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第三回 ~現実カウンターパンチ~

 最近の後輩は機嫌が良かった。

 鼻歌を歌いながら登校し、友達と会話する時もいつもニコニコしている。

 放課後、今日も元気に図書館に向かうと、先輩と部員一同が白い本を投げたり煮たりしていた。



「おお、また一つ新たな使い方を見つけてしまったぜ、先輩! こいつはフリスビーにもNARUDAROU」

「こっちはたくさん積んで一冊ずつ抜いてゆくジェンガみたいな遊び方を発見したぞ!」

「いやほんと、読む以外の方法ではかなり楽しめますねこれ」

「読む以外ではな! ハハハ!」

「先輩、こんちわーっす」

「後輩か、ご機嫌だな」

「いやーわかりますかね? 実は処女作が完成しそうなんですよ」

「お前の処女をもらってくれる人は永久に見つかりそうにないけどな」



 とりあえず後輩は先輩を十字磔にしてその下に例の本を山のように積んだ。マッチを取り出して擦る。



「火あぶりにも使えますよ、これ。ファイヤー!」

「魔女裁判かよ!! や――――め――――て――――!!」



 その日の夜、裸野辺高校から二駅離れた郊外のマンション。

 その一室では今日も積極的に執筆に励む後輩の姿があった。

 風呂上がりにパジャマ姿になり、念入りに歯を磨きながらパソコンのキーを叩くのか彼女の日課であった。

 打鍵の音色は実に軽やかだ。ニヤニヤしながら彼女はつぶやいた。



「これでよしっ、と。んー、これってちょっとした名作じゃない? みんなホメてくれるかなー」



 ひと段落つくと、息抜きにネットのサイトを適当に眺める。



「ふーん……小説家になろうもそうだけど、ネットで小説を発表してる人って結構いるんだなー。

 ほうほう、感想ももらえちゃったりするわけか。

 どれ、書きかけではあるけど、あたしのも……」



 さて翌朝。

 登校する生徒たちに紛れ、前日とは打って変わって、げんなりと疲れきった顔の後輩の姿があった。

 肩を落としてうつむき、時々立ち止まってはため息をついている。

 行く手では吸血鬼に襲われた先輩が例のあの本の表紙に書かれた十字架をかざして撃退しているが、後輩はそれに気づく余裕すらない。



「滅びるがいい、闇の勢力よ! ……ふう、危ないところだった。この本がなければ今ごろどうなっていたやら……。

 おや、どうした後輩? 昨日の元気はどこに行った」

「あ、先輩」

「作品が完成間近ってんで浮かれてたんじゃなかったのか」

「いえ、それが……グスン」



 早朝の図書館、例の本を焼いた火でコーヒーをわかして飲みながら、後輩は事情を説明した。



「なるほど。ネットで自分の作品を公開したらボコボコに叩かれた、と」

「はい、あたしなんかもう……自信なくしました。自分ではですね、すっげえ名作だっていう自信があったんですよ。

 でもそれをよってたかって小説以前の問題だとか、キャラクターが空気だとか……」

「まあ、そう暗くなるな。では今回はそれでいってみようか」




なれない講座 第三回

~現実カウンターパンチ~




 放課後、例によって図書館で講座が始まった。



「初めて書き上げた時、人は誰しも誇らしい気分になるだろう。自信満々で叫びたくなるくらいだ。これが俺の書いた本だ! と」

「あ、はい、ほんと……そんな感じでした」

「ところが公開してみたら、やれ未熟だの駄作だのといった、本人からすれば罵声にしか聞こえないものを浴びせられる。まあよくあることだな」

「……」

「そんな顔するなよ。ほら、うどん食え。火種はいっぱいあるから」

「いただきまふ(ズルズル)」

「だがな、これは避けては通れない道なんだぞ」

「え? どーゆーことでふか?」

「作家だけではない。誰だって一度はこういった思い上がりを打ち砕かれておく必要があるんだよ。

 思い上がりを砕かれていない奴がどれほど痛いかわかるかね? ちょっとあたりを見回してみればザクザクいるだろ、そういうやつ」

「一度も作品を書き上げたことがないのに、自分にはスゴイ才能があると思ってる作家志望者とかですか?」

「筆者の悪口はやめろ」

「えっ」

「いや、何でもない」



 咳払いし、先輩は続けた。



「だがな、誰だっていつか現実を知る時が来るだろう。僕は現実のカウンターパンチと呼んでいるがな。

 勢い(思い上がり)が強ければ強いほど、顔面に叩き込まれるカウンターパンチの威力は倍々に跳ね上がる。時には自我を破壊されかねんほどにな」

「ああ……確かにあたしも今朝、評価の書き込みを見た時は卒倒しそうになりました」

「そのパンチを食らってなおリングの上にとどまれた者のみが次のラウンドに進めるんだぞ。

 酷評されたんなら、その点を改善すりゃあいいのだ! そうやってちょっとずつ成長してゆく、そういうもんだろう」

「そ、そうですよね。自作品と言わず、実生活……引いては人生すらも、そう言えるのかも」

「現実カウンターを食らわないまま周囲におだて上げられて出版した作品がどんなものかは、君もよく知っている筈だ」



 後輩はちょっとだけ表情を明るくした。



「なんか、元気出て来ました! うどんごちそうさま。……あ、この本をどんぶりの下に敷くとテーブルが汚れなくていいですね」

「IIDAROU」

「ともかく自分の欠点をミズ、シマい込んだままにしててはいけないんですね」

「そうだトモ。ヒロいよな、世の中は」





・第三回のまとめ

俺はいつかデビューするか。ものすごい作品書くから。

でも今はちょっと充電期間だから。もっと暖めておきたいから。



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