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人類、滅亡させてみました  作者: No.0
一章
6/66

王国の華

レナははじめてアルベールに体を向け、対話の意思を示した。それと同時に、今日始めて目線があった瞬間でもある。


しかし彼女の反応はいささか常人とは異なっていた。起こった出来事に反応したのではなく、その手段に興味を示したからだ。


常人はその現象を見ただけで化け物扱いをして終わる。が、アルベールはその反応を待っていた、と言わんばかりに口元が緩んだ。


「おぉーーーーーーーう!美女が私に興味を持ち始めたようだ。どうですか、そのままデートにでも繰り出しませんか?」


 少女の傷を見るため膝をついていたレナに、手を差し出した。


「はぁ、まったく……………。まぁいいわ。用がないなら消えてもらえるかしら、この子の前から」


 レナの中で急激に興味が失せ、汚物を見る目へと変わる。だがそれに反比例するようにアルベールは笑みを浮かべた。


「はっはっはっはっはっ!やはり美女はそうでなくてはな。これは素晴らしいご褒美だ!まさか、マイハニーから汚物を見る目を向けられただけではなく、そんな言葉責めまでしていただけるなんて。これはもう私の事が好きなのでは!?正しくツンデレ!ここまでレベルが高いと、デレがデレの役目を果たしていない!デレまでまさかのツン!ツンツン無双!しかしすまない。あなたとのデートの前に、私にはやらなければならないことがありますので」


 言葉が終盤になるにつれ、徐々に真剣な表情へと変化させる。


「やるべきこと?何、切腹でもするの?」


「いいえ。私はまだ、彼女を笑顔にできていない」


 アルベールはヘラヘラしていた顔をやめ、真っ直ぐと告げた。

 普段からその顔立ちを浮かべれば、自然と女性が寄って来るだろうに。


「レナ、君はどんな花が好きかな?豪華な花?小さく可愛らしい花か?香り高い花かな?」


「………………。」


 唐突な問い。レナの中で急降下したアルベールに答えるはずもない。しかし冷静に静かに語る様は、先程のアルベールと酷似しているところを見つける方が難しい。別人と言っても相違ない。


「つい最近知ったのだが、花には花言葉があるそうだ。心の内にある心の声を、花に託し想いを伝える。とてもロマンチックだと思わないかい?では、私もそんな彼らの真似事をしようと思う」


 優しく少女へ笑いかけ、王子様がお姫様を迎えに行くようにゆっくりと近づく。

 目線を合わせるためか片膝立ちをさせながら。


「よーく見ていてね」


 アルベールは少女の手を掴み少女の顔の高さまで持ち上げた。そして、それを覆うように右手で少女手を包み隠す。


「三、ニ、一」


 アルベールがカウントダウンを唱えると、ボンという音が鳴った。少女はビビって目を閉じてしまったが、ゆっくりと目を開けると。そこには、少女の手の中に花があった。


「ブルースター」


 レナが花の名称を口にすると「ぶるーすたー?」と少女も続けて口にする。


「そう、この花の名前です。小さくて可愛らしい君に相応しい花」


 今アルベールがやってみせた妙技、これは魔法ではない。単なる技術によって身につけたものである。


俗に言うマジックにすぎない。傭兵である彼が仲間の魔法をごまかすため、または、住民達にそれらの不可解な現象を娯楽へと変化させるためである。


後者の思惑はあまりアルベール自身期待していないが、物事すべての不可思議な現象に恐怖以外の感情をもたらし、探究心を深めてほしいという意味合いもそこにはあった。


 つまりは、魔法にたいする恐怖心の緩和。または、探究心への変化を願ってのものだった。


「やっぱり変態ね、あなた。花言葉は一一早すぎる恋」


「ハハハハハハハハハハハハハハハハ!そんなことないさ、一部の地域では『幸せを呼ぶ花』と呼ばれている」


「ありがとうお兄ちゃん!これ、大事にするね!」


 屈託のない笑顔を返し、少女は花を両手で抱くように胸に押し当てて感謝を伝えた。久しく聞く感謝の言葉、見返りを求めない彼ですらこの言葉に笑みを落としそうになる。


「ああ、大事にね。さて、お家はどこかな?お兄さん達が送ってあげよう」


「うん!」


 喜々とする少女の頭を軽く撫で、アルベールは立ち上がる。そして、レナへと視線が動く。言葉はなく、確定事項のように目配せさせる。少女の住まいまで一緒に行くんでしょ?的な、隠微な凝視。


「何、私までいくの?」


「おや?私からこの少女を守らなくていいのかい?」


 そう嘯き、どこまでも愉しそうにレナを眺める。レナはこの視線が嫌いだった。貴族達が向けた視線のそれと同じ類いの視線だったからだ。だからこそレナはローブを纏い自分を隠した。


それなのに、その理由すら見透かし、彼が真に見ているのは自分の外側ではないような視線の正体が得体がしれなかった。


「わかったわ。行きましょうか」


 レナは思考より先に言葉出た。本来であるならば、レナ一人で少女を送り届けるできであろうが、それを許さないなんとも言えない視線が思わず承諾させた。


「よし!これで合法的に美少女と美女を侍らせることができる!」


「殴るわよ」


 少女を家へ送るべく少女を真ん中に挟み、三人で手を繋ぎながら少女の家へ向かった。


「こうしていると家族みたいだね!」


「おっ、いいねー!そうなると、私がお父さんかな?ね、ママ?」


「やめてくれるかしら」


「「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」」


 少女を見つけた場所もそうだったが、今歩いている道もやけに薄暗い道だった。人も殆ど見かけない。


その異様な雰囲気は薄暗い。それ以上の言葉が今も三人の周囲を取り囲むどんよりとした空気だ。正直息が詰まる。


「それでママ、君はどこから来たのかな?」


 それでもまだ幾分かマシだったのは、アルベールの会話と少女の笑顔があったからだ。


「あなた本当にムカつくわね。あと、私があなたに教えると思う?」


「いいや。でも、娘の頼みならどうかな?」


 アルベールは少女を抱き上げ、レナに向けて手をのばす。


「さあ、我が娘よ。母親の故郷を聞くのだ!できれば性癖とかも聞き出してくれると助かる!夜はSかMか!Sなら今すぐ店に行こう!そして鞭を一緒に探しましょう!」


「とんだお父さんね!てゆうか、そこまで知りたいの?」


「いいや、正直どうでもいい」


「わかったわ。私、あなたと会話しなければいいのね?いいのよね?」


 静かに怒るレナと楽しげに笑うアルベールとの間で、少女が疑問を投げつけた。


「ねぇ、セイヘキってなーに?」


 純粋な瞳で問う少女、その視線はなんとレナへと向けられた。夫婦の間でいずれ訪れる子供はどうやってできるの?という、純粋な子供から出た問いとは明らかに数段下劣な問いがレナへと投げつけられる。


 そしてその後ろで、その様子を見て笑みを浮かべるアルベールが最高にムカつく。

 だが運がいいことに、少女はあるものを発見しそちらへと興味がそれる。


「あっ!お母さんだ!お母さーん!」 


 少女は母親を見つけると、二人の手から離れ母親の方へと元気よくかけて行った。アルベールは横目でレナを眺め、嬉しそうにする少女を満足気に見つめるレナに好感度がぐっと上がる。


「ちょっと!どこ行ってたの?」


 少女は母親に抱きつくと、興奮気味に話し始めた。


「あのね!あのね!あのお兄ちゃん達が助けてくれたんだよ!しかもね、傷を一瞬で治しちゃったんだよ!すごいでしょ!」


 少女から発せられた子供特有のテンションは、この辺の静けさをより強調させた。この国を初めて入ったあの場所と、今アルベール達がいるこの場所が同じ国だと思えないほどに明暗がハッキリしていた。


そして、少女の何気ない一言。自分に起こった奇跡とも呼ぶべき衝撃と興奮を、喜々として母親へと満面の笑みで伝えた。この頃の子供なら誰でもそうだろう。


自分にしかない体験。それを身近な誰かにでも教え、その反応を見て何よりも喜びを得る。何も知らないからこそ知る喜びがあり、それを教える喜びも知る。しかし、喜々として喋る少女にたいし母親の反応は異なる。対局と言っても過言ではない。


「そうだったの。あの……………ありがとうございます」


 母親はよそよそしく、少し軽蔑に似た眼差しを向けながらアルベールにお礼を告げた。自分の常識が通用しない相手を前に、彼女は恐怖を感じていたのだ。


それは、あの少女が言っていたことに関係してくるのだろう。この世界には、魔法が使える者が少ない。


つまり、魔法が使える者は異端者として扱われてしまうのだ。どこの世界、どの時代でも多数派は正義であり少数派は悪とされてきた。魔法を認めない。これそこが、今人類が他種族に太刀打ちできない最大の理由だというのに。


「いえ、私だけの力ではありません」


 アルベールはいつも通り振る舞った。母親が向ける嫌悪感丸出しの視線など痛痒でもないかのように、それよりアルベールが気になったのは、寂しげに音を奏でる吟遊詩人だった。


冷たく静かな演奏は、今この場所にとてもマッチしていた。しかし、アルベールは気に入らなかったのか吟遊詩人と何やら話をし始めた。


数秒後、アルベールは吟遊詩人が弾いていたルネッサンスリュートを借りると。しばらくの沈黙ののち、ゆっくりと聴かせるように奏で始めた。


とても陽気で、とても美しく、とても柔らかい音だった。聴くものすべてを和らげ、思わず聞き入ってしまうほどの。


「なんだ?なんだ?」


 静まりきったこの場所にふさわしくない音楽は、住民達を引き寄せ虜にする。


「音楽だって魔法と一緒。使えば人々の注意を引き、奏でれば人々の心を癒す。さあ踊りましょう!」


 アルベールは音楽にあわせて軽く身体を動かし、緩やかに、時に激しく、全身で演奏を奏でる。


「何だか楽しそうだな」


「そうだな…………………」


「よし、俺も踊るぞー!」


「私も!」


 住民達が陽気な音楽にあわせて踊り始め、楽器を持って勝手に演奏する者もいる。まとまりがなくどこか暖かい音楽は、舞踏会さながらに住民が集まり空気を一変する。


たった数秒、レナがこれほどまでに瞬時に流れが変わったことに瞠目していると、不意にグイッと何かに引きずり込まれた。


「ちょっ、ちょっと!」


 壁に寄りかかりながら腕を組んでいたレナが引きずりだされたのは、舞踏会の中央。と言っても、場所は少女の母親を見つけた四方八方に入り組んだ道だが。


「私と踊ってくれませんか?」


 そう言ってレナの手を離すと、アルベールはそのままレナの前へと差し出した。


「おっ?チークダンスか?いいぞー!いいぞー!」


「ヒューヒュー!」


 本物の舞踏会じゃないのだから仕方がないが、品のない観客が煽り立てる。そこに、レナは鋭い目をつきたてる。眼差しだけで殺してしまえるのではないかと思えるほど恐ろしい目つきで。


「ひっ!?」


 蛇に睨まれた蛙。まさに、今この時のためにある言葉だった。しかしアルベールには通じるはずもなく、半ば強引に抱き寄せ舞台に華を添える。


「あなた……最低ね」


 恥ずかしそうに赤面し、少し怒りを含むその言い方はアルベールの嗜虐心を駆り立てる。


「ええ!最低ですよ!」


アルベールは激しく動き、注目を集める。恥ずかしがっていたレナも、アルベールから始まったたった一つの演奏に心が踊らせていた。


 国一番とさえ思わせる美姫の手を引き、縦横無尽に跳ねるアルベールは間違いなくこの場を支配した。気がつけば数十人近くの人が踊り、ちょっとしたパーティーになっていた。


「どうですか、私のダンスは?私が始め、皆が踊り、あなたが笑う。さすれば、世界はこんなに輝いて見える。私のもう一つの魔法。次はあなたが笑い、私を笑顔にしてください」


 演奏もいよいよクライマックス。より一層陽気に鳴り響く音楽と楽しさに魅入られ、レナも思わず笑みが溢れる。


「チャンチャーン!!!!」


 各々最後の決めポーズを決め、スタンディングオベーションの嵐に包まれた。


「良かったぜー!あんたら!」


「ええ。こんなに楽しいのは久しぶりだったわよ!」


 数刻前まで晒していた住民達の死に顔は、たった数分前に訪れたアルベールに見事に絆されていた。誰が想像できただろうか?この男がなすこの一連の騒動の一端を。


おそらくこれがカリスマ性とでも言うのだろう。人々を魅了し、惹きつける力を。

 だがそんな喝采の中一一突如、金属音が鳴り響く。

お読み頂き、ありがとうございます。


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