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第三話 ハルム家でのポジションがツッコミに決まりました。






 「だ、大丈夫かい?」


 ハルムさんが若干引きながら話しかけてくる。

 私はやっと頭を打ち付けるのをやめ、二人に向き直った。


 「申し訳ありませんでした。もう大丈夫です」


 現実逃避はもう終わりだ。

 そろそろ本来の私を取り戻さなくては。もう大丈夫だ。

 そう、自分に言い聞かせる。

 


 すると、ハルムさんが先ほどの質問をしてきた。


 「すまなかったね。少し遊びが過ぎたようだ。では話を戻そうではないか。カイユキ、君は何故あんな所にいたのか、自分でもわからないようだが、心当たりも全くないのかい?」

 

 ここでそのまま本当のことを話せば、確実に頭のおかしい人に認定されてしまう。

 適当な嘘を吐くべきなのだろう。

 しかし、彼らに先ほどツッコミにさせられてしまった私としては、とりあえずボケのポジションを取り返したかった。

 


 「私、多分この世界の人間じゃないんだと思います。この国の名前も聞いたこと無いですし、なんか私、神様に殺されちゃったみたいで。」


 こんなこと言われたら、「んなわけあるかあ!」と突っ込まずにはいられないだろう。

 むふふ・・・、と二人に気付かれないように小さく笑う。が、


 「あらまあ・・・・・・そんなひどい目にあったの?可哀想に。じゃあこれから住むところも無いのでしょう?ずっとここにいなさいな」

 「そうだね、それがいい。異世界で困ることも多いだろうが、私たちになんでも相談してくれ」



 待って下さいよ。なんでそんなにとんとん話がすすんでるわけ?

 いつの間にか私、住む場所GETしちゃってる感じですか? 

 神に殺されたとか異世界から来たとか、そんな簡単に受け入れないで下さいよ。私のポジションはボケなんですってば。まあ住む場所が確保出来たのは嬉しいけども?


「あのっ!!」

 もう一度 ツッコミしないんですか!? と言おうとした時、コンコンとドアを叩く音がした。

 ハルムさんは一瞬そちらの方を向いてドアを見つめた後、顔をもどした。

 出なくていいのだろうか?

 

 「家族になったのなら部屋が無くてはな。私はこれから仕事のようだからミリア、たしか余ってる部屋があったね?カイユキに案内してやってくれないか?」


 奥さんが「はい」と答える。

 ミリアという名前なのか、覚えておこう。

 






 じゃなくて!


 いつの間にか家族になってた!?

 しかも部屋まで貸してもらえる事になっている。


 なんか最近良いことが次々に起こる。

 これから悪いことがいっきに起こってしまうのではないかと怖くなる。が、気付く。

 最初に神のおっさんに殺されたことで悪い運を使い切ったから、今はその反動でこんな風に私に都合が良いように事が運ぶのだろう。


 私はボケのポジションを犠牲に、住む場所を手に入れる事にした。





 先程より強く、ドアをノックする音を聞きながら私は

 

 「ありがとうございます」といった。


 親切な人たちに巡り会えてよかったと心から思う。まあその前に変態のおっさんに会っていなければ本当に最高だったのだがまあしょうがない。ところでさっきからだんだん強くなっていくノック音は無視してていいのだろうか?




 やはり、というべきかドアを乱暴に開けて青年が入ってきた。


 「ハルムさん!さっきからノックしてるのに、なんで開けてくれないんすか!?絶対きこえてましたよね?無視ですか?無視したんですね!?」


 早口に話す青年はハルムさんに怒るが、当のハルムさんは漂々として首をすぼめる。そして私の方を向いて「やはり仕事のようだ」といい、青年のほうへ向かう。チラッと彼はこちらを見るが、すぐにハルムさんに文句を言い始める。ハルムさんはまあまあ、と言って彼をどこか別の部屋へ案内した。





 「えっと?」


 今の青年は誰だろうと首をかしげているとミリアさんが、


 「エヴィンくんよぉ。ハルムの助手をやってるの。」

 と教えてくれた。そこでふと、思う。

 

 「ハルムさんはどんなお仕事をされてるんですか?」

 なんだかんだ、これからお世話になろそうだし、せめて仕事とかの手伝いくらいはしないと人間としてダメだろう。


 「一応医者をやってるわ」

 「あの、私に手伝えることとかってありますか?」


 薬を作るならなんか草とかを採ってくるとかなら私にも手伝えそうだと思いそう言うがミリアさんは、さも驚いたというように私を見つめた後、にっこりと微笑んだ。手伝うと言った事がそんなに意外だったのだろうか。


 「そうねぇ。まあとりあえずはハルムより私を手伝って欲しいわあ。ダメかしら?」

 「あ、はい。どんなことをお手伝いすればいいんでしょうか?」


 ミリアさんというか奥さんのお手伝いといったらやっぱり・・・




 「お洗濯とかお掃除とか。最優先なのはやっぱりカイユキちゃんのお部屋が最近お掃除してなかったからそこをお掃除するって事よね。とりあえず出来るだけ今日片付けて、きちんと寝られる環境を作らないと。」


 私は生きている時、いや、今も生き返ったから生きてるんだけど、おっさんに殺される前に一人暮らしをしていたのだが正直家事全般がとても苦手で、週に三回は友達に片付けに来てもらっていた。料理は結構自信があるのだがそれ以外は本当にダメ。だから掃除とかはちょっと・・・

  

 「あの・・・?」

 「さ、じゃあまずはカイユキちゃんの部屋に案内しましょうか」


 私が「それはちょっと・・・」と言う前にミリアさんが話を遮り歩き出してしまう。

 まあ自分の部屋だし、むしろ本当は私一人で片付けないといけないのを、ミリアさんに手伝ってもらのだから感謝しなきゃいけないと思う。


 アリガトウゴザイマス。

 そして私はもう、ここに住まわせてもらうからにはポジションがツッコミになっても文句は言いません。







 「さ、ここよ」


 


 案内された部屋は思っていたより全然綺麗だった。

 一人暮らししてた私の部屋よりよっぽど綺麗でただ少しホコリが隅にたまっているくらいで、家具もきちんと揃っていた。ベッドに腰を下ろすとギシッ と音がした。

 と、一気に疲れが体を襲ってきた。


 「やっぱり片付けは明日にしましょうかね。今日はちょっと喋り過ぎちゃったからカイユキちゃん疲れたでしょう?今日はゆっくり休んでちょうだいな。」

 「すいません・・・」


 ミリアさんには申し訳ないがよかった。体がだるいので今は横になりたい気分だ。


 「そういう時は 『ありがとう』 の方がうれしいわ。じゃあなにかあったら言ってね」




 「ありがとう」


 そうして私は部屋に一人になると、今までの事を振り返っていた。




 




 


 眠らないことによって早めに死ぬことになったものの、おっさんが言うには元々私の寿命は短かったらしいし、ハルムさんやミリアさんは親切で、ここでも結構ちゃんと生活できそうだしなんだかんだ言ってよかったのかもしれないと思う。

 だから、おっさんがミスって私を殺したことはやっぱり頭にくるが、まあ許してやらない事もないかな、なんて思ったり。もちろん本人に言うつもりは無いが。






 ハルムさんたちに「異世界から来た」といった時、確かにボケのポジションをとり戻したかったのだけど、二人が本気で信じてくれたことがすごく嬉しかった。


 いや、信じているわけじゃなくて悪乗りして 「んなわけあるかあ!」と言わなかっただけかもしれないけれど、なんとなく、自分の存在が受け入れられた気がしてほっとした。

 だから、友達や家族と離れ離れになり、一生会えなくても、おっさんを許してあげる気になったのだろうと思う。




 両親やお兄ちゃんはどうしているだろう。

 やはり私が死んだことを悲しんでいるだろうか?

 共働きで忙しかった両親に代わって面倒を見てくれたお兄ちゃんはかなりのシスコンだったから、特にぼろぼろになっているかもしれない。


 いや、ボロボロになっていて欲しいのかもしれない。

 それだけ私は愛されていたということだから。



 あ。彼氏はどうしてるかな?

 最近倦怠期だったからまあそんなには悲しんでないかもしれない。







 どこか客観的に見ている私がいる。



 みんなには悲しんで欲しいと思っている私がいながら、自分自身はあまり悲しんでいない。


 



 自分で不思議だった。

 悲しむというより、むしろわくわくするのはなぜだろう。




 


 





 今日の疲れを取るために、私はベッドに横になって目を閉じた。


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