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第二回 ~文章は流れが大事だよ~

 さて、後輩がラノベ作家になると誓った翌日のこと。

 放課後になると後輩は図書館に行き、ノートパソコンを開いてキーを叩いていた。



「うーんと、うーんと……〝彼女はあまりの羞恥に、便所壷のように顔を歪めた。〝イマイチだなあ。便所壷……ううん、ここは公衆便所の便器に顔を突っ込んだような表情、に……」



 カタカタカタ、カタカタ。

 しょっちゅう中学生に間違えられる幼い顔はみるみるふくれっ面になってゆき、とうとう爆発した。

 後輩はキーを手のひらでバンと叩くと、頭をかきむしった。



「うぐー、うまく書けないぞ。おっかしーなー、ラノベの人って何でこう、読みやすい文章を書けるのかなあ」



 そこに先輩がやってきた。

 というか彼は最初から図書館にいたのだ。書架から持ってきた本で火を起こしてうどんを煮ており、それがちょうど出来上がったところだった。

 部費で香川県から取り寄せた讃岐うどんに舌鼓を打ちつつ、どんぶり片手に後輩のパソコンを後ろから覗き込む。



「おやおや後輩、実写化お断り会見のペーパー作りかね? 感心だな」

「いえ、一晩考えたらアレありえなさすぎたんで、やっぱり地道に書いてくことにしました」

「まったく不毛な。うどん食うか?」

「あ、いただきます。半熟たまごとトロロでお願いしますわー」



 先輩は振り返り、火のそばにいる部員に声をかけた。



「おーい、もう一人前煮てやれ」

「いいすよー。次はどの本燃やしますか?」

「古本屋で十円のやつあっただろ。仮面ライダーの中の人が書いたあれをKUBEROU」

「ああ、はいはい、これね。よくMOEROU」



なれない講座 第二回

~文章は流れが大事だよ~



「すらすら読める文章とそうでない文章の違い。これがわかるかな、後輩?」

「わかんないでふ先輩。あ、このうどん、おいひい(ズルズル)」

「これは志望者だけではなく、作家にとっては命題とも言えるだろうな。どれほど内容が立派でも、文章がヘボイのでは誰も読まん」

「ハリーポッターの翻訳文の悪口はやめて下さい! あたしあれ好きなんだから」

「あんなの映画だけ見ときゃいいんだ。ところで実は文章力を簡単にスピードラーニングする方法が一つあるのだよ、後輩」

「え、ほんと?」



 先輩はポケットから小説を一冊取り出すと、広げて彼女の横に置いた。



「これをまるまる写せばいいんだ」

「えええええ!? それってパクりなんじゃ……」

「いいや、これはれっきとした小説の練習方法なんだぞ。まあともかく書いてみろ、一言一句違わずに」

「ぐええ……メンドクサー」



 帰宅後、とりあえず後輩は言われた通りにしてみた。

 カタカタカタカタ。


 翌朝、早朝の図書館。

 相変わらず先輩と部員たちは本を焼いて火を起こし、朝食のスクランブルエッグを作っているところだった。



「よーし、どんどん燃やせ。まだまだARUDAROU」

「はいはい、任せて下さいよ(ドサドサ)」

「ミズ……シマった、水がなかった。持ってこないと」

「いやー、安いし良く燃えるし、これは思わぬヒロいものでしたね」

「純粋に紙として見た場合の価値よりも安いからな。まったく文章の力ってのは恐ろしい」



 そこに後輩がやってきた。



「先輩、昨日一晩かけて写しましたよー!」

「うむ、どうだったかね?」

「先輩が言った通りでした! なんかさ、こう……手が文章の流れを覚えたって言うか」

「そうだろうそうだろう。ちょっと見せてみたまえ」



 後輩は自慢げにパソコンを開き、胸を張った。



「全編やっちゃいましたですよ。どうです、えっへん」

「えらいえらい。なんかこう、今までよりもずっと深く文章を理解できた感じだろう? 普通に読むのよりも」

「ええほんと。先輩の言ってたことの意味がわかりましたよー! まるごと写すことで……なんて言うか、作者の立場で作品を読めるようになるんですよね。

 ここからこの文章の流れに移る時に、こんな思惑があったのか……って」



 先輩は後輩のパソコンにプリンタを繋ぎながら、満足げに笑みを浮かべた。



「人間は頭と体、両方を使ってすることで更に物事を深く理解できるという。全身が一体となって経験するからだろうな。

 どうだね、少しは文章の流れとか、息づかいとか、そういったものが理解できただろう?」

「はい! 先輩のおかげです」

「よせよ。みんな君の努力の結果さ」



 先輩は後輩が書き写したすべてを印刷すると、照れくさそうに笑って手を振った。

 印刷した紙の束を綴じると、公募ガイドを参考にして応募要項を書き込み、A4の封筒に詰め込んだ。

 図書館の外に向かって歩き出す。先輩もそれについていった。



「君も自分の好きな小説を見つけたら、この写し書きをするよう心がけてみたまえ。

 これは文章の流れを知ると同時に、この小説がなぜ面白いのか? ということを知るきっかけにもなるだろう。

 いわば小説のリバース・エンジニアリング(*)だな」


*……既存の製品を分解して構造を調べること。君のお父さんが家電とかの製造メーカーに勤めてるんなら聞いてみな。



 先輩は学校を出ると、その前にあるコンビニの前まで来た。切手を買って張り付け、ポストに投函した。


「先輩って何でも知ってて尊敬しちゃいますえええええええええええええ!?」

「ん? どうしたんだね後輩」

「あたしが写し書きした小説を―――――――!! 何やってんですか―――――――!!」



 後輩がバールでポストをこじ開けにかかったので、先輩はあわててその背に抱きつき、羽交い締めにした。



「落ち着け後輩! クンカクンカ! 落ち着くんだクンカクンカ!」

「におい嗅ぐな―――――――!!」



 とりあえず後輩は先輩をふりほどき、口にバールを突っ込んで顎をこじ開けた。



「ひぎいいい!」

「パッ、パクリ! 丸パクリじゃないですか! いや丸パクどころかコピペですよこれ!」

「とにかくこのバールを抜いてくれ!」

「じゃ肛門の方に」

「アッ―――――――!! やめてえええええ!!」



 コンビニ店員がこっちを見ながらどこかに電話をかけ始めたので、二人はあわてて逃げ出した。

 学校への帰り道、後輩はすっかり落ち込み、頭を抱えていた。



「あああああ、あんなの選考委員に見られたらブラックリスト入りだよ……」

「それはないから大丈夫、たぶん」

「何を根拠に言ってるんですかああああ」

「昨今、一ヶ月にどれくらいのライトノベルが出版されるか知っているかね?」

「え? えっと……五冊とか六冊?」

「とある資料(*グーグル先生という方)によると、ひと月に百冊は出るそうだ」

「えええええ?! そんなに?」

「どんな敏腕なラノベ編集者でも、これを全部読んでおくことなど絶対にできん。何からパクったかなんてわからんのだ。

 ある小説など、今回レベルのコピペ作品だったにも関わらず受賞して出版されたということもある。

 君も聞いたことがないか、ラノベのパクリについて」

「ああ、たまーにニュースサイトとかで話題になってる……」

「当然、新陳代謝の速度がものすげえ早いんだ。一昔の、それも売れなかったラノベをまるまるコピペしたとして、それを見破れる人間は少ない。

 つまりこれはかなり割りのいい賭けなのだよ!」

「だ、だからってパクっていいってことにはならないじゃないですか」

「なーに、そもそもラノベ編集なんてのは文芸の編集部で使えなくて飛ばされた能なs(ピ―――――――」)ばかりだ。

 なまじいい大学を出ているばかりに三流の編集に回されたことを認め切れていない学歴オタのb(ピ―――――――)ら大丈夫」

「あ、あのですね先輩、『小説家になろう』は実際プロの編集さんも見てて、んでプロデビューする作者さんもけっこういるサイトであるからしてですね、その……」

「何と言おうと(ピ―――――――)は(ピ―――――――)だろ! だいたい『小説家になろう』の作品を乱発しまくってるレーベルの程度などがそもそも(ピ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




*しばらく後輩のスクール水着画像でお楽しみ下さい。

あっ、画像用意してなかった。



 さて数ヶ月後、選考発表日。

 後輩は図書館に来ると、先輩の前で評価シートが封入された封筒を開いた。



「どうだった?」

「それが……」



〝ストーリー、構成共に小説の体裁を成していません。もっと本を読んで学んでから投稿して下さい〟



「あの……あたしが言うのもナンですけど、パクッた本の作者さん、どうやってデビューしたんでしょう?」

「うーん、やっぱりラノベ編集ってのはレベr(ピ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




・第二回のまとめ

この作品はとんでもない偏見に基づいて書かれています。

あと書いてあることは全部嘘です。





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