2話 リナ
パチ。あ、やっと起きた。
「う......ここは......」
ボーッとしていた女だが、俺を見てハッとなり、
「すみませんでした!!」
と謝ってきた。やめて。なんだか俺の方が悪く見えるから。
ここは俺が住む洞窟の中。数時間前にいきなり倒れた女を運んだのだ。
『いや、いいよ。別に怪我したわけでもないし』
「しかし.......」
『いいんだって。別にお前の命なんていらないし。それに、人間とは仲良くしたいと思っているからな。それより、いくつか聞きたいことがある』
「......?」
なにやら混乱している女――リナが俺を襲った経緯をまとめるとこうだ。
二ヶ月ほど前、この地にあった村が何者かに襲われ、一晩にして誰一人いない町と化した。
そこには死体すら残っていなかったらしい。
何だそれ、怖すぎだろ。一応気を付けておこう……。
そして、かなりの実力者であるリナは村を襲った何かを討伐するためここに派遣され、闇狼――俺の種族名。狼族の中でも上位種らしい――を発見。
そして俺が村を滅ぼしたと思い、襲ったとのこと。
なるほど――確かに今の俺の身体能力と爪を使えば、頑張れば村一つくらい滅ぼせそうだしな。
でも俺やってないからな!?リナの事情を聞き終え、次は俺の疑問タイム。
まず、俺の頭に入ってくる情報は何なのか。
これについてだが、これは狼族特有の能力――種族固有能力『情報奉呈』というらしく、自分より弱い狼族が得た情報を受け取れるらしい。
俺が受け取ってる情報は結構多いし、俺は狼族の中でも強い方なのだろうか?
っていうか、俺が得た情報も、俺より強い狼族に送られてるってことだよな。
あのただひたすら散歩してるっていう情報を……?下手したら俺の昼寝の回数も集計されてるかも……考えるの止めよう。
次に、女が使っていた風壁防御や十重速撃斬だが、あれはリナが持つスキルを使った技らしい。
リナは風を操るスキルを持っており、あの剣撃の早さなどもそのスキルによって補助していたらしい。
風を操るスキルか……鎌鼬とかあるの?と聞いてみたら、
「鎌鼬?」
と聞き返された。OK知らないのね。しつこく鎌鼬とは何かと聞いてくるので、風による斬撃とだけ教えておいた。
しかし、風を操るスキルか……風による物理ダメージ軽減や、風を刃として打ち出すなど、いろいろと応用もききそうだな。
いつか獲得できたらいいな。
三つ目。先ほど俺の脳内に響いた声は何なのか。
これはリナも知らないらしく、スキルを獲得した時などにその者の脳内に響くとのこと。
それって俺達の行動がそいつに筒抜けってことか?怖いな。
そして一番知りたかったことだが、俺と同じ"転生者"はいるのか。
これに関してだが、転生する者はいるらしい。
だが、それはこの世界限定での話。
違う世界から転生してこちらにやってきた者はリナが知る限りいないとのこと。
とりあえず、知りたかったことは聞き出せた。あとはリナをどうするかだな。
俺は元人間だし、あまり、っていうか絶対人は殺したくないし……。
『お前、俺の仲間にならないか?』
「……え?殺さないのですか?」
『殺さないって。被害があったわけでもないし。殺したくないし』
「しかし……私はあなたのことを一方的に襲って……」
『いつまでそれ言うつもりだ?いいって言ってんだろ。勿論、強制じゃないからこのまま国に帰ってもいい』
リナは迷っているらしかった。そりゃそうだよな。
……一応、言っとくけど食わないよ?
ま、狼に仲間になれ、とか言われたら誰でも不安になるか。
しかし、リナはすぐにどうするか選んだようだ。
「分かりました。これから私は、あなたの下に仕えさせていただきます!」
と、俺の配下になると宣言した。いや、配下じゃなくて仲間なんだけど……まあいいか。
こうして俺に、リナという新しい仲間ができたのだった。
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私は不安な反面、新しい主に期待していた。
この地にあった村を襲った魔物を討伐しろと言われ、出会った闇狼。
私が数年かけて磨いた剣の腕も、その闇狼には全く通用しなかった。どころか、魔物特効を持つ魔滅剣を折られてしまった。
終わりだと思った。剣が折られ、魔力が尽きた状態で勝てるわけがない、食べられると。
覚悟を決め、その瞬間を待った。すると、突然頭の中に声が響いてきた。
『あのー。俺はあなたを食べるつもりなんてありませんよ?』
一体何を言って――そこで私は、魔力量の急激な低下によって気を失った。
目が覚めると、見知らぬ洞窟の中にいて、すぐそばには闇狼がいた。
そして、闇狼を話してみて驚いた。
私を食べないどころか、いきなり襲ってきた私を仲間にすると言い出したのだ。
甘い。甘すぎる。弱肉強食のこの世界では、そんな考え方ではすぐに滅びることになるだろうに。
仲間にはならない――そう言おうとしたが、言えなかった。
なぜかと思い、それに思い至る。
私はこの闇狼の強さに、その性格に魅せられているのだ。
この闇狼は、他のとは違う、何かを持っている――そんな予感がした。
そうなったら答えは一つ。私は闇狼の配下となった。
正直、不安はある。しかし、それ以上に期待が大きい。
こうして、私は新たな主としてこの闇狼に仕えることになったのだ。