第三話 暗闇の中の声
数日後、仕事の都合で海外にいた、彼女の両親が見舞いに来た。
彼女が生まれた時から海外に行き、放置していたにもかかわらず、医師のいる手前、娘想いの両親を演じていた。
だが、案の上、彼女は、自分の親のこともわからない。
「ねぇ、歩くん。
この人たちは誰?
歩くんの友達?」
きょとんとした顔で、自分の両親を見る。
そんな娘の様子に、彼女の母は取り乱した様子もなく、落ち着いた声でいう。
「…何か、いるものがあったら、電話しなさいね。
できるかぎりのことはするわ。」
そう言い残し、彼女の父と共に病室を出ていった。
彼女の担当医は、見送りに行くといい、彼女の両親の後を追った。
彼女は、変な人たち…。と、小さく呟いた。
自覚は無いのだろうが、その顔は、どこか寂しそうだった。
僕は、握り拳に少し力を入れると、風を浴びて来るといい、病室を後にした。
屋上で大きく伸びをしながら、僕は横になった。
惟は、たとえ記憶が無くても、さっきの二人が自分の両親だと、分かるのだろうか…。
僕のことは、わからないにしても…。
そんなことを考えながらも、僕は深い眠りについた。
まるで、深い闇の中で誰かが、僕を呼んでいるかのように…。
『歩…、お遊びの時間は終わりだ。…あと三日。』
しばらくしてから、目を覚ますと、辺りは赤くそまり、星が微かに瞬き始めていた。
長い溜め息をついた後、僕は足早に屋上をあとにし、、惟の病室に向かった。
だが、そこに彼女の姿はなかった。
僕は、トイレにでも行ったのかなと思い、病室をでて、家に向かった。
この時はまだ、まさかあんなことになるなんて、思いもよらなかった。