないんだよね……。


 左隣の席で眠たそうに文庫本を読む河野くんが視界に入った。そして彼は、窓際で野球部でもないのに坊主頭をしている中野くんと話している、委員長の五十嵐くんを数秒見てまた文庫本の世界に戻る。


 ちなみに彼が五十嵐くんを見たとき、正確にはそれよりも少し前に薫は五十嵐くんの方を見てにやけていた。薫は五十嵐くんに絶賛片想い中なのだ。


「何読んでるの?」初めての彼との会話。いいきっかけだと思った私は勇気と好奇心を振り絞って訊いた。


 河野くんは驚いた顔を見せてちょっと微笑み、答えた。「三国志」


「おー」薫は平坦な声を出す。


「スゲー」奈美は感嘆する。


 私は「おもしろい?」とまた質問する。

 すると河野くんはちょっと困った苦笑いをした。「まあね」


「おもしろいから読んでるに決まってるでしょ。河野くん困ってるじゃん」

 奈美がそう指摘すると、河野くんは更に普通の笑いに近い苦笑いした。


「ごめんね」奈美の言葉のせいで私は謝った。


 彼は河野くん。頭のよさそうな雰囲気を醸し出している。友達と話しているのもあまり見ることがなくて、最初の自己紹介を完全に聞き逃したから部活も前の中学校も分からない。優しい顔をしていて話しかけやすいと言えばそうなんだけど、いつも文庫本を読んでいて、もの静かなちょっと不思議な子って感じ。

 この前の金曜日に期末テストが終わり、席替えがあって隣の席になって今に至る。


 河野くんは自分からは話さないってタイプかな。席を立って誰かに話しかけに行くのを見たことがない。

 でも誰も彼に話しかけないってことはないんだけど、特に委員長の五十嵐くんが彼に話しかけるのはよく見るんだけど……河野くんは心地よさそうじゃないんだよね。






 一時間目の気分が悪い鐘が鳴った。


「あー国語だー」溜息をついて薫は自分の席へ重そうに戻った。


「だね」と奈美が頷く。「国語のテスト、わけが分からなかったなあ」


 奈美は国語が一番苦手で、「文章なんて楽しく読めればいいじゃん。そんな真剣に読み解かなくてもさ」とよく言っている。国語の授業が終わるたびに言ってくる。


 薫はどの教科に関しても苦手だから、テストそのものが嫌だって感じ。


「起立、礼!」五十嵐くんの号令が聞こえて授業が始まった。


 五十嵐くんはイケメンってやつかな。どうだろう。タイプじゃないけど。でも、まあ、きれいな顔をしてる。委員長だけどそこまで勉強は得意じゃないみたい。


「テスト返却します。出席番号順に来てください」


 国語の先生がそう発したすぐ後に、後ろから「嫌だー」と奈美の声が聞こえた。


 次々とテストを貰いに行ったり貰って帰ってきたり、貰ったまま友達と見せ合ったりする中、隣の河野くんがテストを手に帰ってきて、席に着いた。

チラッとのぞいてみると、解答用紙には赤い円だらけだった。そして、右下には、「92」の文字が。


「河野くんすごい!」


 思わず感動を声に出してしまい、その声に河野くんが驚き、奈美も彼の持っている奇跡の紙を見て「天才!」と言って落ち込んだ。

 彼は苦笑いして「天才なんかじゃないよ」と頬を赤らめて否定した。


 私と奈美は「い」と「う」で五十音順が近いので、一緒に席を立った。

 ああ、行きたくない、と奈美がぼやくのを見て私は笑う。


 私は解答用紙を貰い、「こんなもんだね」と呟き、何やら固まっている奈美の用紙を覗いた。「……ドンマイ」


 その何人か後に薫がテストを貰い、奈美の点数を見て「あ、同じ点!」と言うと「お前と!?」と奈美はさらに落ち込んだ。


 すると、さっきまで友達とテストを見せ合っていた五十嵐くんが河野くんの元に近づいて「おおー」と感嘆する。


 そして五十嵐くんは自分の点数を河野くんに見せた。「俺なんか結構自信あって60点だったのに。すげえな~河野。言っちゃ悪いけどほんとに、何でこの学校選んだんだ? 教えてくれよ~」


 河野くんは嫌そうな顔を苦笑いで隠した。「別に何でもいいじゃんか」


 これこそ私が、河野くんは五十嵐くんに話しかけられても心地よさそうじゃないと思う理由。新学年早々の課題テストのときにも同じことを五十嵐くんに言われていて。それ以降も時々、なんでこの高校を選んだのかという言葉をよく聞く。


 この学校はこの学区の普通科の公立高校の中では学力の高いほうの学校だけど、その中で学力順に高校を並べると、ここの上には更に二つある。河野くんの実力は誰が見てもその一番上の所に十分行けるレベルで不思議なのは分かるけど、別に何でもいいじゃんって私は思う。同じクラスにこんな偉い子がいるってことは誇れることだと思うし。

 それに何回も何回もそんなことをしつこく訊いていたら何か尋問してるみたいで、イジメみたい……。


 五十嵐くんのことはそんなに嫌いじゃないんだけど、何か、こういうのは嫌いだよ。イライラするんだよね。正義感とかじゃないけど。多分。薫には悪いけど。






 この一日のほとんどの授業はテスト返しって言っても午前中授業で四時間しかなくて、そのひとつは体育だったから三教科だけだけど、私と奈美は平均くらいの勝負を繰り返していた。薫は欠点ぎりぎり辺りをさまよい、河野くんはクラストップか、二、三位の優等生ぶりを発揮した。


 五十嵐くんはデジャブのように何度もなんでこの学校を選んだのかを訊き、河野くんは苦笑いを繰り返していた。


 何故だか次第に私の怒りゲージが上がってきている、気がする。


 昔書いた文章に加筆修正するのって、すごく難しいですね。ぎこちのない文章になってしまっていたらすみません。

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