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第二話 私の担当はボケなんです。


目が覚めると私はだれかの家にいた。

そんなに広くはないものの、きちんと整理されている。

私の上には新しくは無いけれど決してボロボロではない毛布がかけられていた。



頭がぼーっとする。

こんなの不眠症になった中一以来だ。





ふと顔をあげると、50代後半くらいのおじさんが手にお皿を持ってこちらへ近づいて来ていた。


「目は覚めたかい?」

日本語とは明らかに違う言葉で、聞いたことも無いはずなのに自然と何を言っているのかわかった。とりあえず こくり、と頷く。


と同時に私の腹部から ぎゅるるる・・・と、なんとも間抜けな音がした。





ぷっ、と笑いながらおじさんは


「そうか、まあとりあえず食べなさい。君はとてもお腹が空いているようだしね」と言った。


顔が少し火照るのを感じながら、彼が差し出すスープを受け取る。

「ありがとうございます」


日本語ではないのに、まるで最初からその言葉を知っていたかのように勝手に口が動いた事に驚く。

しかし、それを悟られないようにスープを口へ運んだ。

瞬間、コーンスープのような味が口の中に広がる。


そのリアルすぎる感覚にこれは現実に起こっていることだと判断する。

私の頭がおかしくなっていないとしたら、そしてあの神が言っていたことが本当ならば、奴は私をきちんと生き返らせてくれたようだ。

しかしもちろんここは私の家ではない。

おっさんは私をどこに生き返らせたのだろうか。


ちらっとおじさんを見ると、それに気付いたように微笑んでくる。




「お口には合ったかな?」

「はい、ありがとうございます」



私は正直神とかは信じていない。

だが、これが現実に起こっていることならばできるかぎり自分の家に帰るのに、人間関係をきちんと築き上げていったほうが得策だ。

そしてここで私を休ませてくれているくらいだから彼なら協力してくれる可能性が高い。

ここが外国ならば日本に帰るには人の助けが必要だ。


私は不眠症なのだからこれが夢である確立は低いだろう。

それにもしこれが現実でなかったとしても保険をかけるのは悪くない。




私は生きるためにはなんでもするし、つねに自分が生き残れるような保険や方法を考えておく。これは子供のころからそうだった。正直計算高くて全然可愛くない子供だったと思う。


しかし、だからこそ今まで社会で上手く立ち回れていたと思う。

だから私はこの、人の良さそうなおっさんにはできるかぎりいい印象を与えたい。





おじさんはにっこり笑って机にひじをつき、指を組んだ。


「ここはどこだと聞きたいのかい?」

「はい」


顔に出ていたのだろうか。

少し驚きつつ肯定する。そしてその事に気を良くしたのか、彼はますます笑みを深めて言った。


「ここはアルバニア王国のエルライトという山の中腹だ。まあ山といってもそれほど高くはないし、比較的近くに町もある。君の名前は?」


アルバニア王国?言語も初めて聞くし、もしかしてここは外国とかじゃなくて異世界とか?

ま、それないな。あはははっははははは・・・

あのクソジジイならやりかねない。


「私は甲斐悠樹と申します。」

「ほお。珍しい名だな。カイユキというのか。私はロドルド・ハルムだ。ところでカイユキは何故あんなところにいたんだい?」


待ってくれよ・・・カイユキて名前だと思ってる?苗字が甲斐なんですけど。

てゆーか私、あんな所ってどこにいたんだろうか。





「私はどこにいたのでしょうか?」

「私の畑に使う肥料の上にいたんだが」

「ぅええええぇ!?なんでだよ!?」



あのおっさんよりによってなんでそんなところに落としたんだよ! 

次に会ったら絶対ぶっ殺してやる!

頬を引きつらせていると、ふと思った。


服は!?

肥料まみれじゃあ・・・

じゃあ何で今、きれいな服を着ているんだぁぁぁ!


またハルムさんは私の顔を見て、何を言いたいのかわかったようだ。



「服は私の妻が着替えさせたよ。」

すると部屋の奥から女の人が現れた。


「もう大丈夫? 風邪はひいてないかしら?」


少しふっくらとして、やわらかい雰囲気を出している。

ハルムさんの奥さんだろうか?



「しかしカイユキはなかなか口が悪いようだな。でもやっと本当のカイユキを見れた気がする」


そう言われて気付く。




猫かぶるの忘れてたああぁぁい!!!





「う・・・うふふふ?」

「私は堅苦しいのがあまり好きではなくてね。先ほどくらい砕けた口調のほうが話しやすいのだが」

「そうよ?私も素のカイユキちゃんがみたいわあ」


いやいや、私の素はさすがにやばいって。

自称神のおっさんに会った時はパニクりすぎて素が出ちゃったけど、あれは今考えてみてら調子乗りすぎたと思うし、 てへっ☆ じゃあ済まされないレベルだと自分で思うし。

てゆーか急に奥さん混じってきたな。

などと考えていると、



「で、なんで肥料にまみれていたんだい?」

「いやこっちが聞きたいわ!」

「あらまあカイユキちゃんって面白いわ。返しがお上手ね」


やっちまったあーい!


肥料まみれにされたってゆーのは、なかなかショックが大きいからつい素がでちゃうわっ

私ったらホントおっちょこちょいなんだからぁもう! てへっ☆

条件反射でツッコンでしまう自分を責める。(?

てか本当にちょくちょく奥さん混ざってくるな。




「もしかして肥料のニオイが好きだったりするのかい?」

「んなわけあるかあー!ってゆーかさっきなんでそこにいたかわからないって言ったよね!?」

「うふふふふっ久しぶりにハルムのボケが聞けて楽しいわぁ。それにカイユキちゃんのツッコミもなかなかキレがあっていいわねぇ」



いやだから奥さん何がしたいの?

さっきからどのポジションに立ってるのかいまいちわかんないんだけど。


この世界にもボケとツッコミっていう言葉あったんだ。

てゆーかやっぱり夢オチですかこれ。

あ、とりあえず頭打ち付けてみようかな。





もう自分でもなにがなんだかわからない。

おっさんの神との絡みのときにそうだったように私の担当はボケなのだ。




「うふふふふふふふふふふっふふふふふふふ」



「ふ」二回に対して一回のスピードで床に頭を打ち付ける。


現実逃避は現実主義者リアリストの私にとって、蔑むもの以外の何でもなかったが、今なら現実逃避をする人の気持ちがわかる気がした。





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