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愛された王子様

最終話となります。

よろしくお願いいたします。

ダリルの魔法で麻痺状態にされてしまってから二時間が経とうとしていた。


あの(あと)、僕は王城の一室に運び込まれ、医師による診察を受けたが、クライドの言っていた通り時間が経てば後遺症もなく元に戻るだろうと診断される。


アルフレッドは一旦ホールへ戻り、夜会の主役としての役目を終えてから、再び僕のもとを訪ねてくれた。

ようやく麻痺の効果が切れた僕は、ベッドに寝かされたまま、母上の私室での出来事をアルフレッドとアイザックの二人に話して聞かせる。


母上とダリルの仕打ちにアイザックは憤慨するも、アルフレッドが側にいるため、必死に怒りを抑えているようだった。


「それにしても、いつの間に僕とアイザックの婚約が認められていたんです?」


父にはまだ婚約の話すらしていないはずなのに……。

一通り話し終えた僕は、気になっていたことをアルフレッドに尋ねる。


「正確にいうと、まだ認められていない」

「え?」

「今日が終わるまではまだ時間がある。本日中に承認されれば問題はない」

「…………」


アルフレッド(いわ)く、婚約誓約書に日付を記入する必要はあるが、時間を記入する欄はないのだという。


必要なのは、今日から僕がアイザックの婚約者であるという事実。

そうすれば、ダリルの行為を罪として咎めることができるからだ。


「しかし、父上にはまだ婚約の許しを得ていないのです」

「私から話を通しておこう。そもそもディアナ妃を放置し続けた父上にも原因があるのだ。否とは言わせない」

「兄上……」

「婚約誓約書の件はクライドに任せておけ。お前はゆっくり休むといい」


そう言って、アルフレッドは立ち上がる。


「あ、あの、助けてくださってありがとうございました。僕はずっと兄上から嫌われていると思っていて……その、驚きました」


王都からの追放を言い渡された時、蔑むような視線を僕に向けていたアルフレッドの表情(かお)を思い出す。

正直なところ、まさかアルフレッドが僕を助けてくれるとは思わなかったのだ。


「まあ、あながち間違いではない。私はお前を無能だと思っていたからな」

「うっ…………」


それなら、どうして僕を助けてくれたのか……。


「助けた理由を知りたければクライドに聞くといい」


それだけ言うと、今度こそアルフレッドは部屋を出ていった。

残されたのは、僕とアイザックの二人だけ。


「サミュエル……」


ベッドに寝転んだままの僕の顔にアイザックが手を伸ばす。

そして、僕の目の下を指で優しくなぞった。


「怖い思いをさせたな。俺がもっと早く駆け付けていたら……」

「何を言ってるんだ。アイザックは僕を助けてくれたじゃないか」

「いや、でも……」


珍しく落ち込んだ様子のアイザック。


たしかに、母上に傷跡を醜いと言われたことも、ダリルの執着を()の当たりにしたことも……どれもが恐ろしい出来事だった。


だけど、自分の中でその恐怖が膨れ上がることはない。


それは、アイザックが醜い傷跡を持つ僕を受け入れ、(あい)(あい)される喜びを教えてくれたから……。


──だから、僕はもうアイザックに救われているんだ。


僕は身体を起こすと、今度は僕がアイザックに向けて手を伸ばす。

そして、驚くアイザックの頬にそっと触れた。


「だったら、これからもずっと僕の側にいてくれ。僕はアイザックがいなくなることが一番怖い」


それ以外はたいした恐怖じゃないと笑ってみせる。


「サミュエル……」


感極まったような声で、僕の名前を呼ぶアイザック。

そんな彼を(いと)しいと思う気持ちが急激に込み上げる。


気づけば、僕はアイザックの首の後ろに手を回し、彼と見つめ合っていた。

互いの視線が絡み合い、身体の奥に熱が灯る。


「アイザック……」


思わず、何かを強請(ねだ)るような甘い声が出てしまう。


「サミュエル、これ以上は……」


僕から目を逸らし、苦しそうな表情になるアイザック。


キスをするのは神の前で婚姻の誓いを交わしてから。

その約束を、アイザックは律儀に守り続けてくれている。


だけど、この時の僕はどうしてもアイザックと触れ合いたくて……。


「大丈夫。神様にバレなければいいんだ」


そんな馬鹿みたいな言葉をアイザックの耳元で囁く。

そのままベッドに倒れ込み、神様にバレないよう二人シーツに(くる)まって、僕からアイザックにキスを求めたのだった。



翌日、僕とアイザックの婚約が正式に発表された。


婚約誓約書には昨日の日付がしっかりと記載され、ダリルは処分が決まるまで貴族牢に収監されることが決まる。


おそらく、命を奪うような刑に処されることはないだろうが、貴族として表舞台に立つことは難しくなるだろう。


「これで殿下もひと安心ですねぇ」 

「ふんっ」


僕の向かいに座り、のんびり紅茶を飲むクライド。

対する僕は不機嫌さを隠すことなく鼻を鳴らした。


「おや、拗ねていらっしゃるんですか?」

「うるさい。アルフレッド兄上の犬め!」


そう、僕の従者であるはずのクライドが、実はアルフレッドの命令でオールディス辺境伯領に同行していたことが発覚したのだ。

そして、辺境伯領での僕の様子を、アルフレッドに逐一報告していたらしい。


『理由を知りたければクライドに聞くといい』


アルフレッドが僕を助けてくれたのは、クライドの報告によって、僕が王家に仇なす存在にならないと判断されたからだった。


僕が改心したことや、アイザックとの婚約を望んでいること、ダリルが何やら企んでいるかもしれないことなど……それらの情報がアルフレッドに共有されていたおかげで、僕はダリルの魔の手から救出されたとクライドの口から聞かされる。


「まあ、アルフレッド殿下の犬にでもならないと、あなたと共に辺境の地へ行くことは叶いませんからねぇ」

「むぅ………」


それはたしかにそうなのだが、てっきりクライドは僕を慕っているのだと思い込んでいた。

だから、追放先にまで付いてきてくれたのだと……。


そう伝えると、「自意識過剰ですね」とクライドに呆れられてしまった。


「だったら、もうお役御免なのだろう?」


アルフレッドが僕のことを認めてくれたのだ。

これでクライドが僕に同行する理由はなくなる。


「いえ、これからも殿下とご一緒するつもりですけど?」

「…………」


こいつ、本当は僕のことを慕っているんじゃないだろうか……。


「やっぱり、僕は殿下の側にいるくらいが丁度いいんですよ」


そう言って、クライドは胡散臭い笑みを浮かべ、僕は溜息を吐きながらもそれを受け入れるのだった。



◇◇◇◇◇◇



アルフレッドの立太子の儀から半年……つまり僕たちが婚約をして半年が経ち、僕とアイザックは神の前で永遠の愛を誓った。


式と披露宴を終えて夜を迎えると、僕はふわふわとした幸せな気持ちでアイザックが部屋を訪れるのを待つ。


今夜は初夜。

つまり、夫となったアイザックと初めて二人きりの夜を迎えるのだ。


(ふふっ、楽しみだなぁ)


実は、婚約をしてからアイザックと何度もキスをする関係になってしまっていた。


あの日、自分からキスを強請ってしまったこともあり、ダメだダメだと思いながらも、つい誘惑に負けてしまう。

それに、キスにも様々な種類があるとアイザックに教えられ、上手になったと褒められるのも悪い気がしなかった。


(これからは、堂々とキスをしてもいいんだ)


明日は二人とも休暇を貰ったので、たくさんお喋りをして、いっぱいキスをして、ちょっとくらい夜更かしをするのもいいかもしれない。


そんなことを考えていると、扉をノックする音が聞こえ、寝衣姿のアイザックが現れた。


「ずいぶん機嫌がいいんだな」


そう言うアイザックも、機嫌がよさそうに見える。


「俺たちの休暇だけど、今日から七日間をぶん取ってきた」

「本当か!?」

「さすがに式の翌日だけじゃ味気ないだろ?」


アイザックはニヤリと笑う。


騎士団長を務めるアイザックが、長期休暇を取ることは難しい。

それにもかかわらず、僕と過ごすために無茶をしてくれたのだ。


「だったら、二人で遠出をするのはどうだろう?」


浮かれた気持ちのまま、僕は七日間の過ごし方を提案する。

そう、新婚旅行というやつだ。


しかし、アイザックの口からは予想外の言葉が飛び出した。


「何言ってんだ……。今夜から七日間、あんたをこの部屋から出すつもりはないからな」

「え………?」

「結婚したら覚悟しとけって言っただろ?」


そんなことを言われた記憶はないのだが……。


「初夜について(ねや)教育で学ばなかったのか?」

「ええっと、『アイザックに任せておけばいい』ってクライドが……」


僕の答えを聞いたアイザックはひどく野生的な笑みを浮かべる。


「だったら、教えてやるから……俺に任せて?」


欲望を孕んだアイザックの強い視線に、僕の背筋が粟立(あわだ)つ。

そして……宣言通り、僕はその身を()ってアイザックから愛を教え込まれるのだった。

これにて完結となります。

最後まで読んでいただきありがとうございました!

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