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人類、滅亡させてみました  作者: No.0
ニ章
65/66

思い出の英雄2

☆☆☆


 村へ帰り事情を話すと、村全体でちょっとしたお祭り騒ぎになった。

 しかし、ネーゼのとある一言を聞いた途端空気は一変した。


 その言葉は、「彼らが傭兵である」という事実を伝えた一言だった。

 魔族に家畜として飼われた数日間に及んだ地獄より開放された彼らが、たった一つの事実を知った途端手の平を返した。


 微塵の感謝も示すことなく、この村を救った英雄を追い出そうと画策仕出しのだった。

 ネーゼは憤慨した。


 ここ数日間で、あらゆる憎悪と醜悪な感情に支配されかけた彼女がついに決壊した。


 強靭な精神力を持つネーゼですら許容しがたい事実は、彼女が愛してやまなかった村人への失望へと変化した。


 ネーゼは失望するあまり笑けてしまった。

 村長をはじめとする大人達が集まる会議にネーゼも参加させられた日、彼らが議題に挙げ候補の一つに、商会に助けを求めたらどうか?などとふざけた候補が真っ先に出たことだった。


 自分達を見捨てた商会に、自分達を助けてくれた恩人の討伐を検討しているなど正気の沙汰ではない。


 幼いネーゼは知る由もなかったが、この村でも傭兵は人間として扱われていなかった。

 そしてさらに続け様に事態は動く、なんと商会は傭兵の討伐隊を組んだとの情報がネーゼの元へ舞い込んできた。


 商会は、魔族以上に恐れるべき脅威として認識していた。

 さらにいえば、彼らが真に警戒したのは都へと立ち寄る可能性を危惧してのことだった。


 魔族を一撃で沈めた男が万が一都で暴れることを示唆しての行動だ。つまり彼らは、村人の必死の懇願に答えたわけではなく、やはり守銭奴的な考えをもとに下した決断。


 ネーゼはこの事実を知ったと同時に走った。

 傭兵達がしばらく滞在すると言っていた小屋へと。


 これもまた酷い話である。

 北側に設けられた古びた小屋、そこは使われなくなって久しいとはいえ。


 村から少しばかり離れているせいか、モンスターが溢れかえったちょっとした群生地帯となっていた。


 ネーゼは日に日に大きくなる人間の闇と自分自身の怒りに蝕まれ、自分自身の幼さが憎くなるほどに支配されていた。


 もし、自分が子供ではなかったら?もし、この辺の地形に詳しかったら?

 彼女は絶対に傭兵達をこんな目には合わせなかっただろうと、どうしようもない言い訳をしながら小屋への道中を駆ける。


 しかし、ここは村人が管理しきれなくなった区域の一つである。

 そんな中一人の少女が紛れ込めば、間違いなく恰好の的である。


 が、彼女には天賦の才があった。

 隠し持ったナイフ一つで、襲い来るモンスター達を斬り伏せ突き進む。

 だが、そんな芸当いつまで続けられるわけがなかった。


 いくら卓越した技術や才能があろうと、彼女はまだ少女である。

 体格も、体力も、すべてが少女の範疇である。

 大人が体全身で振り下ろすように斬る工程も、彼女はそうもいかない。 


 ただでさえ少ない体力をより消費し、一体を倒すことになる。

 彼女が両手で数え切れるかきれないかぐらい葬ったところで彼女の足は止まった。


 モンスターについに包囲されたからだ。

 彼女はここにきてついに諦めた。

 怒りを糧に突き進んだ彼女は、信頼していた者達の醜さと傲慢さにここにきて折れしまった。

 そんな折に聞こえたのが


 「何だお主、諦めるのか?」


 と以前にも死の淵にいたネーゼを救った男の声が聞こえた。


 「まぁ、それも仕方ないか。これだけの手数だ。だがなお主、一生を捨てるには死んでからでも遅くあるまいよ」


 そう言って姿を現したのは、あの巨躯の男だった。


 「ほれ、もうちっと足掻いたら何か変わるかもしれんぞ」


 そう言ってネーゼに放り投げたのは、彼女には身に余るほどの剣だった。


 しかし、モンスター達は何か気配を察知したかのように一斉に撤退した。


 モンスター達が姿を消して数分後に現れたのは、商会が差し向けた討伐隊だった。


 「いたぞ!こいつが例の男だな!」  


 「何だ、商会の輩か?また面倒なことになったのぅ。まぁいい。お主よく見ておれ、わしの戦い方をな」


 そういった男はわかりやすく蹂躙した。

 背に携えた大剣を振り、撫でように討伐隊を吹き飛ばす。


 素人目でもわかるほどの圧倒的実力差を見せつけられた討伐隊は、戦闘が始まってものの三分も経たずに姿を消した。

 

 「何だ、この程度の戦力とは随分と舐めらえたものよ。そんでお主、何用でここに来た?」 

 

 ネーゼはすべてをぶち撒けた。

 少女が抱えるにはあまりにも不健康なまでの負の感情を、余すことなく伝えた。


 一層のこと、村人はもちろん都に住むすべての住民が殺されてもいいと思うほどに恨み辛みを込めたネーゼの強い言葉が吐き出された。


 その言葉に男はどう返すのか見つめると、男は豪快に笑った。

 

 「そうか!それは災難だったな。ハッハッ!」


 とネーゼが一人怒り散らしていたことが、子供の癇癪に過ぎなかったと思えるほど豪快に笑い飛ばす。


 「え……。怒らないの?殺されかけたのに……」


 「ん?別に怒るほどのことでもなかろ?疎まれるは強者の証、笑わせるのは英雄の証なのだから」


 ネーゼは予想の斜め上すぎる回答にあっけらかんとした。


 煩悩を捨てるや、雑念を無くすといった人を超えた存在になる。もしくは成れると勘違いしているものより、遥かに高次元なもののような気がした。


 「だがまぁそうだな。儂らが居て争いが起きるのなら、それはいないほうがいいのかもしれんな」


 男はその言葉を最後に、ネーゼを村まで送り届けどこへと姿を消した。


 ☆☆☆


 それから数ヶ月経った頃――村は再び壊滅した。

 ネーゼが山菜採りから戻った時にいたのは、食事をする幼い魔族の子供だった。 


 ネーゼは魔族の女と交わした内容を思い返す。やはりあの魔族の女は、自分の子供に人間を殺す練習をさせていたのだと。


 ネーゼは周囲を見回すと、誰一人魔族に戦おうとするものがいないことを確認して前へと踏み出した。


 傭兵達が受けてきた酷い仕打ちがフラッシュバックする中で、ネーゼがこれまで隠し続けてきた魔法を披露した。


 結果として、ネーゼは魔族を殺すことに成功した。

 年端もいかない少女がやり遂げ偉業。

 数ヶ月前に、まさにこの場所で行われていた地獄の日々を回避したその瞬間に、彼女へと追放のカウントダウンが始まった。


 ネーゼは、その光景を目の当たりにしていた母親に最後の別れを伝えるべく近寄った。


 すると――――


 「ネーゼ。あなたは強いのですね。私は、あなたを産んで誇りに思います。でもね、ネーゼ。あなた以外の人間はそうではないのですよ。ですから、あまり憎まないであげてください。あなたができるすべての事が、誰にでもできるわけではないのですから。だから約束です。強く生まれたあなたは、弱い人達を助けてあげてください。あなたが出会ったあの傭兵達のように。約束していただけますか?」



 

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